結/ 報告書

【人狼による越県連続殺傷事件 報告書】


 本件の犯人は、人狼による単独犯である。

 以下、詳細を記す。


 二〇〇二年四月二十八日、死亡した状態の被疑者が発見される。通報で駆けつけた警官と同行した怪異事件特別捜査班の班員の調査の結果、連続殺人犯と判明。

 被疑者死亡のまま書類送検される。


 下記に、一連の事件を時系列に纏めたものを列挙する。

 また、被害者の個人情報は秘匿事項とする。

 二〇〇二年三月十七日、広島県で最初の事件が発生。被害者は学生四名。内三名が死亡。(■■■)

 三月二十二日、同県で殺人事件が発生。被害者は六十から七十代男性一名。(■■■)

 四月七日、京都で傷害事件が発生。被害者は三十代女性一名が重傷。(■■■)

 四月十日、石川県で傷害事件が発生。■■■(■■■)

 四月十三日、三重県で目撃情報が通報される。

 四月十四日、――県で殺人事件が発生。被害者は成人男性一名。■■■。

 四月二十三日、同県で殺人事件が発生。被害者は男性一名。

 四月二十六日、同県で傷害事件が発生。被害者は男性一名。



 被疑者は十歳前後の女性。また、全身に進行の度合いが異なる腐敗が散見される。該当者がいないかCCAに問い合わせたところ、塩基登録されていない未登録個体と判明。その後捜査を続けるも、身元不明のまま送検に至る。

(一枚目の写真。頭蓋と左半分が削り取られたように喪失した、黒髪碧眼を持つ異国の少女の顔が映っている。当然ながら、血の気はない)

 被疑者の肉体の大部分が腐敗、或いは喪失しており、死亡原因は不明。また喪失した肉体も依然発見されていない。

(二枚目の写真。一枚目の写真の少女らしき遺体が映っている。腹部から下、両腕、頭部の一部がない。また、残った身体も一部が腐敗して崩れている)

 発見者の証言と解剖の結果、腐敗と喪失は人為的ではないものと断定。自然死として捜査は打ち切りとなる。


 解剖結果。

 回収した遺体の一部から摘出した脳に、特殊な病理が確認された。

 病名「病堕ち」と診断。

 該当病理は、生命の保存に基づいた特殊な飢餓状態による狂乱状態に陥る精神疾患である。また、病状が長引くにつれて肉体が崩壊することもこの病の特性である。人狼にのみ発症する遺伝子病と考えられているが、詳細は不明。

 遺体は冷凍保存ののち、CCAに移送となる。


 注意事項を列記する。

 その一。

 人狼は人間に分類された、血統の一種である。法的根拠に則って対処にあたること。

 この逸脱は国際法に違反するため、準拠するべきである。

 この二。

 被疑者を発見したのは、県外から調査のために訪れていた■■■■■の社員である。

 現場に細工が施された形跡は発見できなかったが、注意が必要と思われる。

 その三。

 一定の神性、魔性を保有した「病堕ち」は感染源となり得る。

 被疑者は該当個体であり、被害者の経過観察は、専門組織に治療と共に一任する。



 今後の再発に備え、人狼の登録情報を備えたCCA他、外部組織との連携を提言する。



 …

 ……

 ………


 秘匿項目にアクセスしました。


 申請が受理されました。

 規制が解除されました。

 閲覧が許可されました。


 該当する項目が閲覧可能です。

 外部にこの情報を持ち出すことは禁止されています。ご注意下さい。



 報告。

 今回の事件は、半年前に起きた欧州でのテロを原因とした人災であると推定される。

 被疑者は何らかの事情で精神を損傷、消失して「病堕ち」を発症、そこから「憑依」に移行した可能性が高い。

 上記のテロ騒動は、実態は■■主導の■■■■であり、原因は■■■■■■■■中に起きた混乱である。この情報はBクラスの秘匿情報であるため、この場では規制する。詳細はBクラス三名、またはAクラス一名の承認を得た後に、該当情報を参照すること。

 人狼固有の「病堕ち」は、欧州の魔性圏を中心に起こる精神性機能不全だが、被疑者は更に進行した「憑依」に至っていたと考えられる。

 このことから、被疑者の金狼は、既に廃れた筈の幻獣へ変貌していたに違いなく、これに対処したであろう存在を早急に調査、可能なら対話を行うのが望ましい。

 病堕ちと憑依の詳細は、人狼の人権保全の観点から、規定の方法で事実を差し替えること。


 最後の事件が発生した藤露市では、CCAに登録された人狼が在住していたが、追跡調査の結果、本件とは無関係であると判明。

 監視を中止する。


 追加報告。

 土師の魔女に目を付けられたため、状況を一時中断。場合によっては凍結も視野に入れること。


 追加報告。

 今後を鑑みて、協定と育成のため、藤露市に人員を一名派遣する。

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