第4話 動く闇

放課後、夕方過ぎに訓練が終了し各々が自由時間となり、寮に帰る者など動き始めている頃



現在、リックとリンは学院にある図書館に来ていた。かなりの本があり、魔法で本が浮遊していたり、見上げるほどの本棚とかすごい光景を見ることが出来た。


大きな目的とすればこの世界の過去の出来事そして、様々な情報を仕入れるためであった。



必要な本はこのテーブルの所にある、専用の端末みたいなもので検索するとそれにヒットした本が自分の手元に集まってくるという仕組みだ。そのため、一々場所を探すとかそういったものが必要ないため楽ちんだ。



まずはこの世界の成り立ちについて。この世界は主神バルガルティンによって創造された世界である。魔力というのはその主神バルガルティンによって産み出される力の源とされている。


バルガルティンは世界創造の際四つの現象を作り出した。一つは自身の強さを見ることが出来る。ステータス及びパラメーターという概念。次に魔物という人類や生命とは異なる異界のモンスター達。三つ目はそれを統率する魔王という存在。最後に異世界からの転生者…転来者と呼ばれる存在だ。アースガルドの世界はこの四つによって均衡を保ちながら時に魔族による崩壊を…時に生命たちの進化の過程を…それを繰り返していったという。



バルガルティンの他にも神様は存在する。主神であるバルガルティンを筆頭に炎と煉獄の神イグニ、水と氷獄ウンディーネ、風と嵐の神シルフ、雷と大気の神セト、地と創造の神アースの五神に光と愛の神アテネ、闇と渾沌の神のカオスといった二極神。


その他にも様々な神様が存在しているということだ。そしてその神様は全員このアースガルドに住まうとされている…そして主神の居場所は分かっているという。バルガルティンはこのアースガルドにおいて浮遊遺跡アースガルドというこの世界と同じ名前の遺跡に住んでいるらしいのだ。そこへたどり着く方法は分かっておらず誰ひとりとして到達出来ていないのだ。



もちろん、風やワープ関係の魔法でその場に飛ぼうとした人もいたらしいのだが浮遊遺跡の周囲には魔法を遮断する空間があるらしくすべての魔法はそこで止まってしまうのだ。結果としてどこかのダンジョンの地下に専用の場所があるのだろうと結論づけたらしい。




エルダーワールド・オンラインと違うのは主に主神の名前ぐらいだった。エルダーワールドの世界設定も細かいところは違うがおおまかにはこちらと同じ造りみたいだ。エルダーワールドも繁栄と崩壊を繰り返してきた世界という設定だったし、確かに浮遊遺跡は存在していた。そこにいたのは主神ではなく、その世界を一望することが出来るというものであった。ガッカリしたのは言うまでもないが、おそらくこのゲームには主神など存在せず、この世界、この空間そのものが君たちの手で創造される自分自身の世界なんだと言うことを意味したかったのだろう。遺跡の柱にはゲームマスターからのお祝いのメッセージとその景色に対する想いなどが綴られていた。



まあ、到達したのはリックだけという悲しいようなそれでいてまるでその一人のためだけに用意された空間のようなそんなことを感じたのだ。




とまあ、そんなことは置いておいて、おそらくその浮遊遺跡に行くためのダンジョンも地形が変わっていないというのなら場所は分かる。




「…って誰だよあんた」



先ほどのエルダーワールドの話あたりから俺の横に座ってじっと俺の顔を見ている少女がいた。気配的にも気が付かないわけが無いリックであったがあえて無視していた。何故か厄介ごとの匂いがプンプンと漂っていたのだが、流石に声をかけた



「?」


「いや…俺の顔みてただろ?」



黒いボサボサとした髪にお肌もボロボロでちゃんとした物を食べていないように見えた。目も虚ろでまともに会話もできないような印象を与えるのだが、それと同時にこの少女の顔を忘れることが出来ないような気がしてならなかった。



少女は奴隷なのだろう。首にはリンがはめられていたような黒い首輪が付けられており、契約の魔法も発動していた。



「…ここにいたか!!クソ女が!!」



図書館に相応しくないような怒声をあげながらこちらに歩みとってくる男の人。身なりからしてAクラスの人間だと思われた。その声を聞いた少女の顔が険しくなり座っている俺の背後に隠れるようにして身を縮こませた。


ぷるぷると体が震えており、歯もカチカチと音を鳴らしていたし、顔色もとても悪くなっているようだ。どうやらまともな扱いを受けていないのだろう。可哀想だな。そう思ったが既にその男は首輪に掛けられた魔法を発動し無理やりその少女を呼び寄せた。声にならないような悲鳴を上げ、必死に逃げようとする少女だが、その首輪に掛けられた魔法により酷い痛みが体に襲いかかっている。



「調子乗り上がって!」



その男は首輪を付けられた少女を拳で殴りつけ、更に腹部を強打する。



ゲホッという音が少女の口から吐き出され、吐血し、髪の毛を鷲掴みにされその場をあとにしようとするが、流石に無視できそうもなかった。



「…おい」



「…んだよ?てめぇ」


「流石にやりすぎだ死んじまうぞ」


食事もあまり与えておらず、不健康な生活、ストレスによる肌荒れや暴行。そして、身体から臭ってくる男の性の匂い。



胸糞悪い…今すぐにコイツを殴り殺してその少女を自由にしてやりたいが、相手はおそらく貴族の中でもかなり高位の奴だろうな。ヘタをしたら俺だけでなくFクラスにまで影響を与えかねない。



「リン…この事は他言無用だ。誰にも言うな。墓まで持っていけいいな」


「…分かりました」



俺はアイテムボックスからあるものを取り出した。拳銃の形をした武器。



「貴様ぁ!!」


その言葉を放った瞬間に俺は引き金を引いた。音もしないし相手の眉間の間に穴が開くこともない。何も起こらない。



「コード78。俺と出会った記憶の消去。コード25、貴様は奴隷を殺しそれを捨てた以降の記憶は自動改変。記憶改変終了」



俺の言葉を言い終わるとその男はふらふらっとしながらその場を後にしその後はどうなったのか知らない。



奴隷とリン。そして俺はその場に立ったまま静かな空間が支配していた。




「…早くついて来い」









あの拳銃はS&W M27モデルのエルダーワールドにおけるミリタリー系の特殊武器だ。そしてこれはある種の禁止武器でもあった。



この武器。ある種の特殊な能力を秘めたものであり、そして最悪の武器であった。



記憶改竄、それがこの武器に秘められた力であった。




この武器の引き金を引くことにより対象の記憶を一部改竄消去することが出来る


禁忌だった。だからこれを使うのは最後だ。絶対に使ってはならないものであった



俺とリンと少女は俺の部屋に入るとそのことを説明した。





過去に俺は2度この武器を使用し記憶を改竄した事があった。一つは俺の魔法の師匠に。最後は…まあ今は必要ないな








「君の名前を教えてくれないか?」




「アルシェ」


こうしてみると可愛い子だな。



アルシェは俺のベットの上にちょこんと座ってきょろきょろとあたりを見渡したりしきりにソワソワしていたりしていた。



「…あー俺、邪魔か?」


「大丈夫ですよ?アルシェちゃんはおそらく地下で暮らしていたのでしょう。可哀想に…こうして普通の部屋にいえ、ご主人様と同じ部屋に入れること自体が珍しいのでしょうね」



「…ならいいが…さてアルシェ。ちょっとだけ質問してもいいか?嫌なら答えなくていいし、ここから逃げても追うことはしないから安心してくれ。アルシェは今後どう動きたい?俺達と一緒にこの学院で生活するか一人で生きていくか」



「…一緒…だめ?」


キュッと俺の服の裾を握り締めてうるっとした瞳を向けてくる。おおぅなんて破壊力だ。裏ボスでもこんな破壊力出せないぞ…。



アルシェにはその後もいろいろな質問をした。まず年齢。14歳で奴隷になった理由は貴族の圧政によるもので、お金が払えなくなった両親を困らせないようにする為に自ら借金奴隷としてこの街に来たそうだ。そして買われたのがこの街でも最悪と名高いあの男の下だったということだ。



アルシェは、んとかそういった感じでしか喋らない。いや、無表情だし無口なキャラで、なかなか可愛らしいのだが、おそらくこの子も昔は笑えていたんだろうか。


アルシェにことわりを入れてステータスを覗いたところ魔法の才能があった。その他には特殊なものはないにしても適性が高く今後の成長も期待できる優良物件でもあった。リンは攻撃職になるだろうし、アルシェは魔法職を鍛えるつもりでいる。


アルシェの髪をリンが梳かしてやるととても綺麗になったし、先ほどお風呂にも入れてあげたのでほかの男の匂いが消えたようなのでよかった。アルシェの体はたしかに貧相であったがそれを補うような美しい髪とその小柄さがあった。



「んわぁ」


リンの優しい梳かし方に顔が蕩けきっており、すごい幸せそうな表情をしていた。リンもとても嬉しそうにしていたし、女同士ということもあるのだろうとても心を開いていてお姉さんポジションに入った様だ。





「アルシェも今日は疲れてるだろうしリンも俺に付き合わせてたから疲れただろ、そろそろ休みな。明日は早いぞ」



何しろ魔物退治だ。本当の意味で冒険者としての1歩を踏み出したといってもいいことになる。もちろんリン達を寝かせるのには別の理由もあった。





リンとアルシェが仲良く同じベットで抱き合いながら寝ている姿を見て思わず萌え死ぬと思うくらいに微笑ましい光景であったがアルシェの事をナターシャ先生に話さなくてはならないだろう。





ナターシャ先生は別館の職員棟の三階の一室に住んでおり、普通なら俺が入れるような所ではない。もちろん、職員棟には警備員が配置されているし、ナターシャ先生の部屋は更に侵入者感知の魔法や迎撃装置が配置されており、下手をしたら王室よりも安全な空間かも知れない。



職員棟の前まで来ると、俺は闇スキル影渡りを使用し闇に溶け込んだ。夜の月明かりが雲に隠れている丁度いいタイミングのため、職員棟に侵入するのは容易だった。警備隊の人達は眠たそうに、欠伸を噛み殺していた。鍵についてもピッキングスキルを使い難なくクリア



「…おっと流石の警備体制だな」



職員棟の内部は更に厄介なものが配置されていた範囲内の生態を感知する警備システム。監視カメラ。そして、暗視ゴーグル装備オートマタ…これらをくぐり抜けナターシャのいる部屋に入らなくてはならないのだ。高難易度の侵入ミッションになりそうだな。




「システム干渉…おいおい。自動迎撃とかやばくないか?殺す気かよ」



監視カメラとオートマタの視界をジャックしその装備とかをちょちょいといじってみようと思ったんだがこの製作者はなかなか腕がいいらしい。自動迎撃の魔法が高位の魔法であったり嫌らしい魔法ばかりが装着しており、カメラとオートマタの視野範囲が完全に死角を消していた。



そしてどれか1個でも破壊や無力化された場合、侵入者アリということになり、警備隊に連絡が入るし防衛装置が総稼働し侵入者を逃がすことをなくす。



「まあ、その位ならどうにかなる…がまさか干渉関係にも気が付かせるとかとんでもない開発者やな」



本気で焦った。あと数秒遅かったら感知されるところだった。



まあ、ひとまずこの職員棟の警備関係は掌握してもらった。外部干渉によるシステムハック可能時間はおよそ14分。それを過ぎると強制的にロックアウトされ、一時機能停止になり再起動が始まる。






俺は警備が完全になくなった職員棟を我が物顔で歩いていく。石像の前まで来ると微妙な空気の違いを感じ取る。




「誰だ?」


「…」



俺に居場所がバレていないと思ったのかそのままの位置で動かない。だが、そのホルスターから除くナイフが煌めく…しかし俺をまるで観察するようなそんな感じのため、すぐさま襲いかかってくることは無いため安心した。



さて、このみ放置していても居心地が悪いしとっ捕まえるにも物音がたってしまい周りの人に気が付かれる危険もあるわけだ。向こうから出てきてもらうのが一番の方法なんだけど…。





「…ふふ、私の家のオートマタ達をハッキング。更に私の闇術を見破りその余裕、規格外もいい所だわ」



俺の横にスタッ!と降りてきたのはその暗闇に暗闇に紛れるためにピッチピチのボディスーツを来たヒルダであった。



ヒルダの体格からそのボディスーツはそれはもうはっきりとその発育の良いところが出ているし、くびれも可愛らしい。そしてプリンとしたお尻。撫で回してみたいという邪な気持ちを悟られないように目をそらしつつヒルダに質問を投げかける



「ヒルダの家のオートマタなのか?」


「ええ、オルネシアン家は代々王族やこうした重要機関にオートマタそして、裏の者を動かしているの。本業はこのオートマタや監視システムの方なんだけどね。この世界でも一番と言われるほど完成度を誇るオートマタを相手にハッキングする。本当に面白い人ね」



オルネシアン家は元々は町の鍛冶屋であった。そこまで裕福でもなく、一般の家であったがある日、異世界から迷い込んだとある転来者が現れた。

その者は自分が機械の製造技術があるとかいいオルネシアン初代当主であった、メーメル・オルネシアンと共に数々の名作を作り上げていった。

いや、実際のところは転来者がメーメルに一目惚れしたらしいのだ。そうして夫婦になってからも数々の魔導機械を作り上げていき、いつしか、オルネシアン家は王国でも唯一の魔導機械製造技術の家となっていったという。



初代と転来者のお陰でこうして有名なものになったもののそれをよしとしない貴族も多くいた。それがヒルダにまわってきたという訳である。




「…ふむ…ヒルダいいことを思いついた。オルネシアン家には魔導機械製造技術があるんだろ?だったらその闇術と合わせた面白い武器を教えてやろう。多分灰燼招雷を使ったら敵なしの最強兵器だ。ただし、ヒルダ専用いや、俺とヒルダしかその造り方を知っては行けない極秘兵器だ」



俺が考えているのは小型の魔導拳銃。形はまだ決めていないが基本的な作り方は分かる。いや、モデルガンを解体した事があるためどんな造りになっているかだけなのだがそれだけでは武器として成り立たない。そこで魔法というものを使う。



…くくく、面白いぞ。詠唱なしでしかも魔力の感知もしない生活に使うような必要最低限の魔法で鉄を穿つ兵器だ。相手には何が起こったか分からないだろうな



おそらくその転来者は銃火器や大砲、ミサイルといった兵器について知っている人物なのだろう。そして、その技術を教えなかった。つまり、この世界でその技術はあまりにも危険で人を殺めることが容易過ぎるものとなってしまう訳だ。


だから教えなかった。その代わりにオートマタや監視カメラ関係だけは製造方法を教えたという事なのだろう。その転来者には悪いことをするが、これも美人なヒルダを助けるためだと思ってくれ。決して趣味で造ってみたいとかは思っていなくもない。




「それは本当?出会って間もないのに貴方だけは何故か信用出来る気がするのよ。不思議よね」



「ああ、そりゃ一目惚れってやつだよ」


「へ?……って、も、もう冗談いわないでよ」


おーおー赤くなってんの可愛いなぁ。っとそうそう別に変な意味合いではないけど実は新しいスキルが発現したんだよそれが信頼と一目惚れっていうスキルで特定のいわゆる運命と思われる相手になると好感度みたいなのがグイッと上がるようになっているみたいで、ヒルダも俺の候補ってことになるのだろう。かわいい子なら大歓迎だ。



「…ふぅ。それで?わざわざハッキングまでして会いたい先生はどなたなのかしら?」


「言葉に刺がある気がするが…いや、ナターシャ先生に会いに行こうと思ってな」


すると、ヒルダの目つきがいっぺんする。まるで変態を見るような冷ややかな目線であるがそれは誤解である。決して逢い引きとかやらしい事をするために行く訳では無いのだ信じてくれ。



取りあえずヒルダにも来てもらおう。多分ヒルダも知っているのかもしれないしな…。



道中俺の背中にはとても冷たい絶対零度が吹き荒れていた。











「という訳なんです」


ヒルダとナターシャ先生にアルシェの事を説明した。Aクラスの人間と相対して奴隷を掻っ攫ったこと。そしてその記憶を消去したことについてだ。ヒルダは頭を抱えていたし、ナターシャ先生は苦笑いを浮かべていた。


両者ともに女性でありヒルダなんかは男に対して嫌悪感もあるだろう。そしてナターシャ先生も女性。しかもこんな学院なら先生同士のいざこざもあるのかもしれない。そんな時にこの事件だ。何かしらの対策を建てなくてはならざるを得ない事になるかもしれない。



「カルシフルール公爵の人間ね。奴隷については最低最悪の行為を重ねる大貴族でバックには王国きっての暗殺集団や王族の中にも紛れているレベル。しかもカルシフルール公爵は騎士団を動かせる権限も持っているの…」


ヒルダは大体のカルシフルール公爵の事を話してくれた。たしかに奴隷の扱いがひどかった。なのに誰も止めようとしないしそれこそ周りは逃げるようにして離れていった。


なるほど、カルシフルールに敵対したら騎士団を敵に回すという事なのだろう。



「在籍しているのはカルシフルール公爵の次期当主で長男カルシフルール・ブルッセン。Aクラス所属でAクラスのお嬢様の人にも手を出すほどの女癖の悪い人で庶民に対してはゴミ扱い。

最悪なことにブルッセンは武術の才能がありその実力はお父上すらも凌ぐと言われていて止めるに止められない状態が続いているのよ」








「邪魔したな」




「…まって!!」



ヒルダは俺の腕をつかんで引き止める。かなり強い力で握り締めどうしても放つつもりがないということだ。



「…どいてくれ」


「お願い…それだけはやって欲しくないの」


ヒルダそして、ナターシャは気が付いているのだろう。俺の次に起こす行動が。だから止めた。




「貴方の力ならたしかに騎士団の全軍いえ、この国の総力を挙げたとしても軽く捻り潰せるでしょう。

でもそんな事をしてもアルシェさんは喜ばないと思います。そして、私の倒すべき相手がそのブルッセンなんです。だからお願いしますこの場はどうか収めてください」


ヒルダは顔を上げることも立つことも出来なかった。それほどまでにリックが怒っていることは分かっているのだ。


たしかに目の前で酷いことをされている女性を見過ごすことは出来ないし、私がその奴隷の立場だったら絶対にリックにすべてを捧げることを出来る。


だけど、何万という人数を殺してしまったらリックは壊れてしまう。それだけはヒルダがどのような立場であれ絶対に嫌だった。



そして、この時最悪の事が起こってしまった。







ヒルダそしてナターシャですらもう止めようがない最悪の事態が起きてしまったのだ







ナターシャの元に届いた連絡。それはFクラスのリンという少女が攫われたというものであった。そして当然その近くにいたアルシェは巻き込まれた。











「……これでも止めるか」



「…は…はい」



もはやヒルダは彼に嫌われそして恨まれようともこの場に押しとどめるつもりでいた。リンに対する愛情はヒルダにも痛いほどわかった。彼がどんなにリンを大切にしているのかも。




「っち!分かったよ。そこまでされたら興が失せるわ」



「ありがとう…」









「リックさんとヒルダさん。これは内密にお願いしたいのですが、今回の件で徹底的にブルッセンを叩き潰すわ。私の友達にもお願いする。そして2人にはそれを手伝って欲しいの」



それが王国の歴史の中でも一番有名な大事件に匹敵するものとなる。








ブルッセンを叩き潰す内容はこうだ。俺は翌日、リンとアルシェの救出に向かう。その間に出会ったブルッセンの配下は無力化。殺害はしないで欲しいということ。


リンとアルシェの位置は俺がわかっている。仲間ということでこの街を一望出来るマップ機能のおかげでその2人が今どこにいるのか分かる。


その裏でブルッセンの私室から犯罪に結び付きそうなものをナターシャのお仲間という人たちが盗み出し、それについて事を荒らげるブルッセンに提案を下す。ヒルダとの正規決闘を行い、負けた方は死を持って詫びる。



審判として連れてくる男は関係の無い一般人とするが既にその候補は上がっているということ。


ブルッセンはその審判を買収することとなるだろうがその審判はブルッセンを恨む人物だ。


つまり、ブルッセンに味方すると思わせて、徹底的に絶望の淵に叩き落とし、正規決闘ですべてにケリをつけるということだ。




「…くくく、そうだなそれがいい…ブルッセンにはこの世の地獄を見せてやる。決して怒らせてはいけやい相手を怒らせたとな」



「そうね。私もリックに教えてもらった魔導拳銃の製造について秘密裏に開発してみようと思うわ。正規決闘は両者が宣言して3日後になる。その間には武器を作れると思うわ」



「…ふふ、かつて鬼神と呼ばれた私の仲間を招集するなんて面白いことになるわよ」




こうして、結成されたこの世界でも最強のメンツが全総力を挙げて行うたった1人のための殲滅戦が始まろうとしていた。













…えっとリンです。私とアルシェちゃんは今暗い牢獄のような所にいます。リック様が夜にどこかに出かけたのは察知したのですが、おそらく娼婦街なのでしょうとお邪魔しないようにしたのですがその後黒い服をした男達に捕まってしまい、こうして、手を拘束された状態で捕まっているのです。


リック様にご迷惑をおかけしてしまって申し訳ないなと思います。アルシェちゃんは地下の生活がトラウマになっているせいか悲鳴を上げながら泣き叫んでいましたが私がどうにか落ち着け、今はグッタリとしています。正直に言いますととても心細いです。



いつもリック様のカッコイイお背中を追いかけ、その優しいリック様のお側にいられたのですがこうして、離れてみると凄く怖いです。


でも、リック様なら絶対に助けて下さると思っていますので大丈夫です。




でも…少し…怖いのです。アルシェちゃんを安心させるために無理してますがやっぱり怖いです。



早く…早く助けてください


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る