第8話 まだ医療魔術師候補は28人もいる


              ・・・


 しばらく治療してたがひたすら無言。もうかれこれ5時間以上経過してるが誰も質問しない。というか、声すら発さない。わからないことは質問するように、俺はそう言った……確かにそう言ったのに。


 ――さては……寝てるな。何たることだ。少しぐらい他の医療魔術師よりも能力があるからってそんな天狗は困る。いっちょビシッと怒ってやる……いや、しかし最初から怒鳴ってしまうのもどうだろう。診療中、俺だって眠ってしまうことはある。瞬間、オータムに殴られ、蹴られ、怒鳴られ……別にその時でいいか? いや、やはりよくない。よしっ、注意しよう。そう心に決め3人の方を振り向いた。

 ――めっちゃこっち見てるー!

 これ以上無いぐらい真剣にこっち見てるじゃないか。どういうことだ!? なんで……なんで質問してこないんだ。


「あの……わからないことがあったら積極的に聞くように」


 もう一度言ってみた。


「あの、じゃあ一ついいですか?」


「もちろんだガサノバ。何が聞きたい?」


「……トイレどこですか?」


「あっちだよ!」


 そう言うことじゃない。そういうことじゃないんだよガサノバ。


              ・・・


 それからまたしばらく時間が経過して、とうとう最後の患者の治療が終了した。

 終わってしまった。終わってしまったぞおい……なんで質問してこない。

 俺の医療魔術なんて所詮アレなのか。すでに他の場所では当たり前の技術で全部丸わかりなのか……なんてこったい。天才天才って助手たちからもてはやされて調子に乗っていた。天狗はもしかして俺なのか。そう……なんだな。


「……今日の診療はこれで終わりにする。明日から君たちにも重症患者担当して貰うからよろしく。じゃあ、俺はもう寝るから」


 そう言い残して部屋を出た。今日は枕噛んで寝よう。

 肩を落として歩いてると、急いでオータムが追いかけてきた。


「ジーク先生、彼らにはまだ重傷患者の治療は無理ですよ」


「嘘を言うなよ! 誰も質問してこなかった。ってことは俺の治療なんて時代遅れなんだろ!? もう、いいよ。もう……いい」


 肩を震わせながら呟くと、オータムがこれ以上ないくらいため息をついた。


「バカですかあなたは!? いや、バカなんでしたね。3人ともあなたの治療見て青ざめてましたよ。それでも必死で見て覚えようとしてなんとかしようとしてたのに」


「えっ、だって何の質問もしてこなかったし」


「どんだけ質問して欲しいんですかあなたは!? 何がわからなかったかわからなかったんでしょ。それに3人とも経歴としては名門、高学歴だからプライドも高いでしょうし。なおさら聞けなかったんじゃないですか?」


 えっ……そうなのか。お前ら……そうなのか!? すぐに走って戻った。


「アッサム、俺の治療どうだった?」


「……凄かったです」


「カサノバ、質問することが無かったんじゃなくてわからなかっただけなのか?」


「……すいません」


「クイジ、高学歴だからプライドが高くて聞けなかったのか?」


「……はい」


 お前らー。俺は嬉しい。今、猛烈に感動してる。やっぱり俺って天才なんだ。


              ・・・


 翌日、なぜかクイジ、カサノバの姿が無かった。


「あれ……オータム、あの2人は?」


「……やめました」


「ええええっ! なんでっ!?」


「超絶アホですかあなたは!? いえ、とてつもないアホなんでしたね。あんな風にプライドへし折っておいてよくその言動が吐けますね。『別の道を探します』っそう言って去って行きましたよ、可哀想に。才能あるのに」


 ――シンジラレナイ……最近の子はそうなのか!? どれだけ打たれ弱いんだよ最近の子は。そう思いながらふと周りを見渡すと助手の2人が白い目でこっちを見ていた。サリーもアリエも、俺のために自分の時間を削ってくれている。そして、今、まさになんだか俺のせいみたいになってる。俺のせいじゃないのに。


「まったく最近の若い子はこれだから困る」


 なんとか責任を問われないようにそう言ってみた。


「いや、あの2人はあなたより1回り以上も年上ですよ」


 ガビーンッ!?


「えっ、意外と若づくりなんだね彼らは。あははは、あははは」


 乾いた笑いが診療室を木霊する。


「1回りも若い男にアレだけ実力差見せつけられたらそりゃぁ自信も無くなりますけどね。終いには心の中、読まれてプライドへし折られて。まあ、初日で逃げ出すようなら今後持つわけないからいいんですけどね」


まあ、そらそうだわな。切り替えよう。まだ医療魔術師候補は28人もいる。

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