第36話 お見合いをしよう
<ジーク=フリード>
いつものように診療をこなしていると、なじみのある笑い声が聞こえてきた。
聞き覚えのあるこの快活な声……何やら嫌な予感がした。ロスも、その気配を察知したのか、診療室から出てきた。
「おお息子たちよ! 会いたかったぞ久しぶりだな」
げっ、やっぱり父さん。何しに来たんだ。思わずロスと顔を見合わせて、大きくため息をついてしまった。
名はジルバーナ、65歳。魔力はほとんどないにも関わらず、俺とロス、2人続けて異常な魔力の持ち主が生まれたので、母のリーザが浮気して生まれた子じゃないかと自立するまで言われ続けた。しかし、当人は気にせず俺たちの仕送りで悠々自適に暮らしている。
しかし、この親父は、かなり面倒くさい。
「父さん、一体どうしたんだい?」
ロスが疑念の眼差しを浮かべながら尋ねた。
「いやぁ、たまには息子たちの顔を見たいと思ってな……元気だったか?」
思わずロスと顔を見合わせた。決して父親に会うのが嫌だと言う訳ではない。そう言う訳ではないのだが、来るたびロクなことが無い。
「父さん……何を企んでるんだい?」
「いや、何にもないよ! 本当に今回はお前たちの顔を見に来ただけだよ」
「そうか……」
ホッと胸を撫で下ろした時、
「あっ! そうだそうだ……ついでにグズリ―からこれを頼まれていてな……」
父さんは山のような絵の束を机に置いた。父さんの再婚相手であるグリズリーさん。世話好きでよく笑う可愛い人で、よくそう言ったお見合い話を持ってくる。とてもいい人で、夫婦はかなり円満のようだ。
「……これは?」
「おまえらのお見合い絵画だ! みんないい人たちばっかりだぞ!」
「……どうせそんなことだろうと思ったよ」
数年前からこの道楽者は『結婚しろ』とうるさかった。忙しかったので、無視し続けてきたが、最近時間ができてきたので近況報告に手紙を送ったのがまずかったのかもしれない。
「よし! ロス、お前に任せる!」
「そんな……卑怯だよ兄さん! 順番から言ったら兄さんが先だろ! 兄さんがお見合いしなよ」
「いや、俺は色々忙しいしな……」
「俺だって色々忙しいよ」
そうやって揉めていると、父さんがぴしゃりと言った。
「2人とも1つずつ選んで、お見合いしなさい」
仕方なく、従うしかなかった。
・・・
「ロス……この子なんかタイプなんじゃないか?」
そう言って、自分の気に入った子以外の子を指さした。
「うーん。趣味が全然合いそうにないなぁ……あっ、兄さん! この人は?」
――あっ、このやろー。お前も可愛い子じゃない子選びやがったな。
「うーむ……お嬢様育ちがぬけてなさそうだもんな……」
「……」
「……」
互いに中々決まらなかった。
お見合い日当日、レストランでそわそわしながら待っていた。席の向こうには同じくロスが座っていた。すると絵とは大分……いやかなり違う女性が目の前に立っていた。
さすがにこの人じゃないな。一瞥で判定した。
そう思いながらメニューボードをみてると、その女性は俺の前にドシッと座った。彼女が座った瞬間、机のコップの水が大きく揺れ動く。
――じぇ、じぇんじぇん違う。
その斜めに座っているロスはとりあえず胸をなでおろしていた。
このやろー、覚えてろよ。
「……ロス先生ですか?」
その瞬間、ロスの椅子がガタッと音を立てた。
「いえいえ、あっちがロスですよ。いやぁお綺麗な方でうらやましい」
満面の笑顔を添えてロスの席へその女性を送り出した。
ロスが滅茶苦茶睨んできたのを満足そうに眺めてると、その人は笑顔で言った。
「……双子の姉も、もうすぐ来ると思いますので」
ふ、ふたごーっ!
結局、会話も弾みいい友たちになれたが、その絵と全然違ったことは凄く納得がいかなかった。
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