第49話 もう迷わない
<ジーク=フリード>
頭が妙にスッキリしてきた。ゴチャゴチャ考えるのはやめた。もう、やめた。
――もう、俺は、迷わない。
診療所を出てアナン公国へ向かう途中、グリスと偶然遭遇した。
「お前! オータムがどれほど――」
「……頼む。何も聞かないで、黙って俺に力を貸してくれないか?」
グリスが言い終わる前に深々と頭を下げた。
――俺は、どうしてもアナン公国に行かないといけないんだ。
「この――バカ野郎! 親友にそんな事頼まれて断るやつがいるかよ。で、何すりゃあいいんだ?」
「……聞かないのか?」
「友の頼みだ。黙って力を貸すのが漢ってもんだろう?」
グリスは岩石のような手を俺の肩に乗せた。
「……すまん! 今から乗り込むのはアナン公国大聖堂だ。お前には目いっぱい暴れてもらいたい。存分にな」
「わかった」
がっちり握手を交わした。
「ちょっとー、まーつーのーじゃー!」
その時、上空から声が聞こえた。
現れたのは巨大な漆黒のドラゴンと……ジャシャーン! な、なんで見習いおじいちゃん医療魔術師のジャシャーンが!?
「な、何しに来たんですか!」
「若い者の青春の助けにの?」
そう言って、ジャシャーンはウインクしようとしたができてなかった。。
「はは、こいつは心強い味方が現れたもんだ。ジーク、このジジイは110年前にその魔力は右に出るものはいなかったという魔法使いだぞ。かつて俺と一緒のバークレイズ防衛団に所属していたが、ボケてどっか行っちまったキリだった。まさか、お前の所にいたとはな」
「……医療魔術師じゃないの?」
「いや、攻撃特化型だったけど」
こーのーじーじーい、道理で全然できないはずだわ。
「……で、こっちのドラゴンは?」
「悪竜ダークルーラ。このドラゴンが久方ぶりに暴れたいというのでな。ほーっほっほっほ、ほーっほっほっほ」
ジャシャーンは快活に笑いあげる。なんてこったい普段はクズじじいだったのに、猛烈に頼りになるジジイにジョブチェンしとる!
「ふんっ、我を召喚したのだ。中途半端な蹂躙じゃ済まさんぞ」
ダークルーラは不敵な笑みを浮かべた。
「よし、乗り込むぞ」
そう言って、ダークルーラの背中に3人はまたがった。
ダークルーラその大きな翼を羽ばたかせ、猛然と羽ばたく。
「よーし、待ってろよー!」
絶対に止めて見せる。結婚なんか、絶対にさせない。
・・・
しばらく飛翔し、やがてアナン公国大聖堂が見えてきた。
「どうする?」
グリス……わかってるだろ。もう、なにも我慢しない。なにも遠慮なんかしない。してたまるか!
「突っ込めぇ―――――――!」
その時、側面の壁に大穴が空いた。
「ド、ド、ドラゴンだぁ――!」
叫び声が一斉に木霊した。
大聖堂にいたのはアナン公国の兵隊が1000人、魔法使い300人を超えていた。さすがはアナン公国騎士団長の結婚式、もしかするとアナン公国中の強者が全て集まってるんじゃないかというほどだった。
――でも、関係ない。
新郎新婦の方を見ると、新婦側のオータムの表情が見えないように深いストールが掛けられていた。そこからはオータムの表情は全く見えない。
でも、関係ない。俺がオータムを迎えにきたくてここへ来たんだから。あいつをゴードンから取り返したくてここに来たんだから。
全世界を敵に回しても、俺はあいつを取り返す。
「どっからでもかかってこい!」
相手してやるよ、全員な。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます