第20話 ボードゲーム


【ジーク=フリード】


 ガララララララララッ……

 車輪音が妙に大きく聞こえるのは、この馬車内が静寂に包まれているに他ならない。


 車内にいるのは、俺とザックス、そしてオータムの三人だが、そこに会話は一切発生していない。


 オータムに俺の不合格を伝えた結果、口も聞いて貰えず無視され続けて一二時間が経過。沈黙の音が……やけにうるさい。


 ちなみに、オータムは首席合格。筆記、実技共に史上最高の試験結果で、五階級飛び級らしい。あのロスでさえ三階級飛び級なのに、助手とは言え恐ろしいことこの上ない。


 そして、なぜか当の本人の俺より、ザックスとオータムのほうが落ち込んでいる。


「な、なあ元気出せよ。ほらっ、試験落ちちゃったけど何とかなるって」


「……」


 無視……つ、辛い。


「しょうがないじゃないか。ほらっ、俺って試験勉強とは無縁だし全力でやったんだから。結果は……その……アレだけど……」


「……」


 む、無視……気まずい。


「元気出せって! だいたい、みんなは真面目すぎるんだよ。ほらっ、俺なんてこーんなに元気! 落ちたのに、こーんなに元気!」


「……ッチ!」


 舌打ちー! 助けてー! 誰かこの空気から助けてくださーい!


「そ、そうだ、せっかくだからゲームしよう。ほらっ、ボードゲーム。聖都パレスで面白そうなやつ買っといたんだぁ」


 『ライフ・デッドゲーム』。

 主人公レスターがこの世知辛い世の中を暮らしながらも億万長者になったり、没落したりしていくゲーム。

 はっきり言って、今までボードゲームなどやる暇がなかったので実はすごく楽しみにしていたのだが、それがこんなところで役立つとは。

 木製の盤をカバンの中から出して車内の真ん中に広げた。


「……」


 耐えろ、ジーク。この沈黙に耐えるのだ。ボードゲームさえ……ボードゲームさえやればすべて解決するはずだ。

 すぐさま、二人にゲームのお金を配る。


「じゃあ、スタート! 一番は、ザックスからね」


「……はぁ」


 仕方なさそうにザックスが、ルーレットを回す。


「……七。七かぁ。なかなか、いい数字なんじゃない」


 そう言ってザックスの代わりに駒を動かす。


「えーっと……どーかなー。七……七……『魔術学園試験に落ちて、無職になる』。わははっ、ザックス。いきなり無職じゃーん」


「……あんたじゃん」


 オータムの冷たいツッコミに、なんとも言えない苦笑いを浮かべながら震える手で駒を『無職コース』に動かす。


「じゃ、じゃあ次はオータム。はーい、元気出していこう」


「……」


 カラララララッ……

 一つ分かったことが、ある。

 ルーレットの音が聞こえるほど静寂な空間の中で執り行われるボードゲームは……地獄。

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