第51話 大聖堂での死闘


 大神官がレフリーを務めるボクシングが開始した。


「ダウンは10秒まで、レフリーストップ無、12R、OK?」


 互いに頷く。


「外野! の神聖な試合の邪魔は何人たりとも許さん! 神の名のもとにだ]


 この大神官のじいさん、相当なボクシング好きだな。


「ファイ!」


 大神官の掛け声とともに、ゴードンがこちらへ突進してきた。

 ――ドスッ!

 いきなり、ゴードンのボディブローを浴びて悶絶させられた。


「1……2……3……4……」


 レフリー(大神官)の声が遠くから響く。

 ――ウグググッ……俺はこんな所じゃ……負けられない。


「……7……8……続行?……ファイ!」


「よく立ったな、その根性だけは褒めてやる」


 ゴードンは不敵に笑った。

 またしてもこちらへ突進してきて、次はアッパーが入った。しかし、今度はかろうじて踏みとどまった。


「くっ……バカな! オーガすら倒す一撃だぞ。なぜ倒れん」


「はぁ……はぁ……医療魔術師なめんなよ。貴様の攻撃なんて日常の仕打ちに比べたら生ぬるいものだ」


 そう、オータムによって身体的耐性が異常なほど上がっていた。そして、防御魔法、筋力増加魔法もかけていたのでアナン公国騎士団長の一撃を耐えうるまでになっていた。

 そして、一撃さえ耐えることができれば、ほぼ無敵なのが医療魔術師。

 ――ふははははっ、貴様、競技を誤ったな……ぐっふぅ! まあ、痛いは痛いのだが……痛いには慣れっこだ。


               ・・・


 それからしばらくは一方的な展開が続いた。連続パンチを繰り出すゴードンにパンチを受け続ける、俺。耐えられなくなり、何度もダウンするが、その間回復魔法が使えるのでゾンビのように起き上がる。


「はぁ……はぁ……レフリー、あれいいのか!? あんなのさすがに反則だろ!」


 さすがにゴードンがごねだした。


「ノーカン、身体的強化魔法はボクシング界でも合法だ。医療魔術師でボクサーがいないので前例はないが、身体的強化の解釈を広げ合法と判断する」


「くっ……卑怯者め!」


 ふははははっ……何とでもい――痛、痛痛痛痛痛痛いっつーの!


              ・・・


 だんだん、ゴードンの勢いが衰えてきてこちらの拳も当たるようになってきた。そして、いつしか形成は逆転してゴードンをボコボコにする一方的な展開になってきた。

 ――ドスッ!

 俺のボディーブローが綺麗に入って、ゴードンが崩れ落ちた。


「1……2……3……続行? ファイ!」


 かろうじて立ち上がるゴードン。しかし、もう勝利は目前だった。


              ・・・


 ――ドスッ!

 またしてもボディブローが綺麗に入った。


「ま……け……て……た……ま――」


 そう言いかけて、ゴードンは崩れ落ちた。

 大神官(レフリー)がゴードンの下へ駆け寄り、試合終了の合図を出した。

 やった……勝ったぞ! そう高々と、手を挙げた。そして、すぐさまオータムの下へ駆け寄った。

 すると、オータムは俺の胸に可愛らしくパンチを繰り出してきた。いつもの容赦ない暴力ではなく、全然痛くない。可愛らしい猫パンチ。

 ――それは、俺の気持ちを受け取ったと見なす。


「バカバカバカ……何で勝っちゃうのよぉ! あんた誰よぉ!?」


「しょうがないだろう、俺は天才医療魔術師なんだから」


 そう言いながら深いストールをあげた。


              ・・・






 えっ……あんた、誰!?


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