第41話 オータム、魔草師になる④
「オータムさーん……もう歩けませーん」
そう言って弱音を吐きながら座り込むサシャ。大きくため息をつきながら立ち止まって地図を見る。絵心の無いゴブリンのくれた地図を解析した結果、ゼノ族の集落の近くであることがわかった。
ゼノ族に私の最も尊敬するゴブリンがいる。ゼノ族族長の息子であり、かつて私の師匠であったグリスさんだ。このカップルとティンバーと言うゴブリンがゼノ族であれば、おそらく話は簡単だ。
ゴブリンの集落を出て、更に北に半日ほど歩いた。途中雨が降ってきてビショ濡れになりながらも、親切なゴブリンから貰った地図を何とか解読して目的地の小屋に到着した。
その小屋は扉、窓、全ての大きさがゴブリン用でかなり大きく広かった。見張りは……いないようだ。こそっと小屋に近づき、恐る恐る窓を覗き込んだ。あっ、いるいる。2匹ともさっきのゴブリンと同じくらいの大きさだ。なにやら人質らしき子が……アレ、マギ先生じゃないよなぁ、女の子だし。よし、窓をソーッと開けよ――
「ナニモノダ。アナンコウコクキシダンノモノカ?」
げっ、バッチリ見つかった。こっちをジーッと見つめてる。
「何を訳のわかんないことを。人質を放しなさい」
開き直ってそう答えながら、どさくさに紛れて小屋の中に入った。1匹のゴブリンが人質の頭を巨大な手で覆った。少し力を入れればドラゴニアフルーツのようにグシャっと簡単につぶれてしまいそうだ。
動くと人質を殺すってか、くっそぉ。
「ヒトジチコウカン」
人質の頭を掴んでるゴブリンが言った。
「……交換? 誰と?」
「トボケルナ! グリスサマトコウカンダ!」
もう片方のゴブリンが声を荒げながら壁を叩き壊した。
「グリスさんと? 何言ってるの?」
「トボケルナオマエラグリスサマツカマエタ。ダカラグリスサマカエッテコナイ」
なんだ。やっぱり騙されてるこのゴブリンたちは。
「あのねぇ。あんな化け物みたいに強い人そう簡単に捕まえられるわけないでしょ! さあ、そこの人質返してよ」
「グリスサマカエサナイナラ、コイツカエサナイ」
もうっ! だからバカって嫌い。
「わかったわよ、サシャ、そこの人質とちょっと待っててくれる? このゴブリンたちと悪い人間たち倒しに行くから」
「ええっ!? 普通逆じゃないんですかぁ?」
「グリスさん人質に取ってるって語ってるだけでも詐欺師決定なのよ。大方、アナン公国騎士団って名前語って威張ってるクソ野郎どもに違いないんだから。行くわよ、カップル!」
「オレ、ティンバー」
「と、とにかく行くわよ」
「ダメ、オレタチハツヨイモノデナイト――」
以下省略で締め上げた。
・・・
自称アナン公国騎士団のアジトに到着した。休憩なしでずっと走りっぱなし。ゴブリンたちの心肺機能はどうなってるんだ。カップルもティンバーもあれだけでデコボコの刑にしてやったのに息もきらさずついてい来た。さすがは大陸最強のゴブリン族であるゼノ族の戦士だというところか。
「アソコ、グリスサン、アソコニイル」
そう言ってティンバーがアジトを指差す。
わかったから、ちょっとだけ息を整えさせて貰っても――
「グリスサマヲカエセエェ!」
突然大きな叫び声出しやがった。周りがパッと明るくなったと同時に弓が数発飛んできた。刺さったら血がドバーッて出るぞ多分。どっちなんだ突然叫びやがったバカは。カップルか、ティンバーか。
「ま、待って! 誤解です聞いてください!」
本当の事を言うと、敵方から事情も聞きたかった。何か行き違いがあったのなら話せば解決できるし、もし違ってもか弱く可愛い私には油断しているに違いないのだ。
そんな中、カップルとティンバーが前に出た。
「ニンゲンドモヨォォォ! カクゴシロー!」
「カクゴシロカクゴシロ!」
「ちょっとー! あんたたち少しは自重しなさいよ」
バカなんだから!
「エ……アジトヲセメルンジャナインデスカ?」
「こんの……バカヤロー!」
んもうっ、バカって嫌い。ほんっと嫌い。
アナン公国の騎士たちが次々と襲ってきた。どうも想像と違う。連携のとれた動きでよく訓練されている。恐らく、正規の兵隊たちだろうか。名を語った夜盗かと思っていたが。どちらにしろ、もう遅いんだけどね。カップル、ティンバーが猛っちゃってすでにアナン公国騎士たちを蹂躙し始めてるし。
「……仕方ない。カップル、ティンバー。殺さない程度に好きなだけ暴れなさい」
「ぎゃあああ――」
こっからはカップルとティンバー、凄かった。薙ぎ倒す薙ぎ倒す……2人ともやっぱり強い。私よりは弱いけど。でも、騎士はまだ100人以上いる。
狙いがゴブリンに集中している今のうちに――
「そこっ! そこにいるぞゴブリン、そこっそこっ!」
ごめんカップル、ティンバー頑張って。私、先行ってる。全力で叫び、2
匹ゴブリンを囮にしてアジトに突入した。
さすがに女がゴブリンと仲間だとは思わなかったのか別に気にもされなかった。と言うか私、よく考えたら囮とか関係なく、普通に入ればよかったじゃん
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