第21話 オータムさんの憂鬱⑤


 1ヶ月後、優秀な医療魔術師を採用すべく、面接を行うことになった。

 面接官は私とジーク先生。ロスとアリエ、サリーは治療に当たって貰った。

 今回の医療魔術師候補者は30人。前回募集した時には全員辞職を余儀なくされている。非常に有難くない話だが、その方々がこの診療所の粗悪な環境を言いふらしてくれたので、名のある医療魔術師がことごとく集まらなかった。

 なので、即戦力は諦めて『君も未来の医療魔術師だ』と銘打ち若手の採用に力を入れた。ジーク先生はなーんも考えてないが正直この30人の実力はかなり不安だ。


 1人目の面接者。チャ=ハマラ―ン、26歳。医療魔術師の家系では有名なデスラーン家の血筋を継いでいるらしい。魔力の強い者のほとんどは元を辿れば強力な魔術師が家系なので、密かに期待していた。


「チャ=ハマラ―ンさん! 入って来てください!」


 入ってきたのは40代ぐらいの女性。アレ、確か若い男だったはずじゃ……と思ったら、女性の後ろに隠れた様に若い男が入ってきた。


「いや1人だけなんですけど――」


「私は付添です。採用して頂きたいのはこの息子のチャなんです。この子はやればできる子なんです。ほら、チャちゃんからもご挨拶して!」


 母親に促された後ろの男がモジモジしながら一礼した。

 そうか外れであったか。そして、マザコンであったか。


「ジーク先生……親同伴はどうかと思いますよ。だってあの人もういい大人じゃないですか!」


 そうジーク先生に耳打ちしたが、なんか……キラキラした瞳でチャを見つめている。何やら嫌な予感。


「いや、やればできるっていうお母さんの言葉を……俺、信じようかと思うんだけど」


 何言ってんのージーク先生ー!?


「だから……た、ただのマザコンじゃないんですか?」


 必死に止めた。親同伴で面接に来るなんて医療魔術師と言うより社会人としてどうなのかと。いや、私自身親はいないからよくわからないんだけども。


「採用」


 ジーク先生は衝撃的一言を添え書類に合格印を押した――いや、押しちゃった。

 私の言葉、何一つ、聞いてないんですね。あまりにムカついたので思い切り足を踏んづけてやった。


「ありがとうございます。ありがとうございます。この子はやればできる子なんです。ほらっ! チャちゃんからもお礼言いなさい」


 チャの母親は涙を流して何度も頭を下げた。

 当の本人はビクビクしながら母親の後ろに隠れている。絶対にこの子の採用は失敗な気がする。いや失敗だな。


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