第9話 2ヵ月に1回あるかないかだからな


 医療魔術師候補たちがやってきて10日が経過した、いつものように点呼のため彼らを並ばせた。今日も1人いない。すでに、残り半数になっていた。


「……俺の教え方が悪いのかな?」


 そう尋ねると、オータムが言い辛そうに口を開いた。


「いや、テラッサ地方の戦で800人の患者が来たじゃないですか……そして、ジーク先生の発狂しそうになった様子を見てたじゃないですか……さらに、私がジーク先生のことボコボコに殴ったじゃないですか……終いには、拘束して無理やり治療させたじゃないですか……その光景を見たら誰もやりたくなくなると思いますけどね」


 ち、違うんだ。アレは誤解なんだ。


「みんな! この10日に起こったことはそうあることじゃないぞ! 2ヵ月に1回あるかないかだからな」


 そう言って彼らをなだめた。本当は1ヶ月に1回だったが。


 翌日、点呼すると更に二人いない。


「なぜ……」


「いや、2ヶ月に1回あんなことがあったら私ならやめますけどね」


 うーん……人の心って難しいな。


                ・・・


 1ヵ月が経過した。とうとう医療魔術師候補もとうとう2人になってしまった。アッサムとベラソ。よくぞ……よくぞ残ってくれた。


「君たち2人は、1ヵ月間俺によくついてきてくれた。その……この1ヵ月は特にひどかったんだ。ほら、でかい戦が3度あっただろ? 1ヵ月に3度の大合戦はなかなかないんだ! 半年に1回あるかないかなんだ!」


 そう必死に言い訳していると、オータムが口を挟んだ。


「ジーク先生……彼ら疲弊しきって寝ています」


 ベッドで疲弊しきってる……しかし、確実に成長してる。各々1割ほどの患者を任せてるが、確実に治せるようになってきた。一般の医療魔術師は1日3人の重傷患者を治せれば十分だ。その2倍の重症患者を任せられる人材を優秀とされ、更にその倍を治療できる医療魔術師は国を代表する医療魔術師だそして、アッサム、ベラソは1日15人以上重症患者の治療ができるようになっている。結局何が言いたいかって言うと、彼らは十分合格だと言うことだ。 

 しかし……しかしまだだ――まだ逃がさんよ。


「……あとは、最終試験を残すのみだな」


 オータムの作業の手がスッと止まった。


「最終試験? そんなの計画にありましたっけ」


 そんなの俺の独断に決まってるだろ! とは言えないのでさも計画に組み込まれていたかのように言おう。


「10日後に……その……俺抜きで治療を行う! もちろん通常の日だ。そこで終日……いや半日こなせれば晴れて1人前の魔術医師の証を与えようと思う」


「……ちなみにジーク先生はその日は?」


 うっ、オータム鋭い。


「いや……その……あっ! たまたまその日はラーマさんと食事に行く日だった! 偶然だけどちょうどいいよな! あははは――」


 オータムは呆れたようにため息をついた。

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