第33話 新参者、アリエ

<アリエ=クローザ>


 ジーク先生の診療所に勤め始めて気づけば3年が経過していた、辛いこともたくさんあったけど、なんだかんだでみんないい人たちだ。しかし、たまに新参者のあたしにはついて行けないこともある。

 ジーク先生の独り言かもわからない呟きもそれにあたる。


              ・・・


 ある診療中にジーク先生がボソッと呟いた。


「アリエってさ……今幸せ?」


「別に普通ですけど……」


 戸惑いながらも、そう答えた。

 そもそも幸せかと聞かれてYESと答える人は鼻持ちならない花嫁ぐらいだと思っている。自らを幸せと吐く女ほど、いけ好かないものだ。


「いや、そうだよな! やっぱり刺激が足りないよね!」


「別にそんな事言ってませんけど……」


 刺激なら、毎日の地獄のような日々で十分だ。どちらかというと、足りないのは安らぎの方だが。


「俺ってさ……なんでモテないと思う?」


「そ――し、知りませんけど……」


 喉の奥まで出かかった――そんな奇言ばっかり吐いてるからじゃないですか、と。しかし、それは大人として言ってはいけないことだと思い、心の奥にしまった。


「やっぱり若さが足りないって思われてるんじゃないかな! ほら、いつも疲れた感じだよな?」


「はぁ……まあ」


 『疲れた』……というよりは『憑りつかれた』ような感じでは。いつも病的に患者を治していくジーク先生、不気味です。


「今度祭りあるよね。そこでちょっと楽しんじゃおっかな」


「いいんじゃないですか――」


 ――好きにすれば。こんなふうに毎回心の中で突っ込んであたしは性格がよろしくないのだろうか。


「そうだよね。この際、彼女がいるいないは忘れて踊り狂う……そんな日があってもいいよね!」


「まさか……『ジーク・ザ・ダンシングナイト』をやるんですか?」


 なぜか隣にいるオータムさんが飛びついた。


「そう、一夜限りの復活さ! 『ジーク・ザ・ダンシングナイト』!」


「ちょ、ちょっと待って下さい……やったあ! 私その日非番です!」


「オータム! 運がいいな……その日は伝説の幕開けだぜ!」


 1時間後、ロス先生が猛烈ダッシュで部屋に入って来てジーク先生を揺さぶる。


「兄さん! 聞いてないよ! その日に『ジーク・ザ・ダンシングナイト』やるなんて! 俺その日仕事だもん!」


「残念だなロス……だが、お前のサポートがなければ決して復活させようなんて思わなかったぜ! 本当にありがとうな」


「……ザックスにその日の治療代われるかどうか聞いてくる」


 次の日、『ジーク・ザ・ダンシングナイト』をやるという噂が流れて、住民たちが診療所に押し寄せてきた。住民たちはジーク先生に次々と尋ねた。


「本当に……本当にやるんですか?」


 町長が興奮冷めやらぬ様子で尋ねた。


「ああ……やるともさ」


「じゃあ、わしらも久々に燃える時が来たようじゃな」


「じいちゃん、歳を忘れて踊り狂えよ!」


「ああ……この日を待っていたんじゃよ!」


 誰もが『ジーク・ザ・ダンシングナイト』を心待ちにしていた。


                ・・・


 当日、その日は土砂降り、しかも運悪く国王がなくなり、国中が喪に服した。オータムさんが凹みながらジーク先生に言った。


「こんなことって……」


「そう気を落とすなオータム……次の機会にまたやろうな……」


「あの……ところで『ジーク・ザ・ダンシングナイト』ってなんですか?」


 私は当然の質問をしてみた。

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