第19話 ですよね


 ジーク先生、魔力判定試験〇点。もはや、不合格なのはわかりきっている。

 最終試験。魔草学の試験。

簡単に言えば、以下同文で、〇点だった。


「じゃあ……試験結果を発表する……全員合格」


「まあ、とうぜ――「ジーク先生以外」


「……えええええええええっ! 俺、不合格なの!?」


 残念です。残念ですが、当たり前の自業自得です。

 筆記試験は、平均五点。魔力測定試験一〇〇点。実技試験〇点、魔草学試験〇点。

……ぶっちぎりの最下位だから。


 俺のミスだ……この人の人格と実力を見誤った俺の。


「ザックス先生! この試験……おかしいと思います」


 受験者の一人が震える声で叫んだ。


「僕も……おかしいと思います! こんな凄い医療魔術師が試験に受からないなんて!」


「僕も」「私も」「俺も」……


 口々に擁護する声があがる。

 受験者が若手ばかりだからだろうか、すでにジーク先生のとびぬけた実力に皆心酔しきっていた。


「受験者全員で抗議すれば、協会だって考え直してくれますよ」


 熱の籠った口調で受験者の一人が口にする。

 若い者ほど熱意があれば何でもできると思うものだが、当然ながら世間も協会も、そうは甘くない。それは、一重に協会の体制がおかしい訳ではないという事。

 試験制度は、一般に非常に有効な制度だからだ。そして、ジーク先生のようなある点においてのみ突出している者はその有用性に排除されてしまう。

 その点をどう考慮に入れて協会を説得するか……要はそれにかかっているが。


「タイラー、貴様はこの試験……どう思ってる?」


 協会を唯一説得できそうなのはタイラーだ。現医療魔術研究所副所長の奴が言うならば、特例と言う形で――


「認める訳ないだろうあんな奴!」


 ――でしょうね!

 となれば、もはや裁定など覆る余地がない。理も権もあちらにあるのだから。

 むしろ、ここでは騒がずに別の方法を――


「タイラー先生はジーク先生の実力を見てなかったんですか!」「そうだそうだ! あんたより腕がいいのに、ジーク先生を落とすって言うのか!」「だいたい、いつも偉そうにして何様なのよ!」「そんなだから、他の研究所員から嫌われまくってんだよ!」


 そんな受験者からの罵倒が口々に飛び、怯むタイラー。

 恐らく、今までの不平不満も溜まっていたのだろうか勢いがとにかく凄い。


「みんな……気持ちはわかるが、そんな事をしたって裁定は覆らない」


 そもそも、当人であるジーク先生が若者たちの熱気に押されてひきまくっている。

 極度のめんどくさがりであるこの人は、あまりこういうゴタゴタを望まない。


「ザックス先生はこのままでもいいんですか? 僕らは断固として戦いますよ」


 大分盛り上がってしまって、今にも協会事務局に乗り込んでいきそうな勢いだ。


「……何千人単位のデモならいざ知らず、こんな数十人で押しかけたところで、いったい何になると言うのか」


「なんになるかじゃないんです! なんとかしなきゃいけないんです。なあ、みんな」


 そう、リーダー格の人が叫ぶとたちまち周りから歓声が湧いた。


「乗り込むのよ! みんなで事務局に抗議活動だ!」


 口々にそう声が挙がり、みんな席を離れて協会事務局に向かう。


「なんか……凄いことになって来たな」


 あんたが言うなー!

 だが、この熱気……もしかしたら、意外となんとかなってしまうかもしれない。

 失敗してもどうなるわけでもない……やらせてみるか。


                       ・・・

 医療魔術協会事務局。


「……そんなん無理に決まってるでしょう」


 受付の女の子が不機嫌そうに答えた。


「で、でも! ジーク先生は素晴らしい先生で――」


 そう受験者の一人が食い下がると、受付の女の子が机をドンとたたきつける。


「阿呆ですか! 試験落ちたら不合格なんです! そういうもんなんです! 私、一七時までなんですけどあんたたちのために残業してるんですよ! 今日デートなんですよ!」


「……」


 こうして、医療魔術師試験は終了した。

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