第15話 オータムさんの休日③
翌日、アナン公国の主城であるセントジハード城で賞の授与式は開かれた。煌びやかな装飾、綺麗な恰好をした貴族たち。どうにも場違い感が強い。
やっぱり、ドレスケチって安いのにするんじゃなかった。
ドキドキしながら待っていると、後ろから肩をトントンと叩かれた。振り向くと、そこには知った顔があった。
「ゴードンさん、どうしたんですかこんな所で」
「私はこのアナン公国の騎士団長なんですよ」
げっ、そんな偉い人だったんだ。ただのナンパな人じゃないんだ。
「よかったぁ、誰も知り合いいなくて正直、いづらかったったんです。ドレスをケチっちゃって安いのにしちゃったし」
「いえ……あなたがこの会場でとびきり美しいのは紛れもなく事実ですよ」
――歯の浮くようなセリフを。やっぱりただのナンパ野郎なんだろうか。
「医療魔術師ジーク代理人オータム殿!」
あっ、呼ばれた。
ゴードンさんにお辞儀をして、前に歩く。あー、だんだん緊張してきた。
アナン公国女王テーゼ様の前まで来た。この人が……大陸最強の魔法使いと名高い人か。滅茶苦茶綺麗だ。
「貴殿は戦場での医療活動という……ここに表彰する」
大神官が祝辞を述べ、観衆から満面の拍手が舞い降りた。テーゼ様に一礼し、振り返り観衆の前に立ち深々とお辞儀した。
「ありがとうございます。このような賞を頂いてジークも非常に喜んでいることと思います。ここでジークより手紙を預かっているのでこの場で読み上げたいと思います」
預かっていた手紙を開いた。
――やばーい、やっぱり練習しておけばよかった。
「本日はこのような賞を頂き、非常に光栄です。しかし、私は本来このような賞をもらえる人間ではないのです。私は戦場で患者が多く人が傷ついているにも関わらず、何度も何度も逃げようとしました。治療しても治療してもキリがなく、終わりのないこの地獄に耐えられなかったのです。しかし、私が今この賞をもらっているのは、ここにいる……オータムと……サリー、アリエという助手たちのおかげなのです。彼女たちはこの地獄にもめげることなく、ただひたすら患者のために……いつも笑顔で、時には私を元気づけてくれました。だから、私がこの賞をもらって嬉しいのは……この助手の3人が表彰されているようで嬉しいのです。本日は本当にありがとうございました」
何を……書いているんだあの人は。涙をこらえるのに精いっぱい、声が震えちゃったじゃないか。
観衆から改めて満面の拍手が送られた。泣いてる姿は見せたくない。極力下を向いてゴードンの下へ戻った。
「いいスピーチだったよ……オータム、泣いてるのかい?」
「……ふぅー、じゃあこれで私失礼しますね。早く戻ってジーク先生を助けなきゃ。私は助手なんだから」
深々とお辞儀をして走る。一刻も早く戻りたくなった。
「あっ、オータム! 君はここに留まって暮らす気は――」
「ありませーん! さよならー」
もう走る。嬉しくて走る。
・・・
3日後、診療所に帰ってきた。
「お前! 公国クッキーは――っておいどうした!」
帰って来るや否やジーク先生に抱きついてやった。
「えっ……どうしたお前バカこんなところで――何かあったか」
サリーもアリエもその光景に開いた口が塞がってないようだ。
――でも関係ない。
「ありがとうございます。あんな風に思ってくれているなんて……嬉しかった」
少し経って、サリーとアリエに手紙を見せた。するとすぐさま二人ともジーク先生に抱きついた。私もその後ろから抱きつく。
「いや、おいお前らまで……患者さんたち見てるし! ってか危篤状態の人もいるし……こんなバカお前ら」
照れてる。
でも、関係ない――だって抱きしめたいんだもん。
「あの……い、息がっ!」
患者さん苦しんでる。
でも、関係ない――いや、それは関係あるか。
「だ、大丈夫ですか! ジーク先生、治療再開治療再開」
また私の戦いが始まった。
―――――――――――――――――――――――――――――
後で、ジーク先生がしきりに授与式会場にラーマさんが来てたか聞いてきた。
「いや、どうだったあの手紙? 助手想いの先生ーって感じ出てただろ? どうやったらかっこよくなるか必死で文章考えたんだから。どんな感じで聞いてた? うっとりしてた? 惚れ直したかな俺に――」
その後、ジーク先生をボコボコにしたのは言うまでもない。
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