第10話 二人の出会い

「不味ったなぁ…というかやっちまった」




俺とあろうものが情に流され一番やってはならない事をやってしまった。



俺の腕には1人の少女の死体を抱えていた。






アレクサーン商会をあとにし、かれこれ三日が経過した。リンとアルシェのコンビネーションもあってきて実践に向けて着々と準備が整いつつあったのだが、一つだけ厄介ごとに巻き込まれてしまった。というか自分から突っ込んだのだが…。



俺はその時ある依頼を頼まれた。とある宗教団体を壊滅させて欲しいという依頼である。邪神信仰をしている宗教団体でアレクサーン商会のお得意さんである商人の娘がその宗教団体に攫われたらしいのだ。



商人が真っ先に頼み込んだのは信頼のある冒険者ギルドなのだがその日は緊急のクエストを出すわけにも行かず準緊急クエストとして受理しようとされたらしい。娘の命がかかっているのに悠長なことを準緊急クエストとされ、たってもいられず俺に頼み込んできたというわけだ。



問題は娘さんの居所と邪神信仰団体の目的であった。リンとアルシェも付いていくというので連れていくのだがそこで役立ってくれたのがリンであった。その商人が持っていた娘さんのハンカチの匂いをかぎわけ、居場所を突き止めることができそうなのだ。



そして、この街にあるボロ屋敷にたどり着いた。数年前に幽霊が出るとかで誰も住まなくなった屋敷でリンとアルシェがとても顔色を青くしていた。



しかし匂いはこの屋敷に通じている為確かめる必要がある。リンとアルシェも勇気を振り絞って中に入り込むのだが、俺の服の裾を両方引っ張られているためとても歩きにくい。




さて、なんといっていいかな…屋敷の中は酷いものであった。無数に血の痕跡が残っておりある一室には見るに耐えない人の死体が山積みにされていた。アルシェが吐き出してしまいちょっとだけ不味い雰囲気が漂っていた。



あれほどの人数が町の人たちに気が付かれること無くここに連れ去ることなんて可能なのだろうか?それ以前にあれほどの異臭を放っているのに外に漏れ出さないのはおかしい。



屋敷の奥に進むにつれ謎の呪文が聞こえ始めていた。おそらく宗教団体だろうと応接間の扉を開くと騒然なる光景が映し出された。



商人の娘さんは…遅かったようだ。傷口を見ても1時間くらい経過しているためおそらく商人が冒険者ギルドに連絡しているこれには殺されてしまっていたのだろう。しかし…こいつら惨いこと…



ふつふつと怒りが込み上げてきた。彼女は十字架に張り付けられ裸にひん剥かれた姿で息絶えているのだ。胸には謎の短剣が突き刺さり傷口には根が少女の胸元まで張り巡らされていた。



床に書かれている魔法陣といい処女の女の子を生贄に捧げている儀式という事になると…



「魔人召喚……」



アルシェの口から答えが出た。そう生贄による魔人を召喚する儀式である。



クソッタレ…ああ!!!こいつらなんてことをしやがる。くそ!くそ!!



「わりぃな胸糞悪いから消し飛んでくれ」





その言葉で周囲にいた黒いローブをきた宗教団体の人間全てが跡形をもなく消え去った。



リックの指先から光が放たれたのを確認できたのはリンとアルシェだけである。






リンとアルシェはリックの顔がとても悲しそうで辛そうな顔つきをしていたため何も言わなかった。言えなかった。




ロウソクの光の中で惨たらしく殺された少女の体を抱き締めながら彼女のステータスを見た。



この子の名前はヒイラギ・ミコノ…日本人だ…転来者ではないらしいが間違いない。おそらく送られてきたものではなく生まれ変わったいわゆる本当の転生者である。



こちらの世界に向こうの世界の記憶を持ちながら生まれ育ちあの商人に育てられたのだろう。いわゆる赤ちゃんスタートだ。




そんな彼女がなぜ殺されなくてはならないのだろうか?彼女は俺と違いどう見ても一般人である。ステータスも能力も一切ないただの人間である。




「リン…アルシェ。すまないがひとりにして欲しい」



「…はい」


「ん…」






リック様の言う通り私たちは応接室から外に出てその後に聞こえたリック様の悲痛の叫びが心を揺さぶった。彼女はきっとリック様の元いた世界の人なんでしょう。そしてそんな方があんなにひどい殺され方をすればリック様があそこまでお怒りになり悲しむのも理解できます。




私とアルシェは無言のまま手を繋いでリック様が出てくるのを待ちました。




魔人召喚の儀式のために差し込まれるあの短剣は魔神の呼び掛けに答えるためにひたすら死ぬような苦痛を与え続ける拷問のようなものです。


私は本で読んだのですが、その時はどのようなものなのか理解できませんでした。ですがそれを目の前にすると本当に酷いものだと理解出来ました。



あの根っこのようなものはそれまでに太さはかかった時間を表し、その本数は激痛によって死に至る痛みを味わった回数を意味しています。



彼女の胸元には3センチほどの根っこが16本ありました。という事は約1時間で3センチ肥大化し体を蝕み16回彼女は死ぬような痛みを味わったのでしょう。




リック様…彼女をどうされるのですか





リックはおそらく魔人召喚よりも酷いことをしていた。彼女が死に絶え輪廻転生することを阻止してこちらに呼び寄せた。そして世界の理を崩すような最低の行為を起こっていた。




「ミコノ…君は俺を恨んでもいい。俺は糞野郎だだけど…これだけは言わせてくれ…君はここで死んじゃいけない。まだ生きていて欲しい」




短剣によって作られた胸元の穴は癒えていたがその呪いの強さゆえか胸元には消えない傷跡が残ってしまった。



そして根っこの部分はリックによって完治させたものの、リックが次に起こったのは死者蘇生である。



完全に死んだものを蘇らせる本来であれば人が使っていいものではないがリックは神を倒す…世界すら歪ませるほどの力を持っているのだ…輪廻転生してしまう魂を傷一つ付けずに元の肉体に縫い付けることも出来るのだ。ただ、彼女は死んでしまっているというのは事実なためどうしても死者としてアンデットとして蘇る事となってしまう。いわゆる闇魔術のマミーとかゾンビ作成と似ているのだが、根本的に違うのは知性をしっかりと持ち太陽の光を浴びても問題ない。




なにそれ凄い!と思うだろうがよく良く考えてみてくれ…彼女は死にたいような激痛でやっと死ねたと思ったら次はアンデットとして復活させられるのだ。





「…あ、れ?」



「大丈夫かミコノさん」



彼女の名前はヒイラギ・ミコノであるが、こちらの世界では別の名前である。ステータスに書かれていたミコノとしっかりとこちら側の世界の名前も書いてあったがここは同じ世界の人間ということでミコノの方で呼ばせてもらう。





「…私…生きてるの?」



リックは言葉に詰まったがしっかりとミコノの目を見て話した。




「ヒイラギ・ミコノさん…君は1度死んだよだけど俺が引き戻した。ミコノさん…君は元いた世界で下半身付随…それゆえの悩みで自殺した。そして気がついたらこちらの世界に来ていてナーマルとして生きてきた。そしてこちら側の世界で魔人召喚の儀式の生贄として殺された。ここまでは理解出来るね」




彼女の元いた世界は俺といた世界では時間軸が異なっているようだった。死者蘇生の際に記憶を使うのだがその際に見た光景は俺がまだ生まれてもいない頃のものでありなおかつ仮想世界の発展がまだ始まってもいない時代であった。そのため下半身付随であり、ちょうど高校二年生である思春期真っ只中にいる彼女にとって病院という牢獄は苦痛でしかなかったのであろう。



同じ歳の子達は恋愛をしたり部活をしたりと青春を謳歌している中自分は白い病室でただひたすら何も無い毎日を過ごすだけの日々。



下半身付随の原因は交通事故によるものであった。両親とドライブにでかけていた時に片方からきたスピードの早いトラックを避けようとし崖から転落。幸いミコノちゃんだけが生命をとりとめたということだ。



だが、両親は即死。彼女は生きるための大切なものを全て失ってしまったのだ。




そして、自殺した。








だが、目が覚めると木造の家だった。手足が小さくプニプニした赤ちゃんであった。


この時ミコノは転生したと言う事を自覚した。自分が死んだ時の記憶があるため、輪廻転生したのだろうと思ったのだ。それこらかれこれ何年かたった後商人であるお父さんと商売しに来ていた。





それで現状がこれだ。






リックは、彼女に生きて欲しかったのだ。下半身付随で病室から出ることなく死んでしまった彼女が運良く輪廻転生した記憶を持ち歩くことが出来る。


そんな彼女がこんな9歳くらいの年で死んでいいはずかないのだ。そんなの悲し過ぎるだろう。運命の女神様ってのは残酷すぎた…だから俺が彼女の運命をねじ曲げ改変させ変質させたのだ。



「本当にゴメン!!ミコノさんをアンデットにして…」




「頭を上げてください。私は嫌ではありませんよ…だってアンデットだとしてもしっかりと生きてるんですから…足で歩くことが出来るんですよきっと世間の方や常識にとっては決して許されないことなんでしょう。ですがそれでも…私はあなたのお陰でまた立つことが出来るんです。世界の皆さんがあなたを軽蔑しようと私は絶対にあなたを軽蔑しません。命の恩人ですから」




そういったミコノさんはとても凛々しかった。間違いではない。彼女を生き返らせたことは絶対に間違いではないのだ。



リックの顔は笑顔に戻っていた。笑い声が響き渡り恐る恐る扉を開けて除き見るとリックとミコノが笑いあっているという訳の分からない状態に二人ともチンプンカンプンなのだが、とにかくリックの笑顔が戻ったようで2人も安心したようである。




「さてと…2人には説明しないとな」




死者蘇生の際に当然のようにその対価が必要だ。彼女は心を打ち砕かれるほどの辛い思いをしそして殺されるという事になるため死者蘇生にもとてつもない対価がかかる。それはリンやアルシェにも言えないような事だがこの際だ隠し事をしないでおく。



「彼女を蘇らせるために俺の命を半分を与えた…俺の寿命は半分削られたようなものだな」




リンとアルシェが蒼白したよりもミコノさんの方が凄まじかった。




「なんで!なんで私なんかのために命を犠牲にしたんですか!!寿命を縮ませるなんて!!そんなことしてまで私は」



パァン!とミコノさんの頬がリンの手によって叩かれた。リンのぐちゃぐちゃになった顔だが、それでも怒っている事には間違いないだろう


「…リック様は優し過ぎるんです!貴方が最後の言葉をいったら絶対に許しません!リック様が自身の命を与えてまでも生きて欲しいんです!!だからあなたは生きなくちゃいけないんです」





「リンそこまでだ。ミコノさんの言うことは分かる。俺だって他人の命を犠牲にして生きてくれって言われたら重圧に耐えれなくなるぞ…まあ、リンとアルシェ、そしてミコノさん俺のために悲しんでくれるのは有難いしリンが怒ってくれたのはありがたい。けど俺を誰だと思ってる?

俺は神を殺し、世界すら掌握するような怪物だぞ?輪廻転生する魂を無理やりこちら側に引き戻して死者蘇生が出来るような理から外れた男だ。

そんな男の命を半分分け与えたところでどうした?リン。アルシェ。ミコノさん…さて、リンならそろそろ気が付くんじゃないか?」




「…でも…それじゃあ…リックさんは……」



気が付いたな。そして二人を外に出したときに堪らず出してしまった叫び声はその時に分け与えた命そのものである。



彼女が受けた痛みを共有しなおかつ数十倍もの痛みを伴ってそれは完了する。流石に我慢出来なかった。





「俺は既に人の身体を真似た人外なんだ。命という概念すら持ち合わせない人として外れた存在だ。たとえミコノさんに半分の命を分け与えたとしても無限に生き続けることになる。無限を半分に分かった所で問題ないんだよ。

くくく…こればかりは神王エルダーに感謝しなくちゃな」



神王エルダーを倒した後止めをさす直前に彼は口にした…「神を殺しこの物語に幕を閉じる者よ…次は貴様が物語のプロローグとなり未来永劫その時を暮らすのだ。エンディングは自らの死…私を下した男よ。さて…私の物語はこれにて終幕だ。……死後の世界があると言うなら私はそこで貴様の物語を見届けよう…さらばだ」




カッコイイんだよな…クソみたいに強かったくせに最後は潔く死ぬとかどんだけなんだよ。




結局マルチエンディングによる俺のエルダーワールドの物語は終わった。



つまり神王エルダーを下すことの出来る実力者が現れるまでは俺は死ぬことが無いという訳だ。こちらの世界ではどうなっているのか分からないが開発者側がその事を知っていたのなら…。

















この事件において一番不運なのは魔人であった。




俺は魔人デュディ…かなり高位の魔人だ。最近生贄の叫び声と血が注がれるのだがどれも好みではない。どうやら何者かが俺を呼び起こそうとしているのだが、たかが人間が生意気である。



だが、次に悲鳴を上げた女の声とその血に俺は面白いと思った。この女の生贄なら対価として充分だと。




俺は盛大なる登場で人間達を驚かせ、その瞬間を狙って皆殺しにしてやろうと企んだ




彼女の命が消えると同時に召喚され始め、名乗りを上げる



「我は高位魔人デュ)」


魔人はリックによって放たれた即死に匹敵する魔法を直撃してしまい悲しきもその命ごと消失されるハメになった。誰にも聞こえず、そして名乗りすら出させなかった悲しくそして儚い高位魔人はここに散った。









ミコノさんは無事に商人さんの元に届けてあげた。どうやら自分はこの足で新しい世界を見て回りたいということらしい。そのためにも今はお父さんの元でしっかり勉強していつかは世界をまたにかける大商人になるらしい。



ミコノさんとはここでお別れである。少しばかり寂しい気もするが彼女は俺のところにいても辛いだろうしな。




「それじゃあミコノさん。お元気で」



「ええ、またどこかで」












宗教団体は幹部含めて12人が行方不明、実質的に壊滅したと言ってもいい。事後処理のために派遣された騎士団や調査員により判明したことは魔人召喚の完了を意味していた術式なのだが魔人が暴れている痕跡もなければその生贄となった人の姿もないという不明な点が多く犠牲になった人たちは別の国から送られてきた奴隷たちだったそうだ。奴隷商人を買収に年に何回か送ってきていることがわかり、その奴隷商人も逮捕。



こうして宗教団体の壊滅は謎のままお蔵入りすることとなった。



かの宗教団体における事件からはや1日。もういろいろな情報が出回っているらしい。




「だって…まあ貴方達が関わっていることには間違いないでしょう?」



ヒルダによって呼び出され学院内の食堂内で昼食を食べながらその事を聞いていた。



「正解だ…基本的に証拠となるものは出てこないだろうし結局のところあいつらが魔神を召喚して何をしようかまでは分からなかったけど」


「それでも新たな被害が出なくなったんだからいい事じゃない。ただその宗教団体の規模が小さかったのが幸いね。もしこれがかなりデカい団体だったらさらに厄介なことになりかねなかったかも知れないわ」



ヒルダはパフェぽいものを食べながらそう口にした。



「確かになぁ…ちょっと軽率だったか」



俺の前にはコーヒーと固めのシュガートースト…リンとアルシェは2人で仲良くパフェを頬張っていた。暇といえば暇になったのだがこの後ヒルダとの特訓をする事になっているがリンとアルシェも頑張って訓練するということで張り切っていた。灰燼招来のの特訓は出来ないが2人にはちょっとした面白いスキルを覚えさせようかと思っている。



リンには昇華纏雷という技をアルシェにはトリプルキャスト…つまり三つの魔法を同時に展開することを教えようと思っていた。


昇華纏雷は自身に雷を纏わせる技で全ての攻撃に雷の追加ダメージがあり、スピードも上昇する。但し雷を纏わせるため髪の毛が面白いことになるのは間違いない。



アルシェに覚えさせるトリプルキャストは第一魔法、第二魔法、そして第三魔法を同時展開し発動させるものでアルシェのレベルで覚えてしまうととんでもないほど強くなる。


例えば相手がファイアーボールを放ったとする。それを相殺するためにウォーターボールをぶつけてやり、なおかつ地面からアースニードルや風によるウィンドカッターなどを相手がひとつ放った時に打ち出せるのだからな…但しトリプルキャストはかなり面倒臭い。口頭による詠唱、指先で描く術式そして無詠唱による一撃を同時に行わなくてはならないため、一つを優先するともう一つが霧散してしまい、二つを頑張ってしまうともう一つを忘れているということが多い。



だが、幸いなことにアルシェは指先から描く魔法も無詠唱もかなり上手い。レベルが低いのに技術は通常よりも高いためダブルキャストではなくトリプルキャストを覚えさせようと思ったのだ。





「さてと…ヒルダはこの後用事がないんだよな。それじゃあみんな訓練場に行くか」






ヒルダには灰燼招来のための魔力の流し方を反復練習させ、リンには昇華纏雷の為に感覚を掴ませている。



一番凄まじいのはアルシェである。なんとアルシェは俺がコツを教えてやるだけでどんどん訓練し始めてトリプルキャストを展開するまでに至っているのだ。どうやらめっちゃ天才なのかもしれない。




「ヒルダ、左足に魔力が行ってないぞ」


「うぐっ…わかっている!!ちくしょうなんだこれは…とんでもないほど疲れるぞ」



「そりゃそうだ。灰燼招来は全身に魔力を巡らせ続けないといけないからな。どこか1箇所でも忘れていればその箇所が体から離れちまうぞ」




まあヒルダもヒルダでなかなか才能がある。元々頑張り屋さんなのだろう魔力が尽きかけても俺のポーションを飲んですぐに再開する。





まあ、一番大変なのはリンだな…覚えが悪いとかじゃなくてまず雷が苦手だったようだ。そりゃ無理だ。だけどリンは涙目になりつつも俺の教えをしっかりと吸収してくれていた。訓練してみると以外にも出来るようだが静電気が発生した途端ビクッと体を震わせて俺に飛びついてくる。なんて可愛らしい…っとげふんげふん。




しかし訓練場のど真ん中を借りているのに誰も文句を言わないとはな…見たところアレっぽいか?離れてみつつと俺らの技術をパクろうとしているみたいだな。まあ、教えている技が技だけに覚えたい奴らも多いだろう。



ま、絶対に無理だけね。俺が教えているからこそ常人が会得するのに必要な熟練度の数百倍にまで引き上げてあげているから着々と上達しているからね。つまり1時間で1しか灰燼招来を会得するために必要な熟練度が俺が行ってやるだけで1時間、100になるのだ。




マジでこれはチートやな。俺がこの熟練度を100倍に増やすのを会得するのに何年掛けたと思っている。というか灰燼招来も昇華纏雷もトリプルキャストもメチャクチャ大変だったんだぞ。特に昇華纏雷なんて三ヶ月かけて会得できたのを3時間ほどで会得出来てしまうとかまじ羨ましい。



それでも彼女達が強くなることは悪い事じゃないからな。俺に並び立つようなところまでは期待しないがそれでも常人の10倍は強くなってもらうし、全力で戦って俺の3割ほどの実力までは伸ばしてやろうと思う。



それからは俺が教える必要はなくなるしな。




しかし訓練場の中を見渡してみると1人だけ異彩を放つ美人がいるんだよな。銀色の髪の毛に蒼い瞳…170くらいの身長でありその耳は長く、エルフであった。俺よりはマシだがちょっと鋭い目つきであり、胸は…ああ、残念だな。



いや、それよりもなんか絡まれてるな…話し声的にどうやらエルフのお嬢さんは何か脅されているらしい。その手を掴まれても文句を言わないしどちらかというとその絡んでいる男達を睨みつけて涙目になっていた。



コイツは…助けるか





俺がその場に近寄ると横にいた男達が前に出てその場を通さないようにする。




「何故だ!!もう貴様たちには借りを返した妹を返してくれ!」



「けへへ…ハイエルフの嬢ちゃんよ。確かに借りは返してもらったがその時に生じた金があるんだよ。しかも利子も入ってるからなぁ…その身体で払って貰うしかねぇんだよ。妹を返して欲しければ身体で返すんだな」



「くっ…この外道が…」



キリッと男達を睨みつけるがそれが更に男達を楽しませることになっているとは思ってもいないようだ。


既にエルフの手を掴んでいる男の股間は盛り上がりを見せこの後に起こる展開が予想できた。




まあ、助けてやるか。



「そこまでだ…エルフの借金はいくらだ…」



「あぁん?誰だてめぇ…」


「ああ、すいません。私そこのエルフの主人でございまして、どうか解放させてやってはいただけないでしょうか?」



ちょっとだけぶっ飛ばすのは後にしよう、彼らとしてもおそらくその金の支払いなんて嘘っぱちなのだろう。彼女の体を弄ぶためについた嘘だ。



だから金額を聞かれた時に迷っていたし、今現在も困っているように見えた。




「…そ、そうだな…2,000リルの借金だ」



「2,000リルですか、それではここにご用意しましたので……っとでも言うと思ったか?」



俺は近付いてきた男を蹴りあげるとその横にいた男の顔面をぶん殴り、エルフの手を握っていた男の腕にナイフを投げその手を離させる。



時間としては1秒の間である。当然のようにわけも分からないように男が倒れ込んでナイフが刺さった男は数秒後に気が付いて騒ぎ出し始めた。




エルフの嬢ちゃん…いやお姉さんは俺に剣にキスをするとそれを振り払う動作をし笑った。




後ろにはいつの間にかナターシャが立っており俺はちょっとだけビックリした。



「あれは忠義の誓いを立てる時に行われる動作よでも凄いわね…」


「そんなに凄いことなんですか?」



「もちろん。ハイエルフはプライドも高いし実力も凄いのよ。だから普通は敬礼位のものなの。それこそ国のお偉い人にとっても敬礼でしか挨拶はしないわ…でも自身が認めなおかつ命をかけるほどの絶対的な忠義を示すのがあのポーズ。いわゆる絶対服従ね彼女はあなたに命を掛けたのよ。ふふ、そのオーラはハイエルフにとっては神様と同じだからね…」



おっとりとした口調で説明してくれるナターシャだがあのポーズにとてつもない意味が含まれることだけは分かった。



ハイエルフのお姉さんがこちらに歩いてくると俺の前に左膝を立て片膝を地面につけるいわゆる騎士のあのポーズをとった。



「リック殿。我が名はルル・シャガル・ノーブナーあなた様の力に惚れました。我が主になってはくれないでしょうか?」




どうやらめっちゃ崇拝されていることだけはわかった。だってこのルルさんの瞳には俺の目を見続けて絶対に逸らさなかったしどちらかと言うと目を合わせただけでもどんどん崇拝度が上がってきている気がしてならない。




というか、この人騎士じゃねぇか!!しかも白銀のマントって事は王宮騎士。騎士の中でも選りすぐりのものだけしか入ることを許されず、この街でも最強の騎士の存在でもあった。彼女がなぜこのような場所にいるかは不明だが…まずこのルルさん。色々と属性をぶっ込みすぎてるだろ!



ハイエルフ、貧乳、女騎士、そして主人に対する忠義心…そして先程までに見たあのくっ殺せみたいなシチュエーション。



最高です。ありがとうございます…。



「…ルルさんは王宮騎士ですよね。いきなりそんな事されたら王宮の方が困るのではないでしょうか?」



俺はこの人を拒否るとこはしたくなかったがまたこの人を仲間にしようとは思わない。いやというか絶対にしてはならない。だってリンとかアルシェとかヒルダに絶対つっかかってくるだろう。まあ、美人だからピンチの時は助けてやりたいけど…。





「そうだな…確かにいきなり抜けては困るだろう。了解した。王宮騎士としてもまだ役目がある。リック殿…此度は私を救ったこと感謝する…なにかしらのお礼は約束しよう。妹も助け出さないとならないから失礼する」




ルルさん。あんた本気出せばあれくらいの男達を叩きのめして居場所を聞き出すくらいのことは出来たんじゃないのかな?



ふと思ったことを顔に出していたようでルルさんはニコッと微笑んだ。あ、コイツわざとやってたな。




どうやら妹さんの場所も特定しているっぽいし完全に俺と会うために計画されたみたいなやつか…本当に囚われているっぽいけど。


俺の動きに周りにいた人たちは賞賛を送ってくれたがあんなもの鍛えれば誰でも出来る。男達はルルさんに引き摺られながら訓練場を後にしてほかの人達も訓練に戻っていった。







「そういえばナターシャ先生は何か御用ですか?」




「ふふ、あなた達を探していたのよ。ねぇ?4人でダンジョンに潜ってみないかしら」



ダンジョン…ってあのダンジョンか


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