第13話 オータムさんの休日①

<オータム=アーセルダム>


 いつものようにジーク先生をどついてると、サリーがいつものように息をきらしながら診療室へ入ってきた。

 うーん……何が楽しくてこの子は嫌な報せばかり持ってくるのだろう。いや、別に戦があっていずれは患者はここに来るんだけども、いち早く知って私たちに教える必要性ってあるのだろうか? だって私たち嫌な顔しかしないし。


「ジーク先生! アナン公国からの使者の方が来ていますよ」


 アナン公国はバカラ帝国に次ぐ広大な領土を持つ国だ。女王テーゼは圧倒的な魔力を保有し、バカラ帝国も大国バーネストロもそれを恐れて手を出さないらしい。また、戦乱を起こさない国としても有名で、いつかはそんな場所で住みたいと心から願っていた。

 しかし、今はそれどころではない。


「適当にあしらってくれよ! こっちは死者出さないよう頑張って忙しいんだから! シシャだけに……シシャだけに、だぞ!」


 最近5分休憩で『手術中にウケる医療魔術師ジョーク集』を読んでいると思ったらこの人は。まさかこんな所で狙っていたとは。


「……先生、本当にそう言うくだらないこと言うの辞めて貰えますか? 第一不謹慎だし。人格疑われますよ」


 サリーに本気なトーンで怒られていた――ザマ―ミロ。反省せい。

 いつも私が言っても、聞く耳持たないんだから。蹴っても、殴っても。効く身体も持ってないし。たまにはそうやって、他の子から怒られて反省なさい。


「話続けますよ。先生の戦場での医療活動を貢献して、賞が貰えるらしいですよ! そして来週、授与式があるので来てほしいんですって」


 ふっ、やっと気づいたのか。はっきり言ってその気づきは遅い。ジーク先生が何年間、何万人の患者を救ったと思ってるんだ。どれだけのものを犠牲にして……今更そんなことを表彰されたところで嬉しくもなんともない。そうですよね、ジーク先せ――


「そうか……丁重にもてなしといてくれる?」


 めっちゃまんざらでもない様子しとるー!


「……かっこよく『俺は賞なんかに興味ない』とか言って下さいよ」


「いや……自分たちのやってることを世間から認められるのってやっぱり嬉しいだろ?」


「……まあ、そうですね! たまにはいいかもしれませんね」


 ずーっと旅行に行ってなかったし。アナン公国かぁ。王都レッセルバルムは『大陸一美しい都』と有名だし、地酒もおいしい。

 まあ、私にそんな時間あるわけないけど。


「オータム、俺のタキシードってどこにあったっけ?」


 ジーク先生……行く気か? このクソ忙しい時に。


「当然のことながら行くなら代理でサリーかアリエですよ」


 あなたが行ったら多くの患者さん死んじゃうし。それじゃあ言わずもがな本末転倒だ。表彰中にバッタバッタ患者死んでたら意味がない。


「……なんでなんだ?」


「なにがですか?」


「なんで授与式に助手が行って、診察所で俺が診察してるんだよ! せっかくの俺の晴れ舞台なんだから行かせてくれてもいいだろ」


 無視。自分でもわかってるくせに、そんな駄々こねられても知らん。さーて、またシフト組みなおさなきゃなぁ。アリエとサリーにはまとまった休みをあげたいとずっと思ってた。いい機会だ、どっちかに行ってもらおう。


「オータムさん行ってきてくださいよ」


 サリーが満面の笑みでそう言ってくれた。

 ジーク先生、あなたはどうして彼女のような気遣いが出来ないんですか。


「いや、そんな訳にはいかないよ。いいよ、2人には本当に感謝してるんだから。2人ともって訳にはいかないところが本当に申し訳ないけど。うーんっと羽伸ばしてきて。残ってくれた子にもまとまった休み何とか作るし」


 感謝と言う言葉では恐らく足りないのだろう。でも、こんな月並みな言葉しか思いついてやれないのが学が無い哀しさだ。


「いえ……やっぱりオータムさんですよ。今までろくに休みなんて取ったことないですよね? 私たちにばっかり休みを振って自分のことは本当に後回しなんだから。私たちだってオータムさんの喜ぶ顔をみたいんです」


 サリー……ダメ、今、気を抜くと、私泣いちゃう。


「……いや、でもアリエにだって聞かないと」


「アリエとこの前ずっとその話してたんです。こういうことがあったらオータムさんに行かせようって。だから早く支度してください」


 うっ……やーばーいー、涙が出ちゃう。どーしよー。


「俺はっ! 俺だって一度たりとも休み取ったことないんだけど! 俺は?」


 ……涙引っ込みました。


「まあまあ……先生がいないと患者たちが死んでしまいますから。オータムさんが代わりに行ってくれてますから。お土産買ってきてくれますから」


「いらん! 俺は絶対にいらんぞ!」


 あっ、拗ねた。


「先生の大好きな『公国クッキー』も『公国チョコバニラモナカ』も買ってきてくれますから」


「喰わんと言ったら俺は喰わん」


「まあまあ――」


 サリーがジーク先生をなだめてくれたので、何とか出発することができた。

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