第21話 ボードゲーム②

――いや、何を言ってるんだ。気を取り直してボードゲームを続けなければ。

初めてのボードゲーム……すっごく楽しみにしてたんだ。


 こんな終わり方じゃ……もう二度とボードゲームやれねぇよ。


「……さ、三。あーっ、三かぁ。ええっと……『生涯の選択』……結婚か独身かをルーレットで決める。一から六までだったら『独身』、七から一二までだったら『結婚』だって。さっ、もう一回まわして」


「……」


 な……なんか言えよ。

 ガラララララッ……

 頼む……七以上……オータムの機嫌が治るように……七以上……七以上……七以上……


「……八! おー、よかったじゃねえか。結婚、結婚できるぞ。これが夫だから。その馬車にさして二人乗りにして。よっ、おめでとう。いやーっ、うらやましいなぁ、ザックス」


「そ、そうですね。あっ、オータムさんもしかして結婚する人に名前つけちゃったりするんですかぁ」


 ザックス! ナイス、ナイスフォローだ。いつまでもこんな空気なのに、いたたまれなくなったに違いない。凄く無理矢理だが、明るく盛り上げてくれているのがわかる。


「……ジーク先生」


 オータムが手渡された夫を見つめながら、ボソッとつぶやく。


「お、俺? いやぁ、まいったなぁ。別に架空でもいいのになぁ。なあ、ザックス」


「そうですよ。もう、オータムさんたらっ! ヒューヒュー! ヒュ――」


 バキッ…………ポトッ…………

 ……ぎゃああああああああああ人形の首が―――――


「……ははっ」


 サリーが苦笑いしながら我関せずに切り替えた。

 ジークと名付けられた人形は、首がもげて地面に転がっている。

 どうすんだよ……この殺伐とした空気。


「まあ……離婚……という選択肢もあるからね……ははっ。ははははは、はははははははは」


 笑え! ジーク=フリード。こんな時こそ自信を持て。こんな時ほど堂々と。患者が不安にならないように、お前の自信を持った笑顔でどれだけの患者を安心させてきたことか。今こそ、自信をもって100%の笑顔で笑え。


「……何がおかしいのよ」


 ……笑えない―! ごめん、俺、笑えないよー!


「ま、まあオータムさん。落ち着いてください。これから、これからどうするかが大事なんですから。何もすぐに医療活動ができなくなるわけでもないし」


 ザックスー。やっぱりお前はいい奴だー。その通りだー。頼むから機嫌治してくれー。


「……ふぅ。そうね。ジーク先生だったら仕方がないかもね」


 オータムもやっと納得してくれたようだ。


「オータム……申し訳ないけどよろしく頼むよ。じゃあ、気を取り直して『ライフ・デッドゲーム』を――」


 そう言いかけたとき、オータムが突然立ち上がって木製のボードを手に取った。


「ちょ……おまっ……何をっ……」


 バキッ…………バキッ……ゴトッ…………

 俺の、『ライフ・デッドゲーム』は、こうして終幕を迎えた。


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