第35話 サリーの日記三度②
「どうしよ! 非常に困った。プレゼント探す時間なんかないよ」
確かに今から店に行って戻ってくる時間はない。
「とりあえずロス先生に相談しては?」
「……そうだな」
その後、ジーク先生の勤務が終わり、ロス先生が交代勤務で診療室に入って来たので相談することにした。
「ロス、あの……オータムのことなんだけど」
「ああ、さっき話したよ。新助手の面接のことでしょ?」
「ええっ!? オータムって何か言ってた?」
「いや……『兄さんに新助手の面接の時間聞いたけど、19時からなら、俺も参加できるから行くよ』って言ったら何か考え出して……」
「それで?」
「いや……『わかった』って笑顔で言ってたけど」
その笑顔は恐らく造られた笑顔だ。どうしよう。完全にガッカリしてる。
「何かあったの?」
ロス先生が全くわかってない顔で尋ねてきた。
「いや……実は明日はオータムがこの診療所に勤めて10年目なんだよ」
「うん。知ってるよ」
「えっ! お前知ってたの?」
「だって1年目は祝ってたでしょ? 今回も驚かせてやろうと思って内緒で数人の弟子たちに密かに準備させてるよ」
「ロス! なんで俺にも言ってくれないんだ?」
「いや……特に理由はないけど……兄さんは多忙だし助手には口が軽い子が1人いるしね」
ロス先生が私をちらっと見たので、ニッコリと笑顔で返した。
結局、私が謝罪文を手伝ってジーク先生に謝罪させる作戦にした。
明らかに足の進まないジーク先生を、無理やりオータムさんの部屋に連れて行った。それでも中々ノックしないので、代わりにノックしてドアを開けて蹴飛ばして強引に入れた。
開いたままのドアからこっそり覗くとオータムさんはベッドにくるまっていた。
「オータム……あのさ……」
「なんで返事がないのに入ってくるんですか? 出てってください!」
「明日のことなんだけど……」
「新助手の面接が19時からあるんでしょ? ちゃんと覚えてますよ!」
「いや、記念日のことなんだけど」
「……誰から聞いたんですか?」
「サリーから」
ジーク先生は弱弱しそうな声で言った。オータムさんの目にはちょっと泣いた跡があったような気がした。
「ごめん」
ジーク先生が素直に謝ると、オータムさんは手を両手に重ねて思いっきりみぞおちに両手をぶち込んだ。
「あごは!」
ジーク先生からそんなうめき声がとびだし、みぞおちを抱えてうずくまった。オータムさんはうずくまっているジーク先生を見下ろして言った。
「これで許してあげます」
「ちゃんとパーティーは開くから……」
ジーク先生は苦しみ、のた打ち回りながらも言った。
「私は、パーティーをして欲しいから怒ってるんじゃないんです!」
「じゃあ……なんで……」
「もういい! 出てってください」
オータムさんはそっぽを向いた。オータムさんの肩は震えていたように見えた。
――あっ、ジーク先生がオータムさんの肩を抱いた。
「ば、なななにするんですか?」
慌てふためくオータムさん。
「お前には本当に感謝してる。俺が今ここにいるのはお前のおかげだよ」
オータムさんは何も答えない。
「ただ、こういう記念日とかには無頓着で……本当にごめん」
しばらく沈黙が続いた。
「ジーク先生……あの、もう少しこうしてもらっていても……いい……ですか?」
――なんか、見ているこっちが真っ赤になる。
「あっ、サリー何してるの?」
後ろからロス先生の声がした。緊張感のない間の悪いロス先生の声が。2人はその声にびっくりして即座に離れた。
結局、ロス先生は昼ごろにサプライズパーティーを開いて、オータムさんはとても喜んだ。19時には新助手の面接があり、2人を採用した。ジーク先生とオータムさんはお互いを少し意識していたのか口数が妙に少なかった』
よし、今日の日記終わり!
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