第38話 オータム、魔草師になる①

<オータム=アーセルダム>


 その日もジーク先生は診療所で、何やら悩んだふりをしていた。


「うーん……」


 はぁ、思わずため息が漏れる。

 この男はいつも休日の事ばかりしか考えないな。


「どうしたんですか、ジーク先生? 休みならあげませんよ」


「違うって。最近、魔草の質が落ちてる気がしてな。ほらっ、これ」


 そう言って、ジーク先生にベスパ草を渡された。いつもとは違う展開で拍子抜けした。いや、別に待ってた訳じゃないんだけども。

 ベスパ草は傷の治りが効くと言われる魔草であり、医療魔術には重宝されている。それを手に取ってよく観察して見るが、特に異常は無いように思える。


「うーん……見た目ではどこも変わってないみたいですけどね」


「……なーんか違うんだよな。あっ、ロス。ちょっとこれ見てくれ」


 ちょうど廊下を歩いていたロスを呼び止めた。


「兄さん、どうしたの? 何、ベスパ草……だけど、ひどい品質だなこれは」


 やはりロスも即断で判断した。


「なっ、なんでわかるの?」


 ある程度魔草についても勉強したつもりだが、特に問題のなく育っているし、青々しい感じでいかにも効きそうだけど。


「ベスパ草に限らず医療魔術用に使用される植物にはみんな魔力が籠ってるんだ。ほら、魔草って一般的には医療魔術に使用するから魔草って名前だと思ってる人が多いんだけど、古来からの意味は魔力が伴っているから、魔草。そういう意味なんだ」


 ロスが得意満面な顔で説明しだす。


「……そんな話、聞いたことないし本にも載ってないけど」


「まあ、僕らには魔草の師匠がいて、その人の知識だけどね。でも、実際に効果は実感してるよ。それだけ重要な要素でもあるからね」


「でも……いつもの業者から仕入れてるのに」


「恐らく魔草を採る人が変わったね。魔力に鋭敏な手を持ってたら、見分けられるもんなんだ。無意識にその業者の担当は魔力が籠ってる魔草を選別してたんだろ」


「……なに、私の手が鈍感だって言ってんの?」


「い、いやそんなことは……」


 慌てて否定を始めるロス。

 言ったも同じじゃねぇか、テメエ。


「まあまあ、オータムが悪いんじゃない。俺たちが凄すぎるだけだよ」


 ジーク先生、ぶん殴りますよ。


「とはいえ困ったなあ。俺たちは治療しなきゃいけないから魔草の選別まではできないしなぁ。いい魔草師が雇えたら一番いいんだけど、中々いないんだよな」


 魔草師は文字通り、魔草に詳しくて薬などを処方するのを業とする者だ。もともと専属の魔草師は膨大な知識と経験が必要な職業だが、ジーク先生やロス先生の話だと魔力が籠っているかどうか、判別できるほどの鋭敏な手が必要だ。


 その時、私の頭の中にパッと名案が浮かんだ。


「ジーク先生、私がなります。私が勉強して魔草師になっていい魔草を入荷します。もともと手配は私の仕事でしたし」


 そうよ、私が魔草師になれば、何の問題もない。


「えええええええっ!」


 ジーク先生とロスが揃って声を出す。


「なんですか、私にはやれないと思ってるんですか?」


 少しぐらい魔力が強いからって見下してんじゃないわよこの性悪兄弟。私だって頑張ればやれるんだから。


「いや、そうじゃないけどオータムだって俺たち並に必要な戦力なんだけど――」


「そこは何とかやって下さいよ」


「えええええええっ! なに平然と言ってんのー」

 

 取り乱すジーク先生。


「うるさいなぁ、元々先生1人、助手3人でやってたじゃないですか。今はロスもザックス先生もいるし、見習い医療魔術師も見習い助手も結構いるじゃないですか。サリーとアリエがローテ組んで、あんたらがしっかりすれば絶対やれますって私いなくても」


 さっきのジーク先生とロスの態度で一大決心をした。私だって絶対にできるようになる。もともと自分の力量の無さにはほとほと愛想を尽かしていたところだ。どうせなら超一流の魔草師になって腰抜かすほどこの2人を驚かせる。


「か、患者はどーすんだー!」


 怒鳴るジーク先生。


「私がいないくらいで駄目なら死ねばいいんじゃないですか!? ジーク先生いつも言ってたじゃないですか! 全部あなたの責任で処理しなさい!」


 きっぱりと言ってやった。


「……お、オータムがぐれたー、ロス、どーすんだーオータムぐれたぞー」


 騒ぐジーク先生。

 うるさい、私は、魔草師になるんだ。

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