第31話 き、貴様……
七日後、アナン公国王都ベッセルバルムに到着した。
バカラ帝国帝都アルケディアが『大陸の贅を全て集めた都』と称される一方、アナン公国王都ベッセルバルムは『花の都』と評されている。
街路の至る所に花が咲き乱れており、まるでこの王都の賑わいを祝福しているかのようだ。ノーザルとは違い、洗練された美しい建築物が歴史の長さを物語り、煉瓦を基調とした建物は全て橙の色に統一されている。
さーて、まずはアナン公国チョコを買いに――
「言っておきますけどジーク先生。観光じゃないんですからね。観光じゃ」
後ろからオータムの声が鳴り響く。
「わかってるよ、うるさいなぁ」
そうため息をつきながら、王都ベッセルバルムの地図を拡げる。
マンドラゴラの捜索のため、俺とオータム、サリーで旅することになった。
アナン公国にしか生息していないといわれているマンドラゴラ。しかし、それが確認されたのは25年前。恐らく、アナン公国中の生息地を巡っても見つけることは不可能に近いだろう。そもそも、大陸中を旅してるマギ先生が見つけられないのだからにわかが探して何とかなるものでもあるまい。
「ジーク先生、ここ左に曲がったら『ロイヤルオークショニア』ですよ」
ロイヤルオークショニアは金さえあれば大陸に存在するものが全て手に入ると言われている競売所だ。
「そこも行かないって」
お金で買えるものなら、マギ先生がすでに買っている。あのジジイはどんな魔草でも買えるように、資産を山のように持っている。
「じゃあ……どこに行くんですか?」
「だから、知り合いだって。お前も知ってる人だよ、オータム」
「私も?」
まあ、行けばわかる。
・・・
到着したのは、アナン公国貴族の高級住宅街だった。
「……き、貴様」
「お久しぶりですゴードンさん。実は教えていただきたいことが――」
「よくも俺の前に姿をおめおめと見せれたものだな」
あ、あれ……ゴードンさん怒ってらっしゃる。
「そりゃ、いろいろありましたけど……一度拳を交わせばもう親友と呼び合ってもいいじゃないですか」
だいたい男ってそういうもんでしょう。
「脳みそ腐ってんのか貴様はっ! あの後、親族、友人、ご列席の方々への謝罪と説明に追われて……特に妻への釈明は地獄だったぞ」
そ、それは申し訳ないことをした。
「ゴードンさん。いろいろ迷惑おかけして申し訳ありませんでした」
オータムが申し訳なさそうに深々と頭を下げる。
「あ、あなたが謝ることじゃありません。あなたは全然悪くないんです。ところで今日はどうしたんですか?」
「実は、魔草のマンドラゴラを探しに来てるんですけど心当たりありませんか?」
「マンドラゴラ……いや、最近ではその報告は来ていませんね。アレは異常気象の際に偶発的にとれる魔草だと聞いています。少なくとも私が騎士団に入ってからはそんな気象にはなってませんし、ほかの貴族が持っているという話も聞いたことがありません」
ゴードンさんの話を聞いて、かなり期待感が薄れた。
あてにしていたのは、アナン公国の貴族が持っていること。希少な魔草なので破格な値段で取引されているのは間違いないが、市場に出回らないところを見るとすでに消費されているか、コレクションとして金持ち貴族が保有している可能性が高い。
前者はどうしようもないが、後者ならば貴族であるゴードンさんが何か知っているかもしれないと思ったからだ。
後者も違うとなると、やはりすでに消費されてしまっているか。
「……そうですか。すみません、こんなところに押しかけてしまって」
オータムが甲斐甲斐しく頭を下げる。
診療所以外の人と接するときだけ、異様にオータムが可愛く見えるのは俺だけだろうか。
「いえいえ、お力になれなくて申し訳ない……ただ……それを見つけられそうな人ならば心当たりがありますがね」
「本当ですか!?」
「ええ……アナン公国のとある修道院に探し物を導いてくれる女性がいるとか。その的中率はほぼ100%だと噂で」
「それは凄いですね。どこの修道院ですか?」
「いや、そこまでは……すいません」
ゴードンさんはオータムに申し訳なさそうに頭を下げる。
「何を言ってるんですか! 本当にありがとうございました。早速、修道院をしらみつぶしにあたってみます」
「お役に立てたのならよかった。どうか、お元気で。あっ、ジーク」
「はい、ゴードンさん。このお礼は必ず――「地獄に落ちろ!」
どうやら、めちゃくちゃ嫌われていたようだ。
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