第53話 絶対的絶命



「聞かせてもらいましたよ」


 その時、氷のように冷たい声が、俺の頭の中に直接響いてきた。

 直接、魔力で声を届けてきてる……こんなことが簡単にできるのは――瞬間、とてつもない魔力を感じ、鳥肌が立った。

 振り返ると、恐ろしい程綺麗で派手な装飾をした女性が、微笑を浮かべて立っていた。氷のような微笑を浮かべ、悪魔のような美しさを誇っていた。


「テ、テーゼ=トワイライト女王……」


 ゴードンが震える声で呟いた。

 この人が……あのテーゼ=トワイライト。大陸最強の魔術師であり、数々の功績、逸話を持つ生きた伝説。その若々しさに思わずゾッとした。

 少なくとも俺が生まれる前には、彼女はすでに成人していたはずだ。


「お初にお目にかかります、ジーク先生。全て会話は聞かせて頂きました。随分ユニークな方ですのね」


 そう言って、先とは打って変ったような天使のような微笑を浮かべる。


「えっと……ははは」


 どうやら、優しい方のようだ。


「でも、女の子の晴れ舞台を台無しにしてはダメね。罰は受けて貰わないと」


 まあ、それもそうか。


「……ちなみに、あのどれくらいの罪状で?」


「うーん……懲役10000年、執行猶予なし」


 ――ええええええええええええええええっ!


「そ、そんなの獄中で100回死んじゃうじゃないですか!?」


 テーゼ様はまたしても氷のような悪魔の微笑を浮かべた。


「ええ、結婚式を邪魔するような無粋な輩は100回死になさい」


 ――滅茶苦茶怒ってるー、そして滅茶苦茶恐ろしいー!

 何とか……何とか逃げる方法を考えないと――そう思いながらサリーを見ると、すでにその場からいなかった。

 あいつ……逃げたのか。シンジラレナイ、アイツノセイナノニ。

 とりあえず、猛烈ダッシュでジャシャーンとダークルーラの戦闘してるところまで逃げてきた。何とかこの2人に頑張って貰わないと。


「おい、ジークとやら……お前はこんな弱者共と闘わせるためにこのダークルーラを召喚したと言うのか?」


 なんて頼もしい台詞、ダークルーラ先生。


 その時、全体にテーゼ様の声が響き渡った。


「久しぶりですねジャシャーン=ガーバード。ダークルーラ」


 大して声を出しているわけではないのに、頭に鳴り響いてくる。恐らくそう言う魔法なのだろうか、いや、そんなことが自然にできてしまうほど彼女の魔力は圧倒的だ。


「……何やら懐かしいような声じゃが。わしの本名を知っているとは、誰じゃ?」


「あら、忘れたのかしら? あんなに楽しかった思い出を……フフフ」


「……テーゼか?」


「はい」


 満面の笑みのテーゼ女王。少しの時間沈黙が流れた。


「……さーて、ダークルーラ。帰ろうかの」


「うむ!」


 そう言って、ダークルーラはジャシャーンを連れて飛び立とうとたので、慌ててダークルーラのしっぽを掴んで全力で引き止める。


「おい! 何言ってるんだよ! ダークルーラも闘ってくれるってさっき約束したじゃ――」


「お主! テーゼがおるなんて言わなかったじゃろう! 奴を倒すなんざ不可能じゃ……天地神明に懸けて不可能じゃ」


 あんなに強かったジャシャーンが滅茶苦茶怯えてるー。


「あらっ、このまま帰られると思って? もちろん、ジャシャーンには壊した壁の補修をやっていただくわ。干からびるまでね。ダークルーラには……そうねえ、ああ最近お気に入りの鞄が壊れたから……ね。フフフ」


「ひ、ひいいいいいぃぃぃ!」


 ジャシャーンとダークルーラが2人して声を上げた。


「まあ、あと1人……どういうことか事情を聴きたいわね。なぜあなたがそちら側に? グリス」


 気のせいだろうか、テーゼ女王はグリスだけは少し声が高かった。


「……じじい、ドラゴン。やるしかないぞ!」


 グリスはテーゼ女王の言動を真っ向から無視して、叫んだ。


「む、む、無理じゃ……無理無理無理無理無理……」


 ジャシャーンはすでにガクブル状態だった。


「干からびてミイラになりたいのだった別に止めないけどな。ドラゴンの鞄も高く売れそうだな。ジーク、ここからは本格的にお前の力が必要だ。いいか! 強大な敵に戦う時こそ己の真価が見えるんだ」


 グリスさん、一生ついて行きます!


「あら、残念。そんなに私のことが憎い。うーん……じゃあ、久しぶりに運動がてら倒しましょうか」


 テーゼ女王はそう言って背伸びをした。

 こうして、思わぬところで最強決戦の幕が開いた。


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