第14話 オータムさんの休日②
5日後、アナン公国王都ベッセルバルムに到着した。
うーん、やっぱり田舎のノーザルとは違って美しい建物が立ち並んでる。しかし、本格的に旅行になってしまったな。ジーク先生に死ぬほどごねられながらも挫けず来られてよかった。正直、診療所を離れるのは気が引けて心配でもあったが、こうなったら本格的に羽を伸ばすのみ。
「ようこそ、王都レッセルバルムへ」
いきなり男が声をかけてきた。なんとなくちゃらちゃらしていて気に入らない。そして、ようこそと言われて何と返せばいいのかわからない。
「あの……初めまして。オータムって言います」
男の人は驚いた表情をしたが、やがて大声で笑い始めた。
――えっ、私何か変なことした?
「はははは……ごめんごめん。ナンパしてそう丁寧に自己紹介されるとは思わなくてね。こちらこそ無礼でしたね。僕はゴードン。よかったらこの王都を案内するけど」
うーん、確かに予想以上に広いし、どう観光したらいいのか正直わからないな。
「じゃあ、お願いしてもいいですか?」
「喜んで」
そうゴードンさんは深々とお辞儀した。うん、そんなに悪い人じゃなさそうだ。
「ありがとうございます。手配されてる宿に行きたいんですけど」
「かしこまりましたお姫様。えーっと……ああ、ベッゼルガウロ大通りにあるんだ。これなら近いね」
そう言いながらさりげなく荷物を持ってくれて、先導し始めた。
はぁ、ジーク先生にもこれぐらいの甲斐性と気遣いがあればなぁ。
歩きながらゴードンさんは王都レッセルバルムの案内をしてくれた。ます、この通りにあった巨大な建物。金さえあれば大陸に存在するものが全て手に入ると言われている競売所、ロイヤルオークショニア。ここは知っていた。
アナン公国を訪れたのは、ついでに最新の医療魔術の本を大量に買うためでもあった。はっきり言ってジーク先生の魔法は常識を大きく外れている。どうやって治しているのか聞くと、『なんとなく』とか『疲れた』とかそんな回答ばかり。
最初はふざけてるだけかと思っていたが、どうやら本当にわからないらしい。要するに全部感覚。だから自然とアフターケアも感覚になってしまう。正解がどうにもわからない。たまに、最新の医療魔術論文を見てると以前にジーク先生が実践していた治癒技術だった場合がよくある。後で、『あの時はこういうアフターケアをすればよかったんだ』と反省できるので、ジーク先生のためじゃなく、私のために医療魔術書を購入している。
歩いていると色々な出し物もやってて。横を見ると若い音楽家が演奏してるし、あそこでは大道芸が路上でやっていた。
――そっちの裏沿いは風俗街か。えっ、よく行くの? 最低。
宿に到着した。ゴードンさんは荷物を優しく渡してくれて深々とお辞儀した。
「じゃあ、僕はもう行くから。楽しかったよ」
「そんな、私こそ。本当にありがとうございました」
こちらも負けじと深々とお辞儀した。
「……もう、会えないよね?」
「ええっと……そうですね。ただ、ノーザルの診療所に来てくれればいつでも私いるんで。もしこっちに観光に来たときは、訪ねて下さい。って言っても今は激しい戦の最中なんで当分は無理かなって思いますけど」
そう言うと、ゴードンさんはギョッとしたように驚いた。
「君は……もしかして天才医療魔術師ジーク殿の……」
「ええ、助手なんです。今日は代理で来たんです。何でも賞が貰えるみたいで」
「そうか……君があの噂の……」
「噂の? 私噂になってるんですか」
ゴードンさんは深々と頷いた。
「天才医療魔術師ジークを知らない男は大陸では誰もいないが、その助手である君も同じく有名なんだ。名前までは知らなかったが大陸で一番怖いって」
ジーク先生……後で絶対に殴る。
「好きで怖くしてるんじゃありません。私だってもっと優しくできるもんならしたいけど」
「もちろん戦場での医療活動は困難を極めると聞いた。それは無理のないことだってわかってる。単に僕が勘違いしてたんだ。もっと……その……君のような綺麗な人を想像してなかったんだ」
言われた瞬間、顔が真っ赤になった。ゴードンさんもどうにも照れたようで、逃げるように去って行った。
――綺麗な人だなんて……なんて正直な人。
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