第14話 医療魔術師のクズ
医療魔術研究所には、一般向けに開放された診療室がある。それは、この施設が研究機関であるとともに、臨床も司っているからだ。
受験者たちを誘導し、やがて多くの患者たちがいる大診療室に到着した。ここは、医療魔術研究所内で一番広い部屋で、ここで働いている若手の医療魔術師が軽症患者を治療するときなどに使われる。
「これより、実技試験を始める。一時間以内に何人の患者を治療できたかで採点を行う」
通常の医療魔術師は軽症患者だったら、一人約一〇分。一時間あれば六人は治療することができるだろう。ビジターの合格ラインは三人。
通常の医療魔術師が一時間はかかるほどの重症患者を五分で治療してしまうジーク先生にとっては造作もないことだろうが、さてどうなるか。
壮絶な決意を込めて作成した不正答案を無駄にしてくれたおかげで、もはや、ジーク先生の昇級はなくなったと言っていい。
もうすでに医療魔術師免許が剥奪されることは、奇跡が起きない限り確定であろう。もはや俺の庇う気も失せている。
「では……始め」
その掛け声とともに、一斉に受験者たちが動く。こぞって軽症患者を捜し、治療を行っていく。
一方、ジーク先生は患者の前を歩き続けるだけ。
待ちくたびれた患者が堪らずジーク先生の前に出た。
「あの……俺、ここすりむいちゃって――」
「唾なめとけや!」
……試験ー! 試験だよこれー!
「ジーク先生! 早く治療してくださいよ」
「えーっ、かすり傷ばっかじゃん。これだったら、自然治癒で全然いいって」
「だから、これが試験ですよ! 真面目にやって下さいよ」
いつも診療所内で閉じ込められている反動だろうか、解放された時の自由度具合が半端じゃない。オータムさんの苦労が少しだけわかる気がした。
「……」
無視っ!
「……よしっ、この子。この子に決めた」
そう言って、若い女性の患者を指差す。
まさか……そこまでアレな訳……
「ちなみに……なぜ、その女性を?」
「ん? タイプだから」
ク……クズ野郎……
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