第32話 俺だって告白されたんだぜ
<ジーク=フリード>
「ジーク先生! 私と付き合って下さい」
そう、それは、この一言から始まった。
「うーん……うーうーむ……どうしようかなぁ」
さっきから5回この言葉を繰り返しているが、オータムは全部無視。
――気づくまで言い続けてやってやる。
「……ジーク先生何を悩んでるんですか?」
やっとオータムが反応した。
「あれっ、わかっちゃった?」
「20回もつぶやけば嫌でも気づくと思いますけどね!? と言うか黙れ」
「いや、全然違うんだけどね……実は12歳の女の子に告白されちゃってね」
瞬間、バーンとカルテを机に叩きつけたオータム。
「……何嬉しそうにしてるんですか!」
「うっ、嬉しそうにしてるわけないだろ!」
ただ、告白されるのなんてこれまで無かったから少し戸惑っているだけで。
「12歳の子に告白されてデレデレしてるなんて犯罪ですよ! この犯罪者!」
軽蔑の眼差しを向けられて思わず怯んだ。他の助手たちもその声でこっちを振り向いた。言うに事欠いて犯罪者ってあんた。
「お、おまえなんてことを! みんな、何でも無いから仕事して」
――そんな目で見んといて。
「いいからさっさと告白を断って下さいよ!」
「わ、わかってるよ!」
それを思うと深いため息が出た。我ながら贅沢な悩みだと思うが、告白を断るのは気が重い。
翌日、診療所に告白してきた女の子が訪れた。その子は廊下にずっとウロウロしていたみたいで、休憩時に廊下で歩いている時に捕まった。当然、女の子は告白の返事を待っていた。
「この前はありがとう……告白してくれてうれしかった。でもな俺は君とは付き合えない」
我ながらはっきり言えたと思うが、女の子は凄い目で睨んできた。
「……どうしてですか?」
「いや、その君とは年齢も離れているし……」
「年齢なんて関係ないじゃないですか! 私もう大人ですよ! 愛があればそんなの関係ないですよ!」
「いや……しかしだな」
――多少は関係があると思うぞ。仮に君と付き合うとしたら俺は軽蔑の眼差しを四六時中浴び続けることになるし。
「私……絶対に諦めませんから!」
そう言い残して女の子は去って行った。
横で聞いていたオータムは、もっと凄い目で睨んできた。
「ばかばかばかばか! なんで年齢の話なんか持ち出すんですか? そんなこと言われたらあなたがその子に未練があるみたいじゃないですか!」
「だって、恋愛対象じゃないなんて言われたらその子傷つくだろ! だから――」
「しょうがないじゃないですか! 恋愛対象じゃないんだから! なんでフッてもその女の子にいい印象でいようとしてるんですか? 男なら自分が悪者になるくらいの覚悟は持ちなさいよ!」
「……そんなこと言ったって……あっ! 自分だって断りきれずにゴードンさんて奴と付き合ってるらしいじゃん!」
聞いたぞ、前に2人でご飯食べに行ってたって。
「……今は私のことはいいじゃないですか」
バツが悪そうに怯むオータムに対し、反撃を開始。
「でた、でたよオータムさん。自分を棚に上げてそれはないんじゃないですか?」
「わ、私は……その……付き合う可能性があるじゃないですか! まだ、ゴードンさんと付き合うかもしれないじゃないですか!」
「えっ、好きなの?」
「……いえ」
絶対に脈ない。ゴードーンさーん、絶対に脈ないですよ。
「ほらぁ! 絶対ないじゃん!」
「ともかく……次はちゃんとビシッと言いなさいよ!」
そう言い残してそそくさとオータムは逃げていった。
オータムとの舌戦を制したところで状況は変わらず思わずため息が出た。
告白を断る……俺はあれほど残酷なことをやらなければいけないのか。前にラーマさんにフラれた時は、死のうと思った。
まあ、それでも言わなくちゃいけないことはわかっているのだが。
次の日、廊下で歩いていると、その女の子がジークめがけて走ってきた。昨日散々練習した言葉を放つときが来た。
「お前みたいな子供には興味ないんだ! お前みたいな……君みたいなお子ちゃまには興味ないんだの方がいいか、よし!」
その女の子は廊下の交差点でロスとぶつかった。ロスはぶつかった女の子をお姫様抱っこで持ち上げて言った。
「ごめんよ……大丈夫かい? 今ベッドまで運ぶから」
「……はい」
女の子の目はハートになっていた。
――フる前にフラれました。
その光景の一部始終を見ていたオータムは、俺の肩をポンポンとたたいた。
「オータム……」
「何も言わないでください。12歳の恋ってこんなもんですよ……今日は仕事終わったら飲みますか?」
「うん……」
「あっ、駄目だ。今日夜勤じゃないですか。仕事仕事」
こんな時ぐらい休ませろテメー!
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