第3話 雪吹家、台風に見舞われる?・上


玄関先に侍女が出ると何やら荷物を使いにもたせた壷装束の女性が立っていた。


「どうされたのです~また奥様にお目通しを?」


緩く使いが尋ねるとその女性は既に履物を脱いで屋敷の中に入る準備が出来ているようだった。


「止まるつもりはありませんねぇ…それでは、お使いの方々もどうぞその食材を裏にお運びになってくださ~い。」


そして、その猪突猛進とも言える女性の後ろを使いたちがついていき、緑を見つけると興奮したように足早になった。


「姉上様!屋敷が賑やかになっていますわ!」


「あら、またおうちを出てきたの?」


「少しは大人しくしろ、桔梗……」


「紅葉ではないか!よく来たぞ!」


上座に座ったり寝転んだりしている三人は三者三様の言葉を投げる。円形に座っていたはずの従者たちは既に真ん中に道を開けるように離れていた。


「義兄上様、とうとう従者をお雇いになったと風の噂で聞きましたのでしばらくの野菜、米等をお持ちしましたのよ?」


桔梗、そして紅葉と呼ばれた女性は三人の前に座ってにっこりと笑う。


「はぁ……なぜ緑とお前は正反対なのだ。そして、屋敷の中に入るときになぜその笠を取らぬ…」


「まぁまぁ旦那様、よろしいではありませんか。さ、桔梗。御身を新しい家族にご紹介なさい。」


扇子で女性を指した蒼玄を嗜めるように笑って扇子を持っている手を両手で降ろさせると、緑は女性に反対側を向くように、と手で示した。


「そうでした…姉上様にお会いしたくて全てを忘れておりました。


改めまして、小鳥遊 桔梗と申します。父母共に同じ姉妹ですわ。」


笠を外し従者たちの方を向き、身元を明かした女性、改め桔梗は紅葉色の髪を腰まで伸ばした金色の瞳の持ち主であった。


「婿はおらん。そろそろ婿を取らんのか。」


「まだ、ですわ…まだ、まだ自由にしていたいのです。」


「自由はいいぞー?」


陽向が《自由》という言葉を聞くと賛同した。蒼玄と緑は顔を合わせて、蒼玄は長く深いため息を、代わりに緑は苦笑した。


「私とて、旦那様のもとで暮らしていますが…とても自由ですよ?」


「姉上様はいいのです。好きな殿方のもとへと嫁がれたのですから。」


「そーだそーだー!」


「黙らんか、陽向。そろそろ屋敷の者を呼ぶか首根っこ掴んで連れて行くぞ。大体、食料はうちにも十分蓄えがあるというのになぜ持ってきた、理由がないとは言わせんぞ。」


「主様と妹君はいつもあのようなご様子なのですか?」


「陽向様がもうひとり増えたように見えるらしく、旦那様は頭を悩ませているのですわ~。」


「それは…大変ですね。」


侍女たちも納得の行く説明だった。ただでさえ、陽向が喧しいと嘆いているところに性格がよく似ている人が増えると頭が痛い思いだ。


「そうですわ、姉上様のお湯浴みを手伝わせていただきたいの。」


「話をそらすな、桔梗。」


「あら、どうしてですか?ゆっくり、旦那様とお話していたらよろしいのに。」


「義兄上様は私をすぐに返そうとします!」


「もうすぐ未の刻だ。若い娘が彷徨く時間ではないのだから当たり前だ。」


「ふふ、旦那様?この時間にこの子が来るんですもの。もうお分かりでは?」


緑がそういうと、蒼玄はため息をついて陽向の首、正確には着物の衿を掴み、緑の使いを数人連れてどこかへと出て行ってしまった。残された緑は出て行く蒼玄と、残された従者を交互に見て小さく肩を落とした。


「あ、っ…もう……旦那様の従者の皆様は夕餉の時間まで寛いでいてくださいませ。部屋の案内が必要でしたら、うちの子たちが連れて行ってくれますよ。」


何もしないわけには行かず、一旦夕餉の支度に入らせることにした。


「感謝致します、奥方。」


緑の言葉に長裃姿の従者たちは一斉に広間を出ていく。


「どうしましょう…そうです、侍女様方も、どうぞ今日はごゆっくり。また後日私の湯浴みにお付き合いくださいませ。」


そう言われると、侍女たちも音を立てずに静かにその場を去っていく。

給仕係のような簡易な格好をした娘たちを掌から織り成せば、彼女たちは床に並んだお膳を全て回収して台所へと場所を移した。


すべてを確認した緑も、桔梗を連れて広間から自室へと戻ることにした。




「姉上様の髪はとっても美しいです…何か秘め事でもありますの?」


自室に戻り湯浴みのために単衣を脱ぎ、襦袢姿になった緑の横を歩きながら桔梗が尋ねる。


「さぁ…特にはありませんよ?たまに日ノ本に上に連れて行かれた時に髪結いのお店で髪を整えてもらうくらいです。」


ふふっと笑いながら言った姉の言葉に桔梗が固まった。


「日ノ本に降りられているのですか?!」


「上がどうしても、というときには。桔梗は、降りたことがないのですか?」


ちょうど良く、浴室にたどり着いたため、ひとまず緑は浴室に入り体を洗っていく。その後、浴槽に身を下ろして髪を浴槽の外にだして瞳を閉じる。


姉の髪を洗いながら桔梗は


「まだ、父上様がお許しくださらないのです…やはり、楽しいところですか?」


と、姉に尋ねる。瞳を閉じたまま、緑は優しく語り始める。


「不思議な国ですよ。あなたが生まれた頃とは似てもにつかないものです…」


「私が生まれた頃、ですか?」


「えぇ、あの頃はまだ平安と呼ばれていましたねぇ…この世界は、未だに平安に似ています。服装も、人の関係も。違うことといえば、顔を白く塗るようなことはしませんし、眉を抜くこともありませんね…後、女性が男性と顔を合わせることが出来ることも、平安とは違いますね。」


あれやこれやと思い出したことを口にしていく緑。彼女たちの命はとてつも長いことを知らしめられる。


桔梗はふと気になった事を尋ねる。


「今は、何という世なのですか?」


「平成…という世だったかしら…平らに成る、と書いて平成。平安の世のような黒髪を保っている方々が少ない、と私は思いましたねぇ…」


「とても良い響きですわ。どのような髪色が多いのです?」


「栗色…かしら。私のような髪色をしている方も見たことありますよ。」


「不思議な世ですわ……」


姉の髪を洗いまとめると、桔梗は体を拭くための手ぬぐいを渡して浴室を出る。


「不思議な世だからこそ、見ていて楽しいのです。農村部や、京では伝統的なお祭りも続いていますし、えっと……たしか、海を越えたお祭りも最近ではやっているようですよ?」


扉越しに話を聞く桔梗はまだ見たことのない世界へと思いを馳せている。


「さぁ、今日はどんなお料理が待っているのかしら。桔梗、急ぎましょう。」


思いを馳せている間に姉は桔梗を置いていく。


「あ、姉上様!まずはお召し物を整えてくださいませ!」


急いで姉を追いかける桔梗の姿を見ると、どちらがどちらを振り回しているのやら…




「蒼玄、そんなに紅葉が来たのが嫌だったのか?」


一旦あの後自室に戻り袴へと着替えた後、行灯を持って少し暗くなってきた道を蒼玄と陽向が歩いている。


「あやつも、そろそろ身を固めるべきだと思わんのか。」


「んー…いい相手がいないんじゃぁしょうがないとおれは思うぞー?」


「小鳥遊の家のためにもよくないだろうが。」


少しため息混じりに日向に言う蒼玄は年頃の妹を抱えた兄そのものだ。例え義兄と義妹の関係であったとしても、妻の生家のこれからの繁栄は願いたいものなのだろう。


「なぁ蒼玄、お前本当は何か知ってるんじゃないか?」


何かを感じたのか歩くのをやめて、陽向が問いかける。蒼玄は軽く無視して行灯を持ったまま歩く。


「口を閉じろ陽向。誰がいるのかもわからないような道で話すようなことは何もない。」


「ちぇーっ…しょうがない。おれも皆と御飯食べたかったぞバカ……」


急いで、陽向が走り蒼玄の隣に戻る。


「お前は、世話係の目を盗んで屋敷に来る癖をそろそろやめるんだな。大体、責務はどうしているんだ。」


「適当にやっているぞー。まったく、子供にあんなことをさせるなんて大人はひどいぞ!」


「…誰が子供だ。見かけが若いだけで中身は爺だろうが。」


「違う!……子供だ。何も知らない、ただ…やれと言われたことをやる…」


陽向の足が止まると、今度は蒼玄も足を止めた。そして、膝をたたんで陽向と目線を合わせて口を開いた。


「我らが主よ、何を悩む暇がある。お前は…知識を得て、民のことを知るたびに年を老いるのだ。子供と言われたくなければ周りを見て全てを知り尽くせ。」


「蒼玄……やっぱりお前おれのこと好きなんだろう!肩車してくれ!」


陽向はキラキラとした目で両手を広げて肩車を求めた。


「何をどう解釈したらそうなるんだ…全く。残念だったな、もうお前の屋敷の前だ。ほれ、鬼がいるぞ。」


「えっ……ウワアアアアア!まったまってくれ、その、蒼玄!」


陽向が門を見ると鬼の角を生やして般若の顔をした世話係が立っていた。陽向は蒼玄にすがりつこうとすると首根っこを捕まれ大人しく般若へと引き渡された。


「少し老けて、うちの従者を驚かしに来い、陽向。そのときは…うちで飯を食うといい。」


「雪吹様、ありがとうございます。さぁ、今日は何をして遊ばれたのか、教えていただきますからね?」


「そうげえええええええええんんんん」


蒼玄は陽向の叫び声を背に急ぎ足で屋敷へと戻る。ふと、足を止めて空を見上げる。


「今日は何が並ぶことやら…緑の飯をここ暫く食べた記憶がないな。」






「簡易な服装でこの場にいることをお許し下さい。いい匂い…今日はお魚の煮付けかしら。そういえば、皆様はどういったことが上手でいらっしゃるのですか?」


日ノ本の髪結いを真似して長い三つ編みをして髪がはねないように束ね、小袖を着た緑が広間に集まった侍女たちに尋ねる。


「うちにいらっしゃったのですし、何かしらお得意なことがございますのでしょう?旦那様がお帰りになるまで、少しお話しましょう。」


少し空白があり、誰から話すかと目配せをしていると1人の侍女が手を上げて


「わ、私は箏をやっております。」


「まぁ、桜が咲く頃には歌詠みをしますからよろしくお願いいたしますね?どれくらいなさっているのです?」


「四つの頃から、やっております。」


「とっても長いですねぇ…ふふ、楽しみです。」


「某は、三味線を少々。」


「まぁ!うちには芸達者な方が多いのですねぇ…」


「私は縫い物ができます!」


「私は舞踊をやっておりました!」


次々に、我先にと特技を言っていく。その光景を見て、緑はくすりと笑い皆をなだめた。


「それでは、皆様にも師をつけませんと…もっと、習いたいと思いましょう?」


その言葉に皆が顔を見合わせる。


「し、しかし…」


「費用は気になさらないでください。自由にしたいことをしていただきたいから、私たちがもちろんだしますよ。」


「何を話している。緑、また何か困らせることを言ったのか。」


蒼玄が廊下を通って自分の席に着くと、緑がむっとした表情で迎えた。


「おかえりなさいませ、旦那様。違います、皆様がお上手なことを更に極めて頂きたく、師をつけたいとお話をしていたのです。」


「なんだ、その程度のことか。やってくれて構わんぞ。何、腕のいい奴らをつける。気にするでない。」


「うちに来たからには、娘息子のように自由にしていただきたいの。無論、桔梗や上のように無邪気すぎるのはよくありませんよ?さぁ、美味しそうな匂いがしてきましたねぇ…」


給仕係が蒼玄、緑、桔梗の前へとお膳を並べ、従者たちにも次々に持っていく。


「私は無邪気なのではありません!」


姉に似た表情で桔梗が姉に体を向ける。その表情を見て、緑が口元を隠して笑う。


「ふふ、無邪気ですよあなたは。そうです旦那様、お世話様はどのようなお顔でしたか?」


蒼玄に聞こえる程度の小声で笑いながら話しかけると、いつも通りの言葉が返ってきた。


「あぁ、鬼だったぞ。」


「まぁ……それでは、少しきついお灸を添えられそうですね…」


「心配するな。あやつも早く歳をとりたいと言っていた。」


「奥様、旦那様ぁ~お話は閨でやってくださいませ~。早くお食べになりましょうよ~皆様お腹を空かせているのです~。」


全員にお膳を行き渡らせたのか、何故か彼女たちが話を終わるようにと急かす。


「全く、あなたたちは…今日もこの子達の美味しい食事に感謝します。ありがとう。」


軽く緑が手を叩くと給仕係の格好をしていた彼女たちはその場から消えた。


「さぁ、頂きましょう。彼女たちがつくるお魚の煮付けは美味しいんですよ。」


「…相変わらず、いい塩梅がわかっている味付けだな。」


主人が一口食べたことを見ると、次々に一口。味付けに驚き、目を丸くする者も中には伺える。


「ふふ、あの子達が喜びます。…あら、そういえば皆様の苦手な食材を聞くことを忘れていましたね。今日のお魚は鰤みたいですけれど、食あたりがある方はいらしゃらない?」


誰ひとりとして手を挙げるものはいなかった。無言の肯定、と見て緑はホッとした。


「何か食あたりをするような食材や、体が受け付けないものがありましたら後ほど教えてくださいませ。」


その一言を最後に、先程までの賑わいとは対照的に静かに食事を進めていく。そして暫く経つと酒の匂いがしてきた。


「あら、もしかして…」


「緑。酒はお前の使いだろう。」


「私は何も言っていませんよ?」


「お酒の用意ができましたよ~さささ、皆様お猪口をもって一口、いきましょう~」


消えたはずの給仕係たちが徳利が四本入った籠をもってやってきた。


「さささ、旦那様も奥様もお飲みになってくださいね~」


素早くふたりにお猪口を持たせると有無を言わさず熱燗で満たす。


「……今日は陽向がいなくてよかったな。」


「え、えぇ…多分あの子たちのことでしょうから上がいた場合、出さなかったでしょうけれど…」


ふたりは自分たちの目の前で次々にお酒を飲み、飲まされていく新しい家族を眺めながら静かに満たされたものを飲む。緑のお膳に置かれた徳利で、彼女は蒼玄にお酌をする。


「あぁ、悪い。今日は桔梗の話を聞くことは出来そうにないな。明日、時間をつくるしかないな…」


「まぁ…旦那様、私が代わりに話を聞いておきますよ?」


満たされたお猪口を空にして緑に差し出しながら答える。


「違う。今までと勝手が違う。こう、人が増えては夜は騒がしくできんだろう。たとえ、お前が静かに話を聞いていたとしても桔梗が煩くなる可能性が高い。」


「ふふ、あの子は話をすることが好きですものね。」


「それに今宵は…満月だ。」


ふと蒼玄が口にした言葉に、徳利を持っていた緑は手を止めて蒼玄を見る。


「私としたことが…月を見ていませんでした。…それでは、あの子に言っておきましょう。お酒は、如何なさいますか?」


「部屋に、ひと組だけ持っていくとする。俺が持っていくから気にするな。」


ふふっと笑い首を縦に振ってから、従者たちを見渡すと皆食事を済ませてお酒で頬が赤く染まっていたり、既に船を漕いでいたりと自由な雰囲気になっていた。


「まぁまぁ……あの子達にはしっかりと言っておかないといけませんねぇ。旦那様…」


酒を大量に飲ませたことによって起きたことなのは明らかであり、眠りかけていたり眠ってしまっていたりする従者たちをどうしようかと不安げに主人を見るとそっと頭を撫でられる。


「力仕事は男に任せろ。起こさないようにそっと連れて行かせる。」


そういって指を鳴らせば蒼玄の使いが現れて何を言われるわけでもなくそっと一人ずつ抱き上げ、行灯を持った者を先頭にそれぞれの寝床へと連れて行った。


「ふぅ…桔梗、お部屋に行きますよ?」


ほかの従者たちと楽しくお酒を飲んでいた桔梗に声をかけるとむすっとした表情で緑を見る。


「姉上様!まだ夜はこれからです!」


「酉の刻です。もうあなたは床につかなければいけません。いいですね?お話は明日旦那様とふたりで聞きます。私の言うことが聞けないようでしたら今からでも小鳥遊の者を呼びます。」


最後の一言が決め手になったのか、桔梗は大人しく手に持っていた徳利とお猪口をお膳に置き立ち上がった。


「私も一緒に行きましょう。それと、あなたたちは皆様にお酒を飲ませすぎです。いけませんよ?これからは控えるように。」


お膳の回収を始めていた給仕係の彼女たちに、桔梗に言ったように少し真面目に、きつい表情で告げる。彼女たちは少し不満そうな声をあげた。


「はぁ~い。…でも、今日は宴の日じゃないですかぁ~」


「また改めて、今度はもう少し大きい宴は開きましょう。そのほうがあなたたちも働き甲斐があるでしょう。いいですね?」


「かしこまりましたぁ~。奥様、絶対ですからね~?」


「えぇ、約束しましょう。それでは、片付けは任せましたよ?」


「お任せあれ~。」


やれやれ、という苦笑を見せながら廊下についた行灯の明かりを頼りに桔梗を客間へと連れて行く。





「絶対、明日はお話聞いてくださいね…?」


「えぇ、絶対に。旦那様もお時間を作ってくださると言っていましたし、心配することはありません。」


姉のしっかりとした言葉を聞いて安心したのか敷かれていた布団の中で少し笑って瞳を閉じた桔梗はすぐにすやすやと寝息をたて始めた。


「…淋しいのかしら。」


「小鳥遊の家で一人なわけではないだろうに。」


静かに寝ている妹の髪をそっと整えるように撫でて独り言を呟いていると後ろから声がする。


「旦那様っ?!」


「驚くとは珍しい。声をそう上げるな、起きるぞ。迎えに来た。」


くくっと喉元で笑う蒼玄を見て、緑は桔梗を起こさないようにそっと立ち上がり蒼玄の隣に立ち襖を閉め、ため息をつく。


「どうした、お前らしくもない。庭に出るか。月がよく見える。」


「あら、お部屋にお酒を置いてきたのでは?」


「そこまで浅はかではない。しっかり持ってきている。」


そう言われ蒼玄の手元を見ると徳利がお猪口で蓋をした状態で用意されていた。


「流石ですねぇ…」


草履は誰かが用意していたのか近くの石段にあり、それを使って満月の下、庭先にある薄紫の毛氈もうせんがかけられた床几台しょうぎだいに向かい、月を眺めるようにふたりは腰をかけた。


「綺麗な満月……お酒が美味しいでしょう?」


お酌をしようと思ったのか徳利を蒼玄から取ろうとする。すると、蒼玄はお猪口だけを渡した。


「今日は、お前が飲むときだ。飲めんとは言わせんぞ。」


「む…忘れていらっしゃらなかったのですね?…それでは、今日はお願いいたします。」


大人しく、お猪口を差し出してお酒を入れてもらうと少し濁っていた。


「あら、甘酒ですか?…頂きます。」


少ない量ながらも、甘酒独特の甘みが鼻を通り抜け体が温まっていくような気がしてきた。


「相変わらず…こういうことをするなんて、ずるいお人ですね。」


緑は蒼玄に体を寄せて次の一口をもらう。


「お前は寒さに弱い。今日の分は別に用意させておいただけだ。…お前はどう考える。」


「あの子のことですか?…そうですねぇ、うちの子たちが話していたことを耳にしたのですが…」


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