第60話 最高のプレゼント②
結局、色々考えて歌を贈ることにした。一応趣味として続けていたし、助手たちからも上手だと褒められていたので。
そして、テノーと言うノーザル随一の歌手を金に物を言わせて雇った。
「よろしくお願いします」
そうお辞儀をして、俺はリズムに乗り、歌い始めた。
――喰らえ、レオナルド・ラ・リンチの『ラヴフーチャー』
「ら、ららららららラヴラヴフーチャ――」
「……手ごわいですね」
テノーはそう呟いた。
・・・
2時間が経過した。
「なんだそれはお前ふざけてんのかっ!」
と再び怒鳴り声が飛ぶ。慌てて違った声を試すが、すでに正解がわからなくなっているので、さっきよりも更に変な音程になり猶更怒鳴られる。それでも曲は続くので歌も続く。
「違う! 何度言ったらわかるの!」
厳しい檄が飛んだ。
何が違うんだろう――と心の中でイメージを修正しているところで「腹筋!」とイライラした口調で怒鳴られる。そうか腹筋か。再びイメージを修正する――前に「口に出して言いなさい」と命令が下ったので「ふっ……腹筋!」と息切れながら口にするが「声が小さい!」と更に別のダメ出しを受けた。「腹筋! 腹筋」もはや頭の中で考えてる暇は無くひたすら叫ぶ。「もっと!」ええっもっとですかぁ「腹筋! 腹筋です!」――やばい涙出そう。「言いながら歌え!」
――そんな無茶な!
「らららららぁーふっきん!」
「ちがーう!」
「はい!」
「このバカヤロー!」
「はいぃ」
・・・
「ちがぁう! 何度言ったらわかるんですか!」
――ええっ!?
「ららっららっぁあ!」
「ちがぁう!」
ひたすら歌い続けた。テノーはうんざりするように叫んだ。
・・・
4時間後、俺は全然上達しないらしい。テノーが一層キレて叫んだ。
「なんで言っても治さないんですか! 治さないなら私帰りますよ!」
「らららあららっらぁ!」
「違う! ってかひどくなってるし!」
6時間後、それでも歌い続けた。本当に一生懸命歌った。普段の診療の100倍は頑張った。喉の奥から声を振り絞って歌った。
「ららあららららぁぁ!」
・・・
数時間に渡るしご……レッスンが終わった。
「……今日のレッスンはここまでにします」
「はぁ、はぁ……テノー先生! ご指導ありがとうございます。一生懸命やりましたが、僕はどうでしたか?」
少しは上手くなったんじゃないですか。
「伸びしろがない……」
「えっ?」
「あなたは歌の才能がありません。最初はただのヘタクソだと思いました。ですが、あなたはタダのヘタクソじゃありませんでした……今後あなたは少しも上達しないでしょう」
実質の癌宣告じゃないか。
「そんな……」
「才能があなたには全く感じられません……残念ですが、別の趣味を探した方がいいでしょう。」
「……」
その夜、人知れず泣いた。
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