第7話 早速だが、見て覚えろ


 弟子集めを開始し、1ヶ月が経った……長かった。


 睡眠時間は1時間。各国の医療魔術師関係者に手紙を書いた。途中の眠気はペンで腕をぶっ刺すことで解決した。また、治療した患者に医療魔術師がいたら紹介してくれと毎回言い続けた。もはやそれしか言わなかったので、睡眠時間が短くなって本格的にダメになったかと本気でオータムに心配されたこともあった。

 ――でも……でもだ。揃いましたよ医療魔術師候補30人。

 今、まさに診療所の廊下にズラリと並んでいる。しかも各国の腕利きが集まった。俺の実力は国境を越えて伝わっており、技術を学ぼうと野心高い医療魔術師が揃った。そんな人の教えを請えるなんて光栄だと医療魔術師候補の1人は言っていた。

 いやいや、まあそれほどでも、大いにあるんだけどね。


「感慨に耽ってないで早く教えたらどうですか? いつまでもズラーッと立たれても超絶邪魔なんですけど」


 オータムが睨みつけてきた。

 まあ、それもそうか。しかし、オータム……どうでもいいが君はすでに怖がられてるぞ。


「さて……早速授業に入る。とは言っても教える時間はまったくない。私が実際に治療するので、それを見て勉強しなさい」


 ざわついた。これ以上ないくらいざわついた。


「……衝撃のお言葉ですね。いきなりの指導蜂起。見て学べ、やって覚えろ。募集しておいて」


 オータムが呆れ顔で毒突くが、それ以上は何も言わなかった。どうやら今の状態だったらそれしかないと思っていたらしい。


「ジーク先生! ステーラエル沼地で300人の怪我人がこちらに向かってます」


 サリーがいつも通り嫌な情報を持ってきた。

 うーっし。やるかぁ。


「じゃあ、まずは俺の治す様子を見ていて」


 そう言って準備運動をしてると、オータムがサーッと寄ってきて耳元で囁いた。


「ジーク先生、面積、面積考えて下さいよ。この診療所のどこに30人立てる部屋があるんですか!」


 そ……そうかっ。そう言われてみれば確かに。


「じゃあどうすればいい?」


 小声でオータムに尋ねと、足を滅茶苦茶きつく踏まれて睨まれた。


「みなさん、まずは軽傷患者を治せる者はそっちを治して。軽傷を治せない人は助手のアリエから教えて貰って。コツさえ掴めばできるから。一応、それ見て重傷を任せられそうだったら、ジーク先生の治療見て勉強してね。以上」


 オータムがいつも通りの手際で仕切る。的確すぎる指示だが、何となく納得がいかない。俺がここの所長で一番偉いのに。


「あの……オータム、一応俺が医療魔術師なんだから俺が指示を――」


「ジーク先生……こっちはサリーとアリエに頼み込んで1日20時間勤務、月に1度の休日すら後回しに貰ったんです。だから、お前は黙って治療だけしてろ」


 はーい。

 と言う訳でいつも通り治療をすることにした。見学に来たのは3人。アッサム、ガサノバ、クイジ。履歴書は目を通したので覚えている。やはり期待の三人が来たか。アッサムは医療魔術師の家系では有名なシルザス家の血筋で、ガサノバ、クイジは史上最高の医療魔術師と謳われたライダールが創設した超名門クリュウ学院の卒業者だ。


「わからないことがあったら積極的に質問するように」


 そう言って治療を始めた。

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