第19話 オータムさんの憂鬱③
やがて、ジーク先生の体力が回復し診療室に入ってきた。長らく睡眠を必要以上取ったことがないため、どんなに疲れていても3時間後には目覚めてしまうらしい。大抵は二度寝してるが、今日は珍しく起きてきた。ジーク先生はまっすぐにロスの下へ直行して熱い抱擁をする。
「兄さんもう1週間ハグされっぱなしだよ! もういいよ!」
しかし、ジーク先生は離さない。金輪際逃がさないと言わんばかりに。いい加減離せとロスは手をほどこうとするが一向に離さない。
あんたら、妙な噂流れてますからね。
「……兄さん、どうだい俺の技術は?」
とうとうロスがその質問をジーク先生にぶつけた。正直、いつ言うのだろうかと思っていた。要するにロスは自分の力が兄を超えたかを確認するために帰って来たのだ。
「最高だよ言うことないよさすが俺の弟だ」
手放しで褒め称えるジーク先生。
――ほんとーに何も考えてないんですねあなたは。
「……僕と兄さんのどっちが魔術医師として上だと思う?」
ロスはジーク先生に挑むような目つきでを見据えた。
「そんなのロスに決まってるじゃないか!」
あっさり認めたジーク先生。
おいおい、それじゃあロスの気が済まないんじゃないか。ロスを認めることは出来ないが、気持ちはわかる。ジーク先生とロス。同等の才を持つ者の優劣がはっきり別れるのは経験だった。ロスの腕が上達すればその分ジーク先生の腕も上達する。決して埋まらない壁がそこにはあった。昔、ロスが呟いたことがあった。『いつまで兄さんの背中を見ていればいいのだろう』って。
「兄さん、僕は本気で聞いてるんだよ?」
怒ってる。きっとロスはひたすらジーク先生を追い抜くために努力してきたんだろう。そして、やっと先生を超えたという自信を胸に帰ってきたんだろう。
「お前だよお前! 言うこと無し。本当にお前。そんなことよりお前に見せたいものがあるんだ!」
うわっ、残酷だ。ジーク先生……無邪気にロスを歯牙にもかけてない。
「そ、そんなこと……兄さん!」
「ど、どうしたよロス、何怒ってるんだよ」
「聞いてくれ、僕は兄さん……いや、天才医療魔術師ジークを超えるために今まで頑張ってきた。そして猛勉強とたゆまぬ努力によって聖都パレスの医療魔術所長という誰もが世界一と評されるほどの地位も名誉も手に入れられた」
「ええっ! ロス先生所長だったんですか?」
アリエがまたも口を挟んだ。会話に混ざりたくて必死なようだ。
「さすがは俺の弟だ。自慢だよ自慢。俺は今お前を担ぎ上げて全力で走りたいよ。これが俺の弟だってな!」
聞いていた全員にとめどない悪寒が走った。冗談じゃないとロスに急いで振り払われ事なきを得たが。
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