第29話 マギ=ワイズバーグという男


 会議を初めてすでに2時間が経過。決まらない結論。白熱しない議論。

 そろそろ、みんな集中力がきれてきてる中、ひたすらロスだけ真面目に考えている。


「だいたい、マギ=ワイズバーグ先生がいるじゃないか。兄さんこそ師匠なんだから頼ったらいいじゃないか!」


「ロス……お前はわかってないんだよ、あのジジイを」


 そもそも、俺を特例で医療魔術師にしたのが魔草師兼医療魔術師のマギ=ワイズバーグと言う男だが、今思い返してもとんでもない男だった。

 通常1年間は、医療魔術師助手として師事した先生に従事しなければいけないが、このジジイのおかげで通常の医療魔術師とは全く異なった生活を送ることになった。


 森、砂漠、川、海、至る所に派遣されサバイバル生活を余儀なくされた。もちろん、食料の支給などは一切なく、食べることができる魔草を探す日々。

 何を教えてくれる訳でもなく、自身に魔術行為の一切を封じられ、ドラゴンやオーガなど魔物に襲われて逃げ惑う毎日。

 毒草を引き当てて、食中毒で死にそうになったことなど数がしれない。


 後から聞いたのだが、研修期間は指示する医療魔術師の在籍している診療所で従事するだけで、こんなサバイバル生活など、どのメニューにも存在しない。


 研修期間を開けてからも、このジジイは定期的にグリスを派遣して高価な魔草を送り付けてきた……相場の数十倍の金と引き換えに。

 それでも、買わざるを得ないのはそれが稀少な魔草で入手自体が困難なことにつきる。


「何言ってるんだよ。あの人は医療魔術師界の生ける伝説だよ? 人格者としても有名な方だし、きっと力になってくれるよ」


 相変わらず、その邪悪な本性を知られてないなあのジジイは。

 『レジッタ』として、地位を確立し珠玉の医療論文を次々と発表していくマギ先生の評価は最高峰と言える。

  医療魔術協会は全大陸共通の組織だ。その高名を利用して、各国の許可を得て、自由に大陸全土の魔草を収拾する。彼にとって医療魔術の活動とはそれぐらいの価値のモノだ。


「……まあ、マギ先生と交渉するにしてもどこにいるかもわからないのに交渉なんてしようがないだろう。弟子の俺が取れないんだから他の奴なんて取れる訳ないし――」


 あの男は大陸中を旅しているので、どこにいるのか一切わからない。たまに、グリスを通じて連絡が来るが、それ以外こちらから連絡を取る手段はない。


「えっ……私、連絡取れるけど」


 ……ええええっ!?


「オータム……それ本当か?」



「う、うん。だって、私の師匠だし。なかなか時間が取れない私の代わりに、いつも魔草送ってくれるし。魔草の特徴、魔力の捉え方とかを丁寧に記して送ってくれるし」


 そ、そう言えばこの前もフラっと来たことあったな……同じ弟子なのにここまで待遇が違うものなのか……


「あの……俺も連絡取れるんだけど」


 ……ええええっ、ロスも?


「なんでお前が!? 弟子でもなんでもないじゃんお前」


「いや、二年前に学術論文の発表会があってそれ以来興味深い魔草を医療魔術研究所に寄付して下さって――」


 ま、マジかよ……弟子の俺には数十倍の値段で売りつける癖に……寄付!?


「あの……私も」


 サリー!? な、なんで! 


「そもそも、この前初めて会ったんじゃないの? なんでマギ先生と!?」


「いや、この前に『可愛いね』ってナンパされて……それ以来魔草と一緒にラブレターが」


 あ、あのーエーロージジィ! 俺はナンパ相手以下の存在か!?


「で、最近の手紙によると明日あたりこの診療所に遊びに来るって――」


「オータム、サリーちゃーん。じーじが遊びに来たよー♪」


 ……もう、好きにしてくれ。

 


 

 

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