第6話 目指せ有給! 弟子育成計画


 なんで今までこの考えに思い至らなかったんだろう、天才……天才天才天才。1人でできてしまう。1人でやれてしまう。だからこそ気付かなかった。よーく考えれば気づくことだった。助手は3人。オータム、サリー、アリエ。俺は1人。助手は3人、俺は1人。助手は――


「ジーク先生……さっきからな・ん・な・ん・で・す・かっ! 聞こえてるんですけどブツブツと。この忙しいのに鬱陶しいっ!」


 オータムがイライラしながら患者に注射をぶち込んだ。


「ぎゃぁっ! いっ……たぁ!」


 叫ぶ患者。

 やっと聞いてくれた。まともに話しかけると相手してくれないので、すでに3時間は独り言のように呟いていた。孤独な戦いだった。


「名案が浮かんだ。弟子を募集しよう!」


 実は前々から不公平だとは思っていた。助手は3人いるのにも関わらず、医療魔術師は1人。こんなのどう考えたって成り立たない。そもそも1人ってなんだよ。休めないこと前提じゃないか。


「ふっ、また……無駄なことを」


 ――あっ、鼻で笑いやがったなキサマ。


「無駄なことなんかあるもんか! 君らみたいな助手じゃなく俺のような医療魔術を目指す優秀な弟子を育てるぞ!」


 そう言い捨てて、患者に絆創膏を思い切りと張り倒した。


「だから痛いってぇ!」


 またしても叫ぶ患者。

 優秀な弟子を育てて、この地獄から脱出する。そして……そしてラーマさんとデートするんだ。


「……まあやってみたらいいんじゃないですか? どうでもいいし。そしてどうせ無駄だと思うけど」


 相変わらず、オータムの反応は冷たかったが、さっそく広報活動を開始した。仕事に支障をきたさないようにとの条件付きだったので、睡眠時間を削りながら活動した。

 

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