第54話 決着は友情


 テーゼとの最終決戦が開始され1時間が経過した。すでに、100回以上ジャシャーン、ダークルーラ、グリスを回復してるが全然歯が立たない。


「はぁ……はぁ……はぁ……だからやめとけと言ったのじゃ……」


 そう言い残して倒れたのはジャシャーン。すでに悪竜ダークルーラは気絶している。後は、グリスと俺だけ。この状況になったのはすでに30回目だ。


「はぁ……はぁ……相変わらず強いんだな」


 グリスはそれでも毅然と言ってのける。


「あらぁ、あなたたちが弱すぎるのではなくって?」


 テーゼ女王の怖すぎる悪魔の微笑。


「おい、ジーク!」


 わかってるって―の……ほいっ! 蘇生終了!


「……おい、起きろって。ジジイ、魔物! 寝たふりすんな」


 そう叫んで強引にジャシャーンとダークルーラを揺り動かす。体力は回復しているはずだ。早く行ってもがいてこい!


「もう嫌じゃ、絶対に勝てないのにボッコボコにされて……復活して……」


 じ、じじい! しっかりしろ。


「おい、ジャシャーン、お前アレ、やれ!」


 グリスがそう叫ぶ。


「あ、アレは絶大な魔力を消費するからこんな年置いた今じゃ――」


「そこにいるだろう、魔力の源が!」


 そう言ってグリスは俺の方を指差した。

 えっ……俺!?


「ふんっ、しょうがないか……魔力を媒介するのは女と決めておるのだが」


 そう言いながらジジイが股間をまさぐって来たので、皮膚がちぎれるぐらいつねってやった。それでも絶対離さない――こーのーホーモーじーじーい。


「ライザストリーム!」


 ジャシャーンがそう唱えると、テーゼ女王の周りに強力な結界が張り巡らされた。テーゼ女王の動きが一瞬にして止まり、氷のような微笑みは初めて消えた。


「わしの最強秘術ライザストリーム。極大結界呪文だ。言っておくが伝説の呪文じゃ。しかし、この呪文は莫大な魔力を消費する。だから主の絶大な魔力を使用する必要があった」


 ――そうか……しかし……何で手に添えるのが股間なんだよ!


「さあ、テーゼ女王を封じることができた。逃げるぞ。ダークルーラ、寝たふりはやめろ」


 グリスの声でダークルーラは一瞬体をびくつかせた。


「し、失礼なことを言うな! えーっと……ここは……いい床なのだ! 床がツルツルしてて気持ちが良かったのでつい横になってただけだ。あ、あーいい床」


 嘘つけ、役立たず。


「アホか、すぐに脱出するぞ。ジーク、ジャシャーン、脱出の準備を」


 グリスはアナン公国騎士団の追撃を振り払いながら俺たちに指示をする。


「どうじゃ? テーゼ、どうじゃわしの呪文は? いくらお主とて少なくとも一時間は身動きがとれないだろうに、わーっはっはっは、わーっはっはっは!」


 おい、じじい。あんまり調子に乗らない方が――バシュン!

 嫌な音が響いた……結界の壊滅する音が。


「あが……あががががっ」


 ジャシャーンの顎が外れんばかりの表情を浮かべていた。

 だから調子に乗るなって! フリなんだって、それ。


「あらっ、解けちゃったわね、結界」


 またしても氷の微笑を浮かべるテーゼ女王。


「グ、グリスさん? まだ策はありますよね」


 大丈夫ですよね、あなたのその勇気と根性で――


「……ない」


 嫌だー! 懲役10000年なんて、嫌だー!


                 ・・・


 結局、3人と1匹がアナン公国に囚われることになった。


「ほら、歩け罪人が」


ううっ……嫌だ、罪人扱い。


「グリス……残念だったわ。あなたがガーファーほどの狂気を持ち合わせていたら結果は違っていたのかもね。せっかくの敵討ちのチャンスだったのに」


 テーゼ女王は初めて哀しそうな表情をした。

 そうか……彼女はガーファー討伐にも加わっていた。だから、グリスに特別な感情を向けていたのか。


「テーゼ女王……勘違いしないで頂きたい。俺はむしろ感謝しているのです。父と共に祖父ガーファーの狂気を止めてくれたあなたに。おい、ジーク!」


「は、はい!」


「今回の目的は達成したのか?」


「えっと……は、はい」


 どうしても、『いいえ』とは言えなかった。


「そうか、なら、いい。テーゼ女王、俺は友の願いを叶えられただけで、十分だ。悔いはない」


 すいませーん! 超絶すいませーん!

 こうして、俺たちはアナン公国刑務所へぶち込まれることになった。

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