第52話 どうすんだよ、これ?


 ゴードンの妻はオータムじゃなかった。

 ――ええっ、これどういうこと!? ねえ、誰か教えてください! 神様、教えてください! オータムじゃないですこの人!? どーなってますか!


「で、あんた誰!? 私は悪いけど覚えてないわよ。いつからそんなに私の事を愛してしまったのよ?」


 オータムじゃない人が俺を睨む――言えない……今更、人違いなんて言えない。


               ・・・


 やがて、ゴードンが起き上がってこちらへやって来た。


「……俺の負けだ。お前の愛は本物だったってことだ」


「い、いや。しかし、俺は魔法を使ってて本来は反則で――」


「合法じゃ! レフリーであるわしが合法と判断する!」


――黙れ! クソ神官!


「敗者には優しくか。あなたになら、ジェニファーを任せられるかもしれないな」


 そう言って俺の肩に手を乗せるゴードン。

 やっぱり全然名前違うー!


「い、いや。その……これには深い事情があって――」


「あっ、ジーク先生! いたぁ、よかったぁ。間に合いました?」


 サリーがひょっこり顔を出した。

 ――どうなってんだよ、なにも間に合ってねーよ。


「ゴードンさん、ジーク先生……ちょっと集合」


 そう言われて俺とゴードンは、サリーの近くに顔を近づけた。


「実はですね、ジーク先生。あの人オータムさんじゃないんです」


 新婦に聞こえないようにコソコソ声で話すサリー。

 ――見りゃわかるよー!


「何でオータムじゃないんだ!? ゴードンさん、あんたオータムと付き合ってたんじゃ……まさか、あんた2股を?」


「し、失礼なこと言うな! オータムさんとはプラトニックな付き合いだったしキチンと交際を断られてるんだ。そして、俺は彼女を……ジェニファーを本気で愛している」


「……サリー、いったい、どうなってる?」


「いや、それが……ははっ、どうやら誤情報だったみたいで。私の確認ミスで。えへへ」


 えへへって――お前、どうすんだよ、これ!?

 冷静に大聖堂を眺めると、ゴブリン、ドラゴンが無双で暴れまわって、魔法使いが炎やら氷やら放ったりして修羅場になっていた。とてもじゃないが、結婚式場だとは思えない。


「まさか……貴様、新婦をオータムさんと勘違いして乗り込んで来たのか!?」


 ゴードンが唖然とした表情をこちらに向けた。


「……はい」


「この超絶バカ野郎! どーすんだよお前」


 ゴードンさん、ごもっとも。


「まずは、新婦に一言謝罪を……いえ土下座を――」


「ちょっ、ちょっと待て! お前なんて説明するんだよ! ゴードンさんの元彼女と間違えましたとでも言うのかよ、冗談じゃねえよ結婚式後に修羅場じゃねぇかよ」


「いや、でもそれ以外どうしようも――」


「ジーク先生、確かにそれはまずいかもしれませんよ。ほらっ、女って嫉妬深い生き物ですし」


 お前が言うなー!


「と、とにかくやっぱり俺が勝ってたことにすればいいんじゃないか? ほらっ、やっぱり魔法は違法ってことで――」


 ゴードンさんが、いい提案をしてくれた。


「や、やっぱりそうですよね!? それで行きましょう、さすがゴードンさん」


 ここに、奇妙な同盟関係が成立した。


                 ・・・


「い、いやぁ、やっぱ魔法ってのは少し卑怯だったかな。ねえ、ゴードンさん。あんたは男らしく魔法を使わなかったわけだし。そっちも魔法使ってたらともかく」

 なるべく、大げさに、大声で叫ぶ。


「んー、まあそうも言えなくもないかな、ジーク先生。こっちは魔法を使ってないわけですし……あは、あははは」


「駄目じゃ、お前たちが何と言おうと我は大神官。これは、神の名のもとに行われた試合。神の名のもとに判定の変更はない」


 ――こ……この超絶クソ神官ー!


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