第6話 いい具合にクズ
「どうするんですか?」
サシャとの一連のやりとりを眺めていたオータムが聞いてくる。
「……俺が聞きたい。どうすればいいかな」
全然話聞かないんだけどあの子!
「まぁ、前々から不思議な子だと思ってましたけど。全然働かないし、努力しないし、傲慢だし、自分大好きだけど悪気は無いんですよね」
最悪じゃないかそれ。
「……手紙でも書こうかな」
一人一人に熱い戦力外通告の手紙を書いて伝えるんだ。もう、やめて欲しいって。
「多分……伝わらないと思いますよ」
オータムが困り顔で言う。
確かに……チャに渡そうとすると、代わりにマーサさんの検閲が入りそうだ。サーシャは誤釈し、ジャシャーンさんに至っては文字が見えるかどうかも謎だ。
まさしく、あいつらは我が診療所の癌だ。
「……他の方法を考えないか? だいたい三人クビにしただけで経営状況がすぐに改善されるわけじゃないし」
「そんなの駄目ですよ。まずは、一番無駄な出費から抑えていかないと」
オータム……さらっと酷いぞ。
でも、本当に困った。雇う時は深く考えなかったが、人を解雇するって事がこんなに難しいとは思ってなかった。
「やっぱり朝礼とかで言った方がいいんじゃないですか? 個別に言うより三人に言った方が手間が省けますし、言いやすいでしょ?」
うーん……まあ、その方が確かに効率もいいけど人としてどうなんだろうかと少しだけ考えてしまう。
「……さすがに一対一で言い渡すのが、雇った者の務めなんじゃないか?」
「いや、ジーク先生がそれで頑張るって言うならそれでいいですけど――」
「……ま、まあしょうがないよな? 悪いのあっちだし、非常事態だしね。いいよ、その案採用しよう!」
「さすがに……いい具合にクズですね」
ほっとけ。
次の日、朝礼で医療魔術師全員を呼び出す。
そこには、サシャ、チャ(マーサさん付き)、そして奇跡的にジャシャーンさんの3人がいた。
「ええっと……君たちに集めまって貰ったのは他でもない。本日をもって、サシャ、チャ、ジャシャーンさんの三人には辞めてもらう」
思いきって言いきると、周りがざわざわ騒ぎたつ。
「……それは……クビって事ですか?」
マーサさんが震えるような声を発した。
「は、はい。そうなります」
「……わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
マーサさんが地面に這いつくばって泣き始めた。
他の医療魔術師や助手たちの刺さるような視線が痛すぎる。
「お、落ち着いてくださいよ。そんな人生が終わったみたいに。ただ、医療魔術師の才能がないだけで別に死ぬわけじゃないですし。その涙は患者になって来てから流してください……なーんちゃって」
……当然、そんなお茶目な冗談が受けるはずもなく、なお一層、冷たい視線が俺に突き刺さる。
「やっぱり……嫉妬……ですよね」
サシャがボソッと呟いた。
「……もう、なんでもいいから」
あきらめるようにそう呟くと、サシャが大きくため息をついた。
「いくらなんでもこんなの……酷いと思う」
給料もらってるくせに、全然頑張ってくれない君たちは酷くないのか。
「そうよ! 不当よ、不当解雇だわ! ジーク先生、私は断じて認めません。ええ、認めませんとも。さあ、行きましょう。チャちゃん」
そんな不吉な事を言い残して、マーサさんがチャちゃんの手を引いて去って行った。
「……えいっ!」
サシャもそんな呪いの言葉チックなおまじないを残して走り去って言った。
ジャシャーンさんは……寝ていた。
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