第39話 オータム、魔草師になる②


 魔草師になるという決断を下して1週間、やっと身辺整理が整った。意外にもアリエもサリーも反対してきた。お局の私なんか、目の上のたんこぶくらいに思っていたのかと考えていたけど、やっぱり引き留められると嬉しいものだ。


 そして、魔草師の先生にはかつてジーク先生とロスの師匠だったマギ=ワイズバーグという方がいいとの話だった。どうやら、今の魔草師界で、彼ほど膨大な知識と鋭敏な手を持っている人はいないらしい。ただ、魔草の研究のために各地に放浪しており、見つけ出すのは至難の業だという話だ。

 でも、どうせならジーク先生やロスも驚くような実力になって帰ってきたい、そう思った。だから、迷うことなくマギ=ワイズバーグの捜索を決めた。


 ロスが手紙で交流しているらしく、マギ先生は最近までアナン公国のバークレイズという町にいるらしい。


・・・


 で、ここがバークレイズ。よーし、気合い入れて探すぞー!


「ところで、どうやって探すんですか? オータムさん」


 黒医療魔術師見習いのサシャが不機嫌そうに尋ねてきた。

 なんでこの子がついて来たかというと、ジーク先生に押し付けられたからだ。どうやら医療魔術師としてはイマイチ……いやイマヒャクらしい。


「……私、外出苦手なんですけどね。どうしても私の才能を活かしたいって言うから仕方なくオータムさんについてきましたけど」


 黙れ、イマヒャク。水ささないでよ……とりあえず、情報収集から。


「情報収集と言えば、まずはやっぱり酒場でしょ。このまえ、バークレイズの町を観光した時に一軒だけ見つけたの。とりあえずそこに行こ」


 せっかくの旅だ。ギスギスしたって仕方ない。

 そもそも、現場がピリピリせざるをえない職場であるからで本来私は聖母のような気質の持ち主なのだ。うん、そう聖母気質。


              ・・・


 店の名前を確認しながら歩く……ルナッセ……ルナッセ……あっ、ここだ。酒場『ルナッセ』。やっと着いたが、扉が閉まってる。閉店中なんだ。でも、誰かいないかな。


「ごめんくださーい! ご・め・んくださーい!」


 大声で叫んだ。でも、出ないな……とにかくドアを叩き続けよう。

 ドンドンドンドン……しばらくドアを叩き続けてると、酒場のマスターらしき人が出てきた。


「ねーれーねーんだよ! この張り紙が見えないのか! まだ開店時間じゃないんだよ。と言うか未成年だろこんな所にきてるんじゃねえ!」


 あっ、寝起きだこの人。寝癖が酷いな。そして非常に怒ってる。


「魔草師のマギ=ワイズバーグについて何か知りませんか?」


「知らねえよ!」


「じゃあ、知ってそうな人教えて下さい」


「帰れぇ!」


 ぶふっ。水ぶっかけられた。酒場のマスターらしき人が扉を乱暴に閉めた。


「いやーん、ビショビショ。どーすんですかオータムさ――」


 ドッカ―ン!

 あれ、なんだか勝手に手が動いて、ドアが壊れた。


「な、何すんだこのクソ女……いた、いあだい痛痛痛痛痛痛痛痛!」


 うーん、やっぱりビンタじゃ気が済まないな。


「はぁ……はぁ……何すんだぁ――っておい、お前店をどうす――やめてぇっ! それここで一番高いワイン! だ、誰かぁ!」


 安心しなさい、全部割るから。


「ご、ごめんなさいごめんなさい! 調子に乗ってました! 僕、調子に乗ってました。マギさんですよね、探します! 責任もって探しますからぁ! 探しますからぁ!」


「……サシャ、まだ怒ってんの?」


 隣のサシャを見ると、怯えたように震えていたが、全身で首ふりをしていた。


「彼女はもう怒ってないみたいだから。私も全然怒ってない。そうよね?」


 店主の胸倉を掴んで持ちあげ、尋ねた。


「は、はい! あなたは全然怒ってません。すぐにマギを探してきます」


 そう言って急いで逃げようとする主人。


「あっ、あと訴えようとしても無駄だから。騎士団長のゴードンさん、アレ知り合いだから。あと、逃亡もね。わかってると思うけど」


 一応念押し。


「ええっ、あの勇猛な騎士団長の……い、いやもちろんです! そんな事1ミリたりとも思ってません!」


「1時間後ね、ついでに朝ごはん買ってきて。あっ、マギの情報は必ず取ってきてね。約束したんだから。じゃないと、酒場はもう無いから」


「は、はいぃ!」


 酒場の主人は猛烈ダッシュで走って去って行った。


「オ、オータムさん」


 なぜか知らないが、サシャは顔面蒼白だ。

 うーん、やっぱり情報収集は酒場に限るなー。


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