第55話 第1回公判


「はぁ……」


 鉄格子を見ながら思わずため息が漏れる。


「はぁ……じゃねぇよ貴様ー! 勘違いで結婚式ぶち壊すとはどういう了見だー! 少しでもお前を友達だと思った俺がバカだったーやっぱりお前なんて最低だ!」


 グリスの叫び声が聞こえる……最初は丁重に謝っていたのだが一向に許してくれないので、今は無視している。


「おい、ジーク面会だ」


 め、面会!?


                ・・・


「ジークてめー貴様野郎! 何とかできるわけないじゃないか―!」


 水晶玉越しにシエッタ先生の怒号が響く。


「そこを何とか! 実弾(お金)ならあるんで! 悪気は無かったんです」


「悪気なかったら他人の結婚式ぶち壊さねーんだよ! しかも、人のいい……じゃなくてゴブリンのいいグリスまで騙しやがって」


「お願いします! 俺には待ってる患者がいるんです。あんた、俺を殺すってことは将来救うはずの何万の命を――」


「知るか―! 貴様なんぞ、グリス巻き込んでなかったら逆に死刑側を断固応援してやるわー……とにかく、裁判では心証肝心だからその腐りきった人間性何とかしてこい! じゃなきゃ俺が貴様を訴えるー」


 そう言い残して水晶玉の映像はこと切れた。

 ……まあ、なんだかんだやってくれる先生だから任せよう。


                 ・・・


 第一回公判がやって来た。


 アナン公国はテーゼ女王の独裁なので、判決もテーゼ女王が下す。要するに、活かすも殺すもテーゼ女王次第だという事だ。

 シエッタ先生の隣に座ったが、完全に無視されている。どうやら、嫌われているらしい。悪気は無いって言っているのに。


「じゃあ、弁護人どうぞ」


 テーゼ女王が氷の微笑を浮かべる。


「はい、ジーク先生は類まれな素質を活かし、医療魔術師として数万の命を救いました。そして、それはアナン公国でも高く評価されており賞の授与までされております」


 おっ、さすがはシエッタ先生。


「即座に剥奪したけどね」


 テーゼ女王は微笑む。

 怖すぎる―! 何なのこの人ー。


「……今回の件は本人も猛省しております。また、ジーク先生は度重なる医療の疲れで、心身にも少なからず影響を及ぼしております。数万の命を救う代償として、そのような心神喪失状態になったことも鑑みれば、何卒ご考慮頂きたく思う所存であります」


 さすが、シエッタ先生。


「うーん……あっ、そうだ。ジーク先生の日常生活を証言する証人がいるそうね」


「はい……入ってきて」


 そうシエッタ先生が叫ぶと、入って来たのはオータムだった。

 オータム……来てくれたのか。なんて声を掛けていいのかわからず、目で追う事しかできなかった。


「またお会いできて光栄ですわ、テーゼ女王」


 オータムは満面の笑みでお辞儀した。


「こちらこそ、じゃあ普段のジーク先生の素行について話してくれるかしら」


「はい、ジーク先生は……」


 こちらの心臓が大きく高鳴った

 ――オータムは、いったい、何を話すのだろう。


「……さいってぇのクソ野郎です!」


 ええええええええええええええええっ!


「ちょ、おまっ! 何言って――」


「証人と弁護人以外の言動は認めません!」


 そう言ってテーゼ女王が魔法で俺の言葉を消した。


「普段から医療魔術師やめたいやめたいって愚痴ばっか。隙さえあればすぐに逃げようとするし、暇さえあればすぐに遊ぶしハッキリ言って最低の男です」


 や、やめてぇ! 死刑になっちゃうよー。


「し、しかしそれを裏付ける証言は無く、みんなジーク先生はいい人だと――」


 さすがはシエッタ先生、予想外の答えにも即座に反論。


「物証があります」


 オータム-、勘弁してくれー!


「これは助手のサリーが毎日つけている日記です。日々の出来事を事細かく記しており、ジーク先生のことも非常に詳しく書かれています。また、日々の出来事なども記してあるので、そこの整合性を取れば自然とジーク先生の描写が正確であることがわかります。テーゼ女王、これを提出します」


 サリー、なんだってあいつは俺の足しか引っ張らねーんだー。


「……」


 シエッタ先生ー、頼む反論してくれー!


「これらの事から、懲役10000年じゃ遥かに生ぬるく、懲役100000年が妥当だと思います。以上、さよならっ」


 そう言ってオータムは去って行った。


「ジーク先生……まだ、判決は出てないけど、少なくとも私の心証は最悪です」


 終わった……俺のシャバの人生が終わった。



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