第14話 国王

[玉座の間]



数段上に座るその王様は見事にイケメンの青い髪をしたヒルダのお父上であった。赤いカーペットに跪くリンとアルシェはその迫力でほとんど強引に跪かされたみたいなもので、俺はその場に綺麗に立ったままだった。


威圧というスキルであり、そのスキルを持つ彼の瞳からはとてつもないほどの経験を積んだ者の眼光であった。何百人と国のためそして自分の家族、自分の命のために殺してきているその瞳からはまるですべてを見透かすような緑の色を放つ。


周りにいた貴族の中でも王様の親族に近しい人ですらその迫力の雰囲気で跪く中ただ1人直立する姿は王座に座るヒルダの父上と真っ直ぐに見つめ合いそして2人は息の合った笑い声を上げた




「ハハハ!!」


「フハッハッハ」


その様子に貴族達も何事かと頭を上げるがそこには威圧を解いた国王と無礼にも値するような脱力した姿のリックであり、その2人が何やらおかしい事があったのか大笑いしているのだ。




「まさかヒルダの父上が俺と似たようなタイプだとは思いもよらなかった…でっぷりとした成金野郎かと思ったら冒険者みたいな体つきとはな…威圧で相手を膝まずかせるその技、そして全く隙を見せないその立ち振る舞い。お見事だな」



「ふ、それを貴様に言われたくないな。どんな無礼なやつかと思えば入ってきた瞬間からその場を支配し挙句に立っておるだけでその迫力が滲み出る…まるで古龍エンシェントドラゴンを前にしているようだ」




リンとアルシェも動けるようになったのか俺の近くによってちょっと怖いのだろう両方の裾を掴んで震えていた。まあ無理もないあれほどの威圧をくらって漏らさないリン達は俺に毒されている証だ。



ヒルダは服を着替えておりちょっとだけおめかしした青いドレス姿で流石に威圧を受けて跪く程度で何事も無かったかのようにお父さんの前まで行くと鎌で斬り掛かろうとする。



流石に俺もその行動にはビックリしたがどうやらリン達を怖がらせたのが許せなかったらしい。殺気を放たないまるで慈愛に満ちた笑みとその立ち振る舞いからの猛烈な勢いで振るわれる大鎌の攻撃を面白いというような顔つきで手で受け止めるお父さんは本当にとんでもない化け物である。




「このアホ!なに怖がらせてんのよ!」



ヒルダの口調も結構崩れて家族の前だからこその柔らかくも怒った口調であってなかなか見どころが多い。だがヒルダとお父上が並んでいるところを見ると確かに血の繋がった家族だなと実感する。


ヒルダはどちらかというと母親に似ていると思うがそれ以上に性格がお父上譲りなのだろう。




「…うむ。威力やスピードが段違いに跳ね上がっておる。どうやらリック殿のおかげで壁を乗り越えたか?」



「ふん…お父様には関係ないわね」



「まあ時間はゆっくりあるんだ…リック殿とそのお仲間以外は下がっていいぞ。貴様らにリック殿を止められる実力はないと分かっておるからな」



貴族達はあからさまに怒っているようだが文句を言える立場ではなくましてや王様の実力を知るものだからこの場に居合わせることが出来ているという事実があるため渋々引き下がっていく。





「なかなか優秀な部下を持ってるみたいだな」



「まだまだよ…バレているようなら隠密部隊とはいえないお前達も下がっておれ…ヒルダの招待客だ。心配はいらん」



ヒルダのお父上オーガストはやれやれといった感じで命令を下すとあちこちに影に隠れている軍の人間を下がっていく。かなりの熟練度を持った隠密であったがドッペルゲンガーという影の支配者がいる前ではもはや丸裸である。




「改めて私がオルタ王国国王オーガストだ。そして妻のミカルガ…元特級冒険者の魔法使いの1人獄炎の魔女と呼ばれた魔法使いだ。俺もミカルガもそうだが今もその力は現役だがこうして王族となると派手に暴れることも出来なくなってな…ハッハッハ」


「あなた、この場ではリック様方もお疲れしてしまいます。王室に案内してから話をした方がよろしいのではないでしょうか?」



「…ん…そうだな。立ち話もなんだ。我が王室に案内しよう」





オーガストはそう行って立ち上がるとその重々しそうなフワフワのローブの下にオリコルハンの防具を着込んでいることに思わず苦笑いを浮かべた。








「さて…ヒルダと学院でも仲良くしているようで結構な事だがあまりハメを外さないようになとはいえ…ヒルダはどうであった?」



「最高だな。愛されて育っただけある。だからこの場で言っておこう。ヒルダを貰うが文句はないな」



ヒルダと母上であるミカルガも驚いたように目を見開きリンとアルシェもまさか初っ端から喧嘩を売るような言葉に唖然としているようであったがそれを全く動じることなく俺の目を見つめ続けるオーガストからの視線をそらさずにその本気さを見せつける。




「リック殿なら心配いらないな…私より強くそして気高い。優しそうな顔をして獣のように飢えた瞳をしておる。一昔前の俺を見ているようだ」




オーガストは昔を懐かしむように口にする。ミカルガという女性に出会う前の自身の姿を俺に重ねているようである。オーガストは当時とはいえ、数百年以上前このオルタが未だ魔物や人同士の戦乱の世にあった時代。



オーガストは一介の冒険者であった。帝国との戦争や様々な要因があり国を追われる身になっていたオーガストは逃げるようにしてこの地に身を潜めた。そこで出会ったのが当時獄炎の魔女と名高い怪物ミカルガ。



出会った瞬間に二人は恋に落ち人里離れた山奥でひっそりと暮らしていたがついにその地にすら戦火が及ぶようになりオーガスト自ら行動を起こした。


それがオルタの歴史の始まりであり、王都を作り出した第一歩である。




オーガストはまず、人々の争いを実力で叩き伏せた。魔物との戦闘で培われたその技量は人を相手にする戦争では圧倒的な武器になり、ミカルガとの共闘により瞬く間にその名は全国に轟くことになる。



それからというものオルタに攻め入るとたった2人に返り討ちに合う噂が広がり本当であるがために次第にオルタの周囲には人々が集まりいつしか街になった。安全を求めて移住してくる民に優しく、時に厳しくしてくれるオーガストとミカルガはその当時の民からは慕われ敬われていた。数年が立ち戦争というものもなりを潜めて平和になり始めた大陸全土はある危機が迫っていた。



だからこそ戦争というものがなくなったといえるのだがその危機というのは魔物のスタンピートであった。これまでに無い大規模な魔物の大進行に諸国は戦争をやめるしかなくなりその魔物との戦いに専念し始めた。



オーガストとミカルガは戦争を仕掛けてきた国や同盟を結んでいた国関係なくその魔物のスタンピートの魔物退治に手を貸していく。もちろんそこには戦争をやめさせるという魂胆がありなおかつ貸しを作っておくというのが大きな目的であった。




この時既に50年の歳月がたっていた。魔物も収まり始めるとオルタの街は急速に発展をし始める。それはある意味ではオーガストを苦しめる要因となっていくがそれでも平和になった大陸でオーガストとミカルガの組み合わせを知らぬものはいないと言われるほどである。



2人が結婚するのは更に20年が経過しオーガストは80後半。ミカルガも70をゆうに超える年齢となり流石に結婚するのには遅すぎるということで諦めかけていたのだがそこに現れたのが魔道学院長であるフルールであった。



彼女の魔術により彼らはエルフにも負けず劣らずの長寿の年齢を手にすることができ、若返りを果たしたのだ。こうしてめでたく結婚した二人は王都オルタをつくった初代国王として未だ存命し、その玉座に座っている。


現在オーガストの年齢は345歳。ミカルガは293歳という年齢であり若さでいうと二十代の肌や動きが出来る。




国王という座を狙い幾多の暗殺者を放つ貴族達であるがことごとくそれを返り討ちにしなおかつそれを止めようとしないオーガストだからこの座に収まることが出来るのだろう。



「つまりあれか…オーガストの隠密部隊はそれを阻止するために作られたものでありつつ自分自身もわざわざ狙われるような事をし実力を知らしめていく…隠密部隊も恐らくオーガストが現役であった冒険者の仲間のうちの人間。もしくは奥様の弟子達といった感じかな?」



「そこまで分かるのか。全くその歳で末恐ろしい洞察力だ…その通り俺の仲間とミカルガの弟子で構成されてるよ。国内においては君たちの動向をとやかくいうつもりもないしもし自分ではどうしようもない事が起きたら…そうだな例えば権力を振りかざして来る面倒臭い連中がいたならそいつらを頼るといい…場所は分かるな?」



オーガストの隠密部隊は国内に数百といて、あちこちの街で自然に暮らしている。この王都には50人位が潜んでおり貴族たちの動向や危険人物の処分…その他諸々を秘密裏に行っている。冒険者の宿にいる中の誰かがそのうちの1人と考えてもいいくらいである。



「了解した。それで?俺らに何を頼みたい。ヒルダと仲良くしてくれという挨拶だけではないんだろ?」



「そこまで難しい依頼ではないよ。ただ我々だと手が出しにくい案件でね…簡単にいうとある場所に行って書類を渡して欲しい報酬は望みのものを用意させよう。ヒルダの子供の時の写真か?ヒルダが時折付けるお気に入りの勝負下着でもいいぞ」



なんとまあいきなり下世話を突っ込んできたオーガストに苦笑いを浮かべつつも俺は何となく事情を察した。



隠密部隊を送り込むと国際問題に発展しかねないし貴族たちに知られるわけにも行かない。しかもその場所は多少危険な場所にあり、伝書鳩ならぬ伝書鷹を飛ばそうにも空の魔物により届かない可能性がある。




「じゃあヒルダの勝負下着を報酬として先払い。届け終わりあんたの部下に報告したら子供の時の写真を貰おう」



「リック!!勝手に話を進めないで!!私の下着で何するのよ!」



「そりゃ…ナニをするんだよ」



「私がいるじゃない!」



あ、それを両親の前で言っちゃうのか…というか結構誘導していったつもりだけどまんまと釣られてくれた。発言に気がついたヒルダはみるみる顔を赤くさせて湯気とともに椅子に座り込みうずくまってしまう。


「もうやだ…」


「ハッハッハ仲のいいことだな。ヒルダは気も強いがその実力も強いところがあり男友達というものが全くいなかったがリックの前だと安心できるようだな」




オーガストとミカルガはにこやかにその光景を見守っているがあんたの娘さん凄いことを口走ってるんだが…



リンとアルシェも理解できる年頃なのだろうリンの猫耳がペタンとしおれてもじもじと恥ずかしがる。アルシェは頬を染めるだけであるがそれでも破壊力抜群であった。





依頼内容は霊峰都市リビア。そうヴァルキリーがある都市に書類を届けて欲しいらしい。なんとまあ偶然だと思うが逆に仕組まれていたとするとしっくりくるのだ。



もしかしたらと思いその書類の届け先を聞いたら確信に変わった。ヴァルキリーが会いたいがためにわざわざ俺のいる王都オルタに仕込みをしていたということだ。



「はぁ…全くヴァルのやつこんな面倒な手を使わなくてもいいのにな」



俺がその話を聞いてポロりと口を滑らせた言葉にオーガストとミカルガそしてリンやアルシェ、ヒルダが一斉に声を揃えて驚いたように叫ぶ


「「ヴァルキリー様とお知り合いなのか!?」」



「え?…まあ?知り合いというか愛人?」




その言葉に今世紀最大の絶叫が王宮に響き渡った。




「…リックまさかヴァルキリーがアースガルドでどのような存在か分かってるの?」



「もしかしてかなり不味いのか?」



「そりゃそうよ!!この大陸で1番信仰されてる方がヴァルキリー様なのよ。帝国の帝王やお父さんですら頭を下げるほどのお方で女神様なんだから!!」




へー女神様ねぇ。それを俺の毒牙に掛けたとなると全国の軍隊を敵に回すってことになるのかな。俺結構不味いことしたんだな…。



だって知らなかったし、ヴァルキリー可愛いし綺麗だし俺のことを愛してくれている、そしてなにより強い。




「くく…俺だけってことだなあのヴァルの女の顔を知ってるのは」


最低最悪の発言であるがそれを止めるものもいないし止められるものなんてもってのほかであった。



隠れていたドリアードも驚いたように姿を見せるし俺の頭にいたクーネもまた唖然とする。





「全く…こればかりはかなり驚かされたな。戯言かと思えないが…ドリアードを契約もとい隷属化させていてその頭の上にいるのは間違いなくアラクネ…それほどまでのカリスマと実力を持つものなら確かにヴァルキリー様を落とすのもうなずける。我々の常識の上を行く存在というわけだ」




「リック君…これは私たちだけの秘密にするわ決して口には出さない私とオーガストは盟約に誓うわ…」



「別に喋っても問題ない気がするけどまあ何億とかいう人間を殺さなくて済むならありがたいな」





リックの場合本当にそれが可能なためオーガストもミカルガも苦笑いを浮かべることしか出来なかった。ヒルダについてもまさか自分の好きな男が実は愛人がいてその愛人がこの世界の女神様ヴァルキリーであるとは失神ものであるがどうにか耐えることが出来た。



それはヒルダがリックを常識を知らない男として認識しているからこそ成せたものでありもし準備してなかったら泡を吹いていた。





アースガルドにおける美神及び戦女神として祀られるヴァルキリーは人類が生まれてくるよりもずっと前からアースガルドに住んでおりその姿をお目にかかることが出来る神様であった。


アースガルドの半数以上がヴァルキリーの教徒であり、一党独裁と言ってもいい具合であるがヴァルキリー自身がそれを認めない事と信託という名で命令を下すこともないし基本的に人々の争いごとにも手を出さないが、時折加護を授ける事があるため戦や命懸けの戦いの場合あちこちに御神体が祀られた祠があり祈りを捧げる者が後を絶えないという。



そんな[ヴァルキリーの加護]だが時間制限付きでなおかつそこまで強力なものではないがそれでもあったら凄く心強いものである。基本的にその効果はランダムだが…ちなみにそんなヴァルキリーの加護の上の[ヴァルキリーの愛する者]という加護を身に纏ってるリックはそれこそヴァルキリーが可能とするその効果を選んで同時に4つ発動させることも出来る。



ユニーク加護であるため口外できないようヴァルキリーからもこの加護については喋らないようにと言われてる。実は単なる独占欲からなる言葉である。



「まあ、急ぐほどの依頼ではないからな。リック君たちのクラスは実地での訓練をすることになっているらしいがまあ君がいるから何も問題はないだろう。古龍や邪神が来たとしても難なく返り討ちにしてしまいそうだしな。ほら先払いのヒルダの下着じゃ」



「おう、ありがとうよ。赤のレースか…なかなか刺激的なのを履いてるじゃないか。嫌いじゃないぞ……リン…もしかしてだがこの匂いといい…まさか!」


「リック様…その下着は間違いなく洗濯をされていない物です」




「オーガスト陛下!我が命に代えましても陛下に忠義を誓いましょう。このようなありがたい褒美を頂いたからには全力でお力になりましょう!!」



「嘘!!それ侍女に渡したわよ!?なんで…いや…まさかお父様!侍女に命令したのですね!!」




この手に握り締めている赤い下着は恐らく着替えたヒルダが履いていた下着であろう。俺もまさか洗っていないものを貰えるとは思ってもいなかったため感激に涙が流れる。



洗った下着より脱いだままのもの…願わくば脱ぎたてが至高…ああ、女神様…ありがたや




「リックも私の下着を握りながら顔に近付けないで!!」



「安心していいぞヒルダ!この下着についているちょっとエッチなシミについては何も気にしていないというよりとてもいい感じである」



下着を取ろうと俺に近寄るヒルダの耳元でこっそりと伝える



間違いなく1人で行為にふけっていた証拠でもあったが為にヒルダはそれを取ろうとしたがもちろんそれを渡すわけには行かない



いつどこで彼女がそんな事をしていたのか分からないがそれでも誰のことを思って1人で慰めていたのかを思うと途端にムラムラしてきて仕方ない。





「うぅ…ばかぁ!!!あほぅ…変態ぃ!」



ついに泣き出し始めてしまうヒルダは俺の胸元をぽかぽかと叩いながら罵倒する。



「…ゴメンよヒルダ。俺はヒルダのことが好きでヒルダが可愛いからつい虐めたくなっちゃうんだよ。男は好きな女には構って欲しいと常に思ってるからな…ほんとにゴメンね?」



イケメンボイス×ちょっとSの入った甘い告白に泣き止むどころか恥じらいを見せてコロコロと表情を変えていくヒルダに両親と俺は微笑ましいものを見るように笑みを浮かべた。




「…許してあげる」


「ありがとうヒルダ、大好きだよ」



少女漫画のようにヒルダの額に優しくキスを落として胸に抱き寄せてやる。もちろん両親の前ということを忘れているヒルダは突然俺の胸を押しのけてはっとした表情を見せていた。



どうやら親の前ということと俺が言葉巧みに下着をもらっておこうとしたことに気がついてしまったらしい。



「リック!危うく引っ掛かるところだったけど下着を返してもらってないわ!!早く返して」




「俺のをやるから許してくれよ」


「え!?ほんとに!!…って……それもありっちゃありなのかな…リックの下着……えへ…えへへ」




ヒルダがどんどん変な方向に走っていく気がする…そんな子に育てた覚えはない。


「ハッハッハ…ほんとに愉快な人達だな。ヒルダも幸せそうだしリン君たちも奴隷という身分を感じさせない…自然にリック殿についていく。やはり英雄というのはカリスマが違うのだろう」




英雄か…全く。エルダーワールドにいた頃の俺では考えられないよな。1人で突き進む奴が今じゃこんなにも仲間に恵まれて仲良く暮らしているんだから。確かにカリスマというのは存在しているだろう。だが俺は別に英雄になるつもりは無いしましてや1度はエルダーワールドの英雄…いやあれは英雄なんて呼べたものじゃないな…。




みんなを導けるからこその英雄であり自分自身のためだけに進み続ける奴のことを指す言葉ではない。






「オーガストもそのうちの1人だろ?」


「いや、私も自分自身では英雄などと思ってはおらぬよ…民達からすれば私は国を建国し戦争を終わりに導いた英雄として見えるだろうが私からすればその間にあった何万という死者の上に立っているだけの人間に過ぎないそう思っておるよ。真の英雄は今は亡き者達にこそ与えられるべきものだ。

…私は何十万という人々を救うために何百人と見殺しにした男でもある。もはや英雄ではなく大罪人のほうが正しい。時々思うのだよ…自らの決断で一体いくらの人間が私を恨むのだろうかと…そしてこの手で殺めた人の顔が…今なお色褪せることなく記憶にべっとりと張り付いて離れない」


オーガストは恐らく苦渋の選択を迫られていたのだろう。例えばとある村を占領されそれを制圧しに来た兵士達がいる。その村は数百人の規模の村で敵は数十人。敵は条件を突き付けてきたとするそれは数百人の命と引換に兵士達に武器をすてさせろという条件である。


当然民を見捨てたくはないがそれでも兵士達にも命がかかっている家族がいる。愛人がいる。そんな彼らを武装した敵の前で武器を捨てろなんて命令が出せるといったらそれは不可能である。立場が上になるということはそれだけ他人の人生を背負うことになる。





これはオーガストの本当の話でもあった。敵の規模が違うが村人を人質に取られ篭城された事もあった。そんな時暗殺者を送り込もうにも昼間のうちに決めなければどのみち殺されてしまうため送れない。



結果としてはオーガストはその村すべてを焼き尽くすという命令を下した。村を焼いてしまえば敵も逃げ出しその隙を見て村人達が脱出することができるようになるだろうという計算であった。



焼き討ちにより村人達は25人が死亡。13人が重度の火傷を負った。敵の部隊は焼き討ちにより混乱が起きほぼ全滅した。




その時の小さな女の子の顔が忘れられないという…その女の子はお母さんとお父さんを失ってしまった。まだ年も幼いためオーガストの行いを悪と見なし鬼の形相で睨みつけたという。ぐちゃぐちゃになるまで両親の遺体の前で泣き続けた女の子はオーガストを許すつもりはないという表れであったのかもしれない。






「オーガストは間違いなく英雄だよ。あんたはその数百人を見殺しに出来る男だ。普通のやつならその数百人の死という重圧に耐えることが出来ないだろう…いや数十人ですらきついはずだ。例え何万人を助けるための選択だろうとそれは自分が殺したと同じことだからな。だが、よく考えてみろ…その数百人だけの犠牲で済んでよかったってな。最低の考えだがそれでも数万を殺すよりはいい判断をしたと言える」




ちなみにだがその両親を失った女の子はオーガストに拾われ、現在隠密部隊の隊員として活躍しているという。どうやら小さい頃はオーガストを殺すために色々な手を使ってきたらしい…その後大きくなりことの真相を理解することができるようになるとオーガストに謝りそして部下になったらしい。しかし…その時の強烈な出来事に未だ傷が癒えることがないためその女の子が手を出してしまうこともあるというがそれを許している。


いやわざとその攻撃を見に受けることによりオーガスト自身もその時のことを忘れる事がないように身に刻みつけているのかも知れない。




「湿っぽくなってしまった。まあ今日はゆっくりしていきたまえ…色々料理も用意してあるしどうせなら私とミカルガが見つけた秘湯に案内しよう」



なんと温泉があるらしい…日本人精神とは恐ろしいものでお米を見つけた時もそうだったがやはり温泉というのも忘れられないだろう…。



風呂もありだがやはり温泉は別格だろうな…そして王様たちが見つけたという秘湯…かなり期待してもいいだろう。とてもワクワクしてきた。






「楽しみだな…温泉」



「リックは温泉が好きなのか?私は昔からあそこにはよく出入りしていたからあまり実感出来ないんだ」



温泉はかなり好きだ。ちょっと熱めのお湯に外で月を眺めながらお酒を飲む…あれほど最高なものは無いだろう…お酒だけではなく風呂上りのキンキンに冷えた牛乳でもいいぞ。




「大好きだよ…だがまさか温泉に入れるとは思ってなかったからな結構テンションが上がってる」



リンとアルシェは温泉がどのようなものか分からないのか、はてなマークを頭の上に浮かばて首をかしげているが一度入ってしまえば病みつきになるのは間違いないだろう。



「リン、アルシェ、ヒルダは俺と一緒に入ろうな」


リンは頬を赤くさせ照れるようにもじもじしながら呟く



「恥ずかしいです…」


いやいや…それがいいんですとは口が裂けても言えないだろう。そんなことを言ってしまったらヒルダ辺りが黙っていないと思う。女の子同士で入ります!とか言われてしまったら…いや?それもありっちゃありだな女子トークに花を咲かせ「ヒルダさんの胸大きいですね」とか「やん!リンちゃんそんなに触らないで」とか…うんけしからん。





「…エッチなこと…考えてる」



アルシェは俺の顔をじっと見つめた後そう口にした。まさか俺という存在が心を読まれたというのか!と思ったが思いっきり顔に出ていたためアルシェは分かっただけである。気持ち悪い笑みを浮かべ妄想にふけっているからバレるのだ。



ただしアルシェはその事を俺の近くで喋っただけであり周りに聞こえないような声のためもしかしたらアルシェはOKという事なのだろうか?




すると今度は俺の心の声を読んだかのように肩のあたりを優しい力でポスッとこずいてきた。いや間違いなく読まれている気がする。




「ヒルダは…いいよな?」


「そう簡単にいくと……」



俺がヒルダの赤い下着をチラッと見せつけてやるとビクッと身体を震わせほんとに小さく首を縦に振ってくれた。


ちょっと無理やりだったがここは仕方ない。俺の欲望のために犠牲になってもらおう。






ちなみに俺はわざと話を振らなかったことが一つだけあり、俺が下着を出した時に体を震わせたヒルダの美しい青い髪に隠された顔には羞恥に赤くしながらも別の興奮という名のものが入り交じっている…忘れてたけどヒルダはMである。



俺だけの特権だな…

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