第46話 オータムの想い
<オータム=アーセルダム>
ジーク先生にクビを宣告された。
――やってしまった。
思わず、その場にしゃがみ込んで膝を抱えた。どうしてこんなことになってしまったのだろう。寂しかった……会いたかった……そう伝えたかっただけなのに。
「お前……名前は?」
本を読みながら、老人が訪ねてきた。
「……オータムと言います。マギ=ワイズバーグ先生ですよね?」
「フム……いかにも。しかし、中々いい見世物だった。あんたは儂のばあさんにそっくりじゃのう」
そう言って振り返って優しい顔で笑いかけた。
「……すいません、お恥ずかしいところを。私が悪くて、ジーク先生が正しいことなんて、わかってるんです。みんなに迷惑をかけていることも。さあ、ジーク先生に謝ってこなきゃ」
そう言って、立ち上がろうとするとマギ先生は私の腕を優しくつかんだ。
「いい、ここに、おれ」
「でも……私が間違って――」
「あんたは、間違っちゃおらん。ジークが悪いんじゃ」
予想外の言葉が、マギ先生から降りてきた。
「そんな、だって、私が勝手で――」
「男はな、自分が悪いって思うといかにも正論っぽく理論武装して返すもんじゃ。あんたが何に怒ってるか、わかっていてもな。女ってのは不思議な生き物でな、愛を知って生きているから、その言動は全て正しいんじゃ。のう、グリス」
そう言って、マギ先生はグリスさんに笑いかける。
「いえ、武骨者の私にはその手の話は-―」
グリスさんは照れているのか、その緑の顔を紫色に変色させていた。
「1つ面白い話をしよう。ある女がいた。その者は変わり者で、1人のゴブリンを愛してしまった。そして、そのゴブリンも変わり者でその女を愛してしまった」
「……その2人はどうなったんですか?」
「その女は身分の高い女だった。多くの人間から命を狙われてやがて命を落とした。ザオリスというゴブリンを遺してな」
グリスさんのお父さんの事だ。
「それで……その……夫のゴブリンはどうしたんですか?」
「人間を憎んで狂ったように人を殺したよ。不運なことに先代ゼノ族族長ガーファーは史上最強のゴブリンだった。幾万の血が流れ、まさにバカラ帝国を陥落せんとする勢いで殺戮を続けた……そして、最後は最愛の息子であるザオリスに討たれた」
淡々とした声でマギはつぶやいた。
「……哀しい話ですね」
「そうか? 儂は少し羨ましくも思ったんじゃ。ガーファーはそれだけ深く妻を愛した、ただそれだけじゃ。そこまで愛された女は幸せではないか? なあ、グリス」
「……」
グリスさんは何も言わなかった。
「まあ、待っておれ。ジークは不器用でバカで阿呆だが、愚かではない。待っておれば、いずれはあんたが笑顔になる答えを持ってくるだろうよ」
「……はい、わかりました」
少し心が晴れてきた。
私は孤児だったからよくわからないけど、もしおじいちゃんがいたとしたらきっとこんな感じなのかなぁ。
「あっ、そうだ。本末転倒。私に魔草について教えてください」
「いや、儂はこれからこの大量の文献を――」
ドッゴーン!
正拳突きで岩をぶち破ってみた。
「はい、わかりました。何なりと」
よーし、勉強勉強。
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