第16話 実地訓練
翌日
日が出る前に魔導学院のFクラス全員が王都の正門前で集まっていた。冒険者の方々も懐かしそうに微笑ましい笑みを浮かべて話していたり俺らを応援するような声援があるが俺の姿を見つけたものが時々驚いていたり青ざめたりしている。
「…死神がいやがる…」
「死神?」
「ああ…これは聞いた噂なんだけどあの学院の魔女やエルフの鬼神を超える冒険者見習いがいるってのがあったな…特徴と一致するんだよ…黒髪で冒険者には見えない雰囲気、そして女を虜にするほどの美貌を持った男。間違いねぇあいつが自分の女に手を出したら拳で頭を潰され、残虐な殺しをいとわない最強無敵の死神」
「そりゃ流石にありえなくないか?俺らも数10年冒険者やってるがそんな化け物見たことねぇぞ鬼神ナターシャよりも強いとか………い…いや…確かにあれは…お前を疑ったことを謝るよ…あいつは本気ですげぇ…間違いない。実力もそうだがその極限まで練り上げて隠しているあの覇気は鬼神ナターシャよりも凄いな」
正門前の近くにいる冒険者達が俺の様子を悟ってくる。その冒険者の声が聞こえてくるのだがそいつら結構いい装備をしていて魔物と戦い命がけの戦闘をする冒険者という職業で数10年も生き残っているということは上位の冒険者なのかも知れない。
弱い魔物を相手しているだけという訳ではないだろう…それ相応の傷跡が防具についていたり要所要所にしっかりとした装備を付けている。
「ありゃ…今回のクラスは安全だろうな。もはやそこらの魔物なんて踏み潰して終わるだろう…俺らも付いてるぜ?この黒髪の少年の実力を目の当たりにできる可能性もあるぜ」
「ああ?オメェらBランク冒険者の癖に学院生の護衛なんか受けやがったのか?」
「戦闘狂のチームと同じにするなよな…俺は実力に見合ったクエストを受けてるんだ。今回の護衛依頼は安いけど安心安全だし基本的には森の危険な魔物を倒していくから多少の危険はあるからいいクエストになる」
ほう?ナターシャの護衛に更に冒険者のパーティーを一つ募集していたのか。あの森に危険生物なんかいたかな?いや…まあこんな大人数だから確かに森深くの魔物が近付いてくる可能性があるのか…。
「はーいみなさーん。それでは今までの訓練などを生かしつつ楽しい実地訓練にしましょうね」
ナターシャの言葉によって出発をし始めた俺達Fクラス御一行。平原を抜けて一時間くらい歩くと大森林のエリアが近付いてくる大森林の大きさは直径で日本を横断する程の大きさがあり未だ最奥までたどり着いた冒険者はいないという。
ある一定の場所から急激に魔物の出現率が上がり危険度が増してくるし磁気など様々な事がその冒険者を襲い掛かり森のすべてがまるで捕食するように口を開けているのだ。
迷子にさせていつの間にか奥に奥にと進んでしまう大森林の危険性は昔から語られ王都やその周辺で生まれた者なら誰しもが親から言い聞かされるものらしい。
「大森林ねぇ」
エルダーワールド・オンラインにおいてもこの大森林の位置とは別だが確かに巨大な森林地帯があった。危険度が物凄く高くC級の魔物…C級はだいたいエルダーワールドにおいては冒険者数名が戦闘し多少の苦戦を強いられるが勝てるランクである。
しかしエルダーワールドよりも基本的なステータスが低いアースガルドの面々から行くとワンランク上の魔物になるということだろう。つまり、エルダーワールドのF級がE級に、E級がD級になっていく。
ランク分けについては
アースガルドにおいて
G級→スライムやミニゴブリンなど冒険者見習いでも倒せる
F級→ゴブリンやホーンピッグなど冒険者が1人で倒せる
E級→スケルトン等のエルダーワールドにおいてのF級ランク
アースガルドにおいては1人で多少の危険はあるが倒せる
D級→通常のオーガや上位のゴブリン、オークが該当しエルダーワールドにおいてのE級ランク。
アースガルドにおいて冒険者がパーティーになって倒せる
C級→上位オークやゴースト、ブラッドバット辺りの魔物エルダーワールドにおいてのD級ランク
アースガルドにおいては冒険者がパーティーで相手して苦戦する
B級→確認される魔物が少なくバジリスクなどが該当。エルダーワールドにおいてのC級
アースガルドにおいてはパーティーが全滅する可能性が高い
B級(機獣種)→B級よりも難度があがりC級までの魔物の機獣種がここに該当。かなり危険度が上がるため見たりしたら避難し報告が必要になる。
A級→冒険者ギルドにおいても情報管制が引かれるくらいであり主に下級のドラゴン、ワイバーンが該当する。エルダーワールドにおいてのBからAに該当。
アースガルドにおいては集団パーティーでの戦闘が必須でステータスの高いものが数名集まらなくては勝てない相手
S級→発見例においても冒険者ギルドの管轄外。主に全ギルドの統括である総務ギルドに委任される案件。国が滅びる危険があり各国に通達が行く。
エルダーワールドではA級とS級、アースガルドにおいては二つ名つきの冒険者や魔導師が勢揃いするレベル
リックのパーティーにいるドリアード、アラクネはここに該当。
S級(機獣種)→発見例はないがいざと言う時のために作られたランク。B級とA級の機獣種が該当。S級と同じく国が滅びるレベル
SS級→発見例がなく本のみで語られる伝説上の魔物達。知性を持った魔物が多く怒らせることがない限りは人前に姿を表すことがない。一体で大陸が消え去る。
神話級→伝説上の魔物より古くから語られる神や魔王などはここに該当し世界が崩壊するといわれている。エルダーワールドにおいてはフェンリルやルシファーなどが入ってくる。
???→リックのみしか知らない最強の存在。もはや魔物ではない。神王エルダー、全てを掌握する者エルダーワールドがここに入ってくる。
とまあこんな感じに分けられるのだが俺らが今回行く大森林の入口付近では最大でもF級しか出てこない。深くに入ってしまうとE級が出てくるため護衛も付いているというわけだ。
神話級のさらに上もはや分けることすら許されない連中を倒しているリックにとっては取るに足らない存在であるがほとんどのステータスを封印させ現状、アースガルドにおいての熟練冒険者位にまでステータスを抑えてある。それでも身に付いている基礎ステータスが消えないためそこらの魔物には遅れを取らないだろうが…。
自重する気がないリックである。
「にしても平和すぎだな…」
別になにか裏があるとか変なことが起きる前兆ではない。ただ本当に暇なのだ。王都近郊なんてのはほとんど魔物も出現しないし出現したとしても冒険者が倒してしまうためこうして俺らが堂々と歩いても何も問題ない。
時折盗賊のたぐいが襲いに来るがこの大規模な人数に戦いを挑むほどの盗賊もいないし何しろ監督にナターシャ先生や後ろから冒険者の方が監視ということで付き添いがいる。
さて、俺のパーティーのメンバー構成を紹介しておこう。まずパーティーの指揮とすべての遊撃が俺。突撃や強襲のリンを戦闘に俺の右後方にアルシェ。攻撃及びリンの支援を行う。そして俺の左後方にはFクラスで俺の横の席のハーフエルフ、セーラちゃんである。
彼女もまた支援と攻撃をお願いしてある。何ともまあ可愛らしい
パーティーであり、こうして移動中は仲良くおしゃべりしながら目的地へ進んでいく。
「今までが忙し過ぎたのですよ。ほぼ休み無しに動き回っていましたから…普通はこんな移動が当たり前なんです」
「あのー…リックさんたちは1週間ほど学院に顔を見せませんでしたがなにかあったのですか?」
確かに俺達はほとんど学校に行っていなかった。準備期間という事で行かなくても良かったが俺ら以外は初の魔物戦闘という事でおさらいや復習をしていたらしい。
となるとリンとアルシェは周りにいるFクラスのメンバーよりは格段に強いということになる。ダンジョンに潜ってレベルも上がっていることだし何しろあの機獣種とも相手をしたほどの彼女達からすれば今回の実地訓練など遠足である。
「俺も剥ぎ取りは初めてだからな…もしかしたら俺が役に立つ所がないかもしれない」
「そんな事ありませんよ!リック様がいるだけでとても安心感があるんです。なんかこう優しく包まれているようなそんな感じがしてだから私は安心して戦えるんです」
そういうものか…
プレデターガーディアンの安心感は確かに計り知れないがそれでも命の危険を減らせるだけでゼロではない。そう考えるとやはり心配になる。
俺の装備はみんなのフル装備のような革の鎧などのものではなく私服であり黒い染料のタンクトップにジーパンもどきのズボン。ほとんど防御力のないものであって最初にFクラスのみんなには不思議がっていたが正直に行って革の装備は単なる飾りだ…。
確かに要所を守る効果はあるだろうがそれでも魔物の鋭い爪が刺さったりしたらあの程度では軽く切り裂かれ内臓が傷つく。
そんなものを装備するならこの動きやすい服装の方がいい。リンとアルシェはダンジョンの時に装備させたハードコートを着用しているため群を抜いて防御力が高い。ハーフエルフのセーラは魔道服を着込んでおりちょっとサイズが大きいのか袖が手にかかっており常時萌え袖という狙ってやったと思われるくらいの可愛さがある。
接近戦で戦う戦士系の人達は革の鎧ではなく鉄のプレートを要所に付けたもので一応は防御することが出来るような感じにはなっている。
「なあなあ黒髪の兄ちゃんよ」
俺らの横で護衛をしている冒険者のハゲ頭のおっさんが暇だったのか俺に話し掛けてきた。彼の装備は俺と似たようなハルバードであり、槍みたいに刺すこともできるし斧の部分で叩き切ることが出来るかなり使い手を選ぶがいい武器である。
「なんだ…護衛のキャンセルでもしたいのか」
「いやそんなんじゃねぇよ。ただ兄ちゃんみたいなやつが何でここにいるのか不思議でな…俺らのパーティーでも兄ちゃんは有名だから気になってな」
「俺は冒険者見習いだからな。まだ魔物の剥ぎ取りが出来ない程のな」
ハゲのおっさんは苦い顔をしているが無理もない。今のステータスだとしても相当の強さがあり一瞬で数十人を相手して無傷でいられる程の自信がある。そんなやつが魔物の剥ぎ取りが出来ないと言われても信用出来ない。
そしておっさん位の実力者にもなれば第六感で何となくわかるのだろう。絶対的な強者というものを。遥か高みにいる程の怖いほどの強さが。
「教えてもらえねぇのは分かってたが英雄色を好むってのはあながち間違いではないみたいだな…可愛い嬢ちゃんからはかなりの信頼が見て取れる。大事にしてやれよ」
「言われなくても分かっている。俺の女だからな大事にするのは当たり前だ」
そう堂々と言われるとリンとアルシェも顔を真っ赤にして俯くためなかなか好きなのだ。セーラですら顔を染めるほどでありなかなか自分で言い放ったものの恥ずかしくなってきている。
「…お、それじゃあ丁度いいところにゴブリンがいるな。お前さんの力を見せてくれないか?」
「…まあいいだろう…封印した体でどこまで動けるか…やってやろうじゃないか」
その冒険者は瞬時に魔物ではなくリックに剣を向けてしまった。何故自分がそうしてしまったのか全くわからないが長年の感覚がゴブリンよりも危険だとそう勝手に判断してしまったのだろう。
周囲のFクラスの面々も驚いたようにこちらに目を向ける。彼ら冒険者見習いですら危機感を覚えるほどの質量を持ち合わせた殺気がのしかかりリックの狂った笑みが顔を出す。
剣など必要ない…武器などゴブリン相手には不要である。貴様の前にいるのは世界を終わらせる破壊の化身。その身をもって俺の前に現れたことを後悔するがいい
リックの重心がゆっくりと倒れるように前に体を出す次の瞬間、地面を抉って飛び出し、亜音速の速さで駆け抜けたリックは誰からの目から見ても瞬間転移したとそう錯覚するほど速かった。
ゴブリンの鳴き声が静まり返る。魔物の中でも特に頭の悪いゴブリンだとしても分かる戦ってはいけない相手。それを目の当たりにしたゴブリンにとっては災難であろう。
神すら恐れるその男の発剄によりゴブリンは粉砕し肉片になって周囲を赤く染める。
返り血を浴びることなく軽くズボンの埃を払う動作をし一連の動きが終わった。
あっという間の出来事であった…リンやアルシェはリックの実力を垣間見ることがあったため手加減していたということが分かっている。そのため拍手を送ってくれるが、Fクラスの全員と護衛の冒険者たちは未だに硬直していて呼吸そのものを止めているように見えた。
「少し反応が鈍いな」
ステータスを絞ったせいか肉体と頭で考えている動きが別になっており一瞬だけ動きに遅れが生じていた。本来であればその一瞬が命取りになるのだがゴブリンでよかった。
「あ、剥ぎ取りするの忘れてた」
一撃で内臓や牙、ゴブリンだと武器の類を集めておくべきだったのだがリックの発剄によって、内臓はおろか肉体そのものが四散してしまった。
流石にやりすぎ感が出てきたがそれでもまあゴブリンの報酬だとそんなにいい金にはならないし問題はないだろう。これが滅茶苦茶高価な値がつく魔物の素材だったらかなり後悔しそうだけど。
周りが唖然としているのにそんな話を続けるリック達にやっと意識が戻り始めたのか引きつった笑みを浮かべつつもその強さにハゲのオッサンは目を輝かせていた。
「やはり死神の噂は本当だったんだな。ゴブリンといえど本当に跡形もなく吹き飛ばすなんて人間のなせる技じゃねぇだろ…けどまあとうの本人が目の前に居ちゃ信じるしかねぇけどな」
「化け物って言えばいい。別に気にしてはない」
「あんたの事を化け物呼ばわりするやつは大抵嫉妬だよ。確かに常識の上を行くけどそんなのは日常茶飯事のことだ上には上がいる…」
なかなかいいオッサンだな。いい酒が飲めそうだ
それからは魔物の出現も多くなり冒険者達が競って活躍していて俺の出番は全くなかったしFクラスの皆も安心した様子で目的地まで到着した。
ここからは4日間の実地の訓練となり森に入って生活をしてもらうことになるらしい。
使用するものは各自が持参した物と森に生息している獣や植物などを調理してもいいということ。
禁止事項は別パーティーへの攻撃、殺人、盗み。女子への強姦等々。基本的にやっちゃいけないという事は禁止でただし、双方パーティー同意の上での決闘はOK。
「それでは抽選順に森へ入ってください〜。一つのパーティーに冒険者の護衛が付きますがあくまでも護衛です。魔物への手出しをすることがありませんしいないものと見てもらって結構です。それではまた4日後みんなの顔が見れますように頑張ってくださいね」
鬱蒼と生い茂る森を尻目に俺はすべてのFクラスにマークを打ち込んだ。同じクラスの連中が死ぬのは流石に見たくはないからな…ついでにこの森にソナーを扇状に発射してある程度のマッピングを済ませた。
「リックさん…私たちの番ですよ。どっちの方から行きましょうか?」
セーラがぼーっとしているように見えた俺に話しかける。まあソナーを発射したところとか脳内でマップを確認していると周りからはぼーっとしているように見えるようだ。、
うむ…基本的にまっすぐに進むと小川がありその奥に雷かなにかで焼け落ちたようにちょうど良さそうな広場があるためそこに行きたい。
「真っ直ぐだな」
「真っ直ぐですか…?」
不思議そうな顔をする。確かに真っ直ぐ進めば迷子になることもないし安心だと思っているみたいだがどう考えても魔物が一番多く通る場所である。そのため先行していったFクラスのパーティーは迂回したりしているため鉢合わせることもない。
「行ってみれば分かるさ」
その言葉にナターシャがやれやれといった感じで肩をすくめた。まあ俺が常識はずれということは知ってるし…まさかソナーを発射して結果としてこの未開の森の全容まで把握しきってしまった
とは思ってもいないみたいだが…
「ナターシャ先生…言い忘れてたんだけど俺のアイテムボックスってさかなりの量が入るからもしかしたらヌルゲーになるかもしれないけどいいのか?」
「別に禁止してはないからいいわよ。用意してきたものを自在に使って4日間をいかに過ごすか自由自在だからね」
ってことは俺のスキルをふんだんに使用してやるとするか…まあ一応は実地訓練だが衣食住はしっかりしておかないといけないからなそこは自重しないぞ。
1時間後、俺達は雷で打たれ穴があいた場所に到達した。周りの木々がなぎ倒され空が見える空間になっている。しかも近くには川があるため水汲みも楽だしこの周りに危険な魔物も生息していない。
最高の場所だろう。
ただしこの大森林の中央付近であるためほぼ中級の冒険者すら入ることを躊躇う場所であるが…。
「出会い頭の魔物を蹴散らしてきたのはいいけど流石に荷物がかさばってくるな」
真っ直ぐ突き進んだ結果当然のようにゴブリンの集団と当たることがあったし、キノコの魔物に襲われそうになったりもしたが結果としてはかなり美味しい。キノコの魔物は傘の部分以外は食用として食べられる。
それでも80センチの大きさのキノコオバケが30匹も倒して持ってくると気持ち悪いというか食べる気がおきなくなる。
セーラはリンとアルシェがとても強いことに驚いていたがそれに頑張ってついてこられるように手取り足取り教えてやった。ハーフエルフのセーラは昼間はそこまでの威力が発揮できないもののそれでも魔法の適正は高いし何しろ制御も上手い。そのため教えたことをすぐ覚えるし実践できる。
今はオバケキノコと一体一で戦っても倒せるほどになっており、アルシェとのコンビネーションによって強力な魔法砲台となる。
「さてと…リンとアルシェにも初めてのおれのとっておきを見せてあげよう。ヒルダにも言ってない面白いスキルだ」
俺は周囲の焼けた木々を見渡しながら材料が十分ということを確認するとスキルを発動させる。
するとどうだろうか焼けた木々たちが様々な動きをし始めて支柱になったり板になったりし始めてゆっくりとだが着実にログハウスになっていく。
俺が設計したのは二階建てのログハウスで1階にはダイニングバーとリビング、キッチン、トイレ、風呂完備。2階は俺の寝室とリンとアルシェ、セーラの寝室を用意させなおかつバルコニーを作ってあり夜になれば満天の夜空を見ながらお酒を飲めるという幸せなひと時を味わえる。
我ながら完璧である。もはや家!このまま住んでも変わりないほどの立派な家である。
「…凄い……まるで貴族様の別荘みたいです」
セーラは感動したというか圧巻されたような顔をしている。リンとアルシェは中に入って見て回りたいのかうずうずしはじめたので先に入ってていいという事を話す前に家に入り込んでしまう。
「玄関で靴は脱いでおけよースリッパ用意してあるから」
ちなみにドリアードは俺が作ってやった簡易的な菜園場で遊ばせてある。いい香りのするハウスの中でいろいろな花や木が育っており一種の楽園になっている。ドリアードはウィプストーンの念話で滅茶苦茶感謝を言っていた。
花達がとても喜んでいて生き生きとしているとか木たちがリックの事を感謝しているとかなんとか…。
ドリアードだからそういった気持ちがわかるのだろう。別に大したことはやっていないけど、焼けた木の中で余ったもの達を再生させ、花達も復活させただけなんだけどな。
「セーラ、俺らのパーティーに来たことはある意味では後悔することになるだろうな。特に俺が原因だけど常識というのは捨てておいた方が今後のためになる。ま、ゆっくりしていけばそれを気にならないくらい快適で帰りたくなくなるくらいになるかもな」
実際は冗談で済まされない位の最高のログハウスであるため帰りにだだをこねられ困り果てるリックである…。
「ほんと、凄いところよね」
クーネも気に入ったらしい。久々に羽を伸ばしてもいいということで地下にある空洞を自由に使っていいと言ったが俺の頭の上にいた方がいいという。まあそれなら別にいいんだけど…。
一方リックの監視についていたナターシャの部下達はリックが使った建築技術に驚きを隠せないばかりか、仰天していたせいで姿勢を崩し木から落下して尻を怪我してしまうことになったのはリックの目に入っていた。
そして隠れた瞳は羨ましそうというか自分も中に入ってみたいという願望が見え隠れしておりリックは苦笑いを浮かべてその監視役を誘ってあげた。
「…うぅ…ナターシャに怒られるよ。監視の任に付いていたのに一緒にいるとか…監視役として失敗だけど…こんな素敵な場所にいられるなら別にいいのかなぁ」
おバカさんみたいな頭をしているがコイツは確かに隠密性にも長けているしその腰や太ももに隠されているナイフは致死性を含んだ毒などが仕込まれている。かなりの手練であり戦闘技術も相当である。
が、快適な空間を前にしてはそれも全く意味をなさないけどな。
彼女の名前はシリラ。鬼神ナターシャによって組織されている隠密集団の一員でありシリラはその毒の扱いがうまいという点では組織内で1位である。
が、馬鹿である。
「ほら、お茶入ったぞ」
ちょっと熱めのお茶を出してやると食いついてくるシリラは確実に食べ物を食わせたら全部話してしまいそうである。
「ふぁあ…このお茶美味しいですぅ」
「ほんとリック様は何でもできるんですね」
リンは褒めてくれるが何でもできる訳では無い。確かに相当無理な事もやろうと思えばやれるようなものがあるが、全てというわけでもないしこのお茶だって安物のお茶をブレンドしたものだ。
しかし可愛い女の子が喜んでくれているならそれだけでいいのかもしれないな…。
アルシェとセーラも俺のお茶を美味しそうに飲んでアルシェはぐっと親指を立ててセーラは笑顔を見せてくれた。
まだ、一日目も始まっていない。
長くそして短い大森林実地訓練がスタートする
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