第50話 圧倒的展開


 戦闘が開始され、まずわかったのはグリスの圧倒的な戦闘力。まさに圧巻、衝撃だった。アナン公国の騎士たちは絶え間なく攻撃を仕掛けるが、悉くグリスはそれを躱し次々と斬撃で騎士たちを吹き飛ばしていく。先ほど名乗った第六隊ハームなど一瞬にして斬撃で吹き飛ばされ壁に激突していた。

 恐らくその隊長の実力が無いわけでは決してない。

 ただ……グリスが強すぎるのだ。


「第八隊隊長グマ」「副長ジマ」「同じく副長スマ」


 あ、アレはバカラ帝国でも最も美しい連携攻撃を得意とする3兄弟ではないか。以前雑誌に載っていた。


「俺たち兄弟の三位一体の攻撃が防げるかな。行くぞ!」


 同時に叫びグリスに攻撃を仕掛けたが、瞬時に3人とも崩れ落ちていた。


「いちいち名を名乗ってるんじゃねェよ。20年後に出直してきな!」


 グリス……滅茶苦茶カッコイイです。そして、今度あいつを怒らせることするのは、やめておこう。

               

「くっ、何をやっておるのだ騎士団は。あんなゴブリン一匹に……」


 大臣が口惜しそうに呟く。しかし、その大臣の見解は間違っている。あいつは、史上最強のゴブリン、ガーファーの孫なのだから。


 更に、ジャシャーンの有能さとダークルーラの凄まじいこと。

 ジャシャーンは魔法使いたちの魔法弾をことごとく跳ね返し、ダークルーラはそもそも剣も魔法も全く効いた様子がなく、ほぼ一方的に蹂躙していく。


 開戦早々、一方的な展開が続いていた。

 そして、俺も……


「……だぁ!」


 そう言って、グリスには筋力倍増呪文、ジャシャーンには魔力UPの呪文、ドラゴンルーラには耐久性強化の呪文を唱えた。


「はぁ……はぁ……どうだ、みんな、それで戦いも楽になるだろう?」


 息を切らしながらみんなの方を見たが、全員それどころではなく、その声は、虚しく、響き渡った――知ってた、パーティーの仲間が強すぎると回復役はほとんど何も役に立たないこと、知ってたよ。

 少し隅っこでいじけていると、


「何してる! さっさと目的を達成しろよ!」


 グリスがそうやって叫んだ。

 そ、そうだった。早くオータムの下へ行かなきゃ――伝えたいことがあるんだ。

 全力で走って、ゴードンの前に立った。


「どういうつもりですか? ジーク先生!」


「……俺はそいつに用があるんだ」


 そういうと、ゴードンは不敵に笑った。


「妻と……あなたが妻と関係を持っていたというんですか?」


 ――妻だと、この野郎いけしゃあしゃあとっ!


「ああ、お前になんかわからないほどの絆がな」


 そういうと、オータムは全力で首を振った。まだ怒ってんのかあいつは。相変わらず、怒りっぽくて暴力的で、しょうがない奴!


「聞いてくれ! 俺は、お前がっ!」


「ちょ……っと、この期に及んで妻に何を言う気だ!」


 ずっと、言いたかったこと。小さい頃から、言いたかったこと。

 後は、心の為すがままに。


「俺は、お前のことが……大嫌いだぁ――――――!」


 好き、な訳ない。愛してる、断じて、そんな訳ない。逆だ、寧ろ、逆。


                ・・・


 瞬時に、アナン公国大聖堂が静まり返った。


「……えっ、好きとかじゃなくて?」


「あったり前だ! こいつがいいの、容姿だけ! 性格いいとこ無し、言葉づかい、いいとこ無し、何より胸と教養が無い! 最悪だ、サ・イ・ア・クッ!」


「あ、あ、あんたにそんな事言われる筋合いないわよ! 誰よあんた!?」


 オータムの声は何か裏返っていて、いつものあいつと違ってた。

 誰だと? あいにくと、もうそんな罵倒が通じるようなテンションじゃない。


「いいか、お前がアナン公国騎士団長と結婚? はっきり言って、アナン公国の危機だ。逆タマなんぞ許さん! いや大陸の平和のために、仕方が無いからお前を連れ戻す! お前の、その腐りきった性根で、お前は、ずっと俺の側にいろ」


 これ以上ないくらい、全力で叫んだ。

 ――そう、好きとかとか愛してるじゃない。ずっと傍に居れば、いてくれればそれでいい。やっと、わかった。


「……よーく、わかったよ。ジーク先生。あんたが妻のことをどれだけ想っているか、しかし、俺も同じくらい妻の事を愛している。となれば、漢として、答えは1つだ」


 そう言って、ゴードンは剣を置いて拳を高く上げた。

 拳と拳って訳か……上等だ。


「面白い……面白いぞーい!」


 大神官がこれ以上なく高々と叫んだ。


「わしも大神官やる前はボクシングで鍛えたことがあったんじゃ! わし、審判ね。審判……はい、こっち来て拳合わせて……ファイッ!」


 こうして、ゴードンとの死闘(ボクシング)が幕を開けた。


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