第13話 勅令

扉の向こうにいるのは伍式ミノタウロス。8mもある機械とミノタウロス本体が混じりあった機獣種…その右手にはこの世界では存在しない30ミリガトリング砲。通称アヴァンジャー



航空機に搭載されるそのガトリングを片手で操作しなおかつ移動できるような化け物であった。



「厄介ですね機獣種のミノタウロスタイプですか。あの形状の武装は見たことありませんがかなりの強敵そうですね…」



機獣種とはダンジョンにおいて生まれる謎の機会生命体であり、その凶暴性と魔物にも攻撃するという異質な存在で出会ったら最後謎の閃光とともに殺されるという。



リックからしてみればあの銃という形状は見たことがあるし、何しろアヴァンジャー程の有名どころになればその手のものなら誰しもがわかるだろう。だがいざ銃口を向けられるとその威圧感は半端じゃない。毎分3,900発30×173mmもの人間に当たれば血の煙となるような凶悪な存在を発射されるとなればたまったものではない。




「あいつの腕をへし折ってやる」



ミノタウロスの右目の赤い光点が俺に向くとニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべガトリングの回転が始まると戦闘が始まった。



リンとアルシェはミノタウロスの大きさに怖がりながらも必死に散開していた。


間違いなくヘイトは俺に集中しているし、ヒルダは既にダッシュでミノタウロスの足元に接的していた。



「やぁ!!!!」



大鎌の一撃がミノタウロスの足に突き刺さりガトリングの砲口が左にそれ、その隙にリンが壁を横走りして、ガトリングの上に飛び乗る。



その間にもアルシェの援護魔法によりミノタウロス視界を奪っているが機獣種の特性上その効果が通用するのは一度きりである。こちらの世界では謎の効果といわれているが恐らく暗視モードを使っているのだろう。多少の煙ならば無視できるし下手をすれば赤外線とかで熱源を感知されたりという場合も考えられた。




リンは右肩の装着された部分を滅多切りにしているがかなり強度があるのだろう刃が通っていない。



「ドリアード!」



「はいさ!」



ドリアードの魔法によってミノタウロスの両足が根っこに捕まり身動きが取れなくなる。ヒルダもまた詠唱を開始して、アルシェはライトニングランスで顔面に雷の槍をぶち込んでいた。




「ファイアランス!」


ヒルダの炎の槍によりドリアードの根っこが燃え盛りそれがミノタウロスにも影響を与えるが大したダメージは与えられていない。




「きゃあ!!」



ついに根っこを断ち切り動き出したミノタウロスの動きによってリンが放り出される。それをキャッチして魔法を付与した。



「無理するなよ。大丈夫だリンならやれるさ」




こくりと首を縦に振りミノタウロスに向かって走っていくリンを見ながらリックは楽しそうに笑っていた。




「俺もいっちょやりますかね」




刹那、一陣の風が吹き荒れ、その一撃によりミノタウロスが闘技場のようになっている部屋の壁に激突に口から大量の血を吐き出した。



2割の力によって放たれた魔王の戦斧による衝撃波によってミノタウロスが吹き飛ばされたのだ。



「うそでしょ」



さすがのヒルダも驚き目を見開いていた。とことん常識を覆していくリックだが、そんな事よりもこちらの方がとんでもなかった。まるで羽虫を払ったかのような軽い一撃であったにも関わらず機獣種でありなおかつミノタウロスという厄介な魔物を相手を吹き飛ばしてしまった。



どれだけの腕力があればそのような事が可能なのだろうか?一体どの境地に到達したらあの一撃をはなてるのだろうか…。



「ぼーっとするなよーまだ生きてるからな」



ミノタウロスはゆっくりと立ち上がるがその足は震えていた。魔王の戦斧によって振るわれた猛威により足にとてつもないほどのダメージをおって再生することも出来ない。そして自らの自慢であるガトリング砲も火を吹くことなくひしゃげ使い物にならなくなっていた。



リックの攻撃は単純な、それも剣や槍などといった近距離で戦うものなら誰しもが使えるような簡単な攻撃技、二連撃である。ただ2発の攻撃を短時間に発動させる技だがリックの二連撃はガトリングを破壊し、ミノタウロスの全身を衝撃波のみで倒すほどの威力を持ち合わせた破壊の2発となっている。


「リン、アルシェ、ヒルダ、ドリアード…ラストはくれてやる」




「はい!」









四人がボロボロになったミノタウロスと戦っている中俺の頭に住み着いたクーネとその様子を眺めていた。



「さっきのあれ本当に凄いわね。私でも二発目が見えなかったわ…あなたと争うことなくて本当に良かったわあなたを簡単に倒せるとは思ってもないけど良くて全力を出させて見ようと考えた私が馬鹿だったわ。あなたは全力を出すことが出来ないのね」



「まあね…気が付いているかもしれないけど俺とコイツを本気で振った時は多分世界が真っ二つになるんじゃない?強過ぎるってもの考えもんだぜ?何しろ本気の全力を出すことを許されないし手加減の全力でも充分強すぎるからさ…加減が難しい」



魔王の戦斧は自身の力によって威力を変化させる特性があり使用者が強くなるほど魔王の戦斧も強くなっていくというのだ。そのため極限まで上り詰めた俺とこの魔王の戦斧を組み合わせたらたとえどんな強大で強力な敵だろうと粉砕することが出来るだろうな。


その他にもアイテムボックスには封印してる危ない武器が沢山あるけどまだ取り出せるだけ魔王の戦斧はいい武器なんだろうな…後は大破剣グラムと聖盾ヴァルキュリアとかは使用できるな。


封印してる武器のなかに天槌ニョルニル。北欧神話に存在する神トールがもつ武器でエルダーワールドにおいては一度振るえば天が崩落するといわれる。また、範囲系じゃない全体攻撃とかのやつでいわゆる全世界に対して天を堕とす武器だね。だから使えないし振るえない。



後は…ああ、赤椿かこれは刀の部類の武器で名の由来は血を浴びるほどその赤さが増していき血を求め人を殺すほどその鋭さが増していく武器である。この武器によって切り刻まれた人間は数万人といわれ、その吸い取った血が鞘から抜くと滴る。そしてぎらついたその刃は新たな血を求めて使用者の心を蝕む…といわれる魔刀だな。いわれているだけで手にしたのが俺だけだから分からないがコイツは本気で地を求める性質はあると思う。何しろ俺も手に入れた時、殺したくて殺したくて堪らなくなったし、魔物でそれを満たすことが出来ない。





そんな武器が少なからず俺のアイテムボックスにはしまってある。



まあ、そんな話をしているうちに4人がミノタウロスにラストスパートをかけ始めていた。



「ヘルスラッシュ!!」


「ハードスラッジ!!!」


「…ホーリーレイ」



「やっつけちゃえ!」




ヒルダの大鎌がミノタウロスの腹部を黒い霧のようなもので切り裂いて、そこにリンの身体強化を乗せた全力突き刺しが入り込んで激痛によりよろめいた所を、アルシェの手から放たれた光のレーザーが心臓の部位を焼き焦がし、ドリアードの巨大な根っこによりミノタウロスの完全に無防備になった心臓の場所を穿った。



俺の一撃によってミノタウロスの全身にコーティングされていた硬化の力を消し去ったため致命傷となる一撃を与えることが可能になり、四人の連携により見事伍式ミノタウロスを討ち取った。






「ウゴオオオォォオォォ」


大きな光の粒子となって空中に霧散していくミノタウロスとあとに残る宝箱。





ぺたんと腰を抜かす4人を見て俺はこう口にした。



「みんな、お疲れさま、伍式ミノタウロスという強力な相手にも臆することなく必死に戦い勝利したんだ。喜んでいいんだぞ」



「…本当にミノタウロスを倒したんだ…」



リンは未だに信じられないような顔をしながらでも何かを達成したような満足げな表情を浮かべていた。



アルシェは顔には出していなかったが雰囲気はとても喜んでいる様子で小さな手を握りしめてガッツポーズをコソッとやるあたりメチャクチャ可愛い。



ヒルダは流石にすぐに立ち直っているようで力が入りきっておらず歩き方的にもふらふらしていた。俺が手を貸してやればそんなことも無く一瞬でケリがついてしまうがそれでは訓練にもならないし彼女達がいざという時に危険になるからな。これは大切なことである。




「さて、喜びをかみしめているところ悪いけどお宝タイムといこうじゃないか誰が開きたい?トラップではないから誰でもいいよ」



「…えっとリック様が開いてください。私たちなんてミノタウロスのおこぼれを貰ったようなものですし…経験値でかなりの報酬になっています。一番のダメージを与えたのは間違いなくリック様ですし…」




「いや、俺はなし。んーじゃあリンとアルシェ二人一緒に開けて見るといい。これも経験だ」




ヒルダも頷いてくれた。どうやら初めての宝箱ではないためあの経験は済んでいるということだ。ドリアードは正直よく分からないがそういった事には無関心だったから省いていいだろう。



リンとアルシェは俺の言葉を聞くとそれを否定することはなく頷き恐る恐る宝箱に近付いていく。金や銀で装飾され美しい輝きを放つ宝箱を2人で一緒に開いた。




「ほう…大当たりだな」


「ええ、なかなか報酬としてはいい方ね」



いつの間にか俺とヒルダもその宝箱の中身をのぞき見てその報酬にちょっとだけ驚いていた。間違いなく伍式ミノタウロスの報酬と釣り合わないくらいに多い。



3,000リルと伍式ミノタウロスのモンスターメダル。純鉱石の塊と大魔石5つ。そして小剣と杖が入っていた。



小剣は高品質の魔石があてがわれた魔法剣である。色合いやその純度から見てかなりいい剣であるとわかる。



杖は世界樹の枝が使われているものになっており相当魔法の威力などが上がるものだろう。



魔石について説明しておく。魔石とは魔法の使用や魔力の動きによって塊になったもので多くの用途がある。剣に埋め込めば魔法剣として特定の属性を自由に付与できるものになるし、光の魔法を魔石に込めれば光源として使われる。街灯もこの魔石が使われており、大きな魔石になるほど長年使用することができるようになる。



王宮や王城などにもこういった魔石が使われており、王城に対する強固な魔法のシールドの供給源となっている。まあそういったところに使われている魔石は巨大な結晶であり、その魔力は数万年の月日を経てもなお使えるもので金額にすると一兆リルを超えると言われる。




大魔石は市場なら1,000リルくらいの金額になるため今回は本当に美味しいといえよう。




「リン、アルシェ…この武器はリンとアルシェの物だから大切に扱えよ?まあ、大きくなったらそれ相応の武器を俺からプレゼントするがそれまではこれを大切に扱っていきな」



武器には意思が宿る場合もあるし、ここまでいい武器ならば相当の業物になる可能性がある。



「はい」



「…わかった」



ギュッと抱きしめそして自分腰に装備しそしてリンは何故か凄く凛々しく感じるがアルシェの方はちょっとニヤっとしていた。





しかしあれだなぁ二層を超えたとしてもこっからは俺が動いていかないとダメかもしれないな。3層から比べ物にならないほど敵が強い。伍式ミノタウロスが雑魚に見えるくらいの危険な魔物がわらわらと現れているみたいだ。






「これは凄いな…このダンジョンの難易度が数倍に跳ね上がったぞ」



そこにはシャドウイーターと呼ばれる一体で街を崩壊させるような影を喰らう魔物やポイズンフロッグの上位種が生息しておりポイズンフロッグの上位種に至ってはその毒の粘液に触れると全身に毒が回るまでに10分わからない。それほどまでに毒の周りが早く場所にとっては即死する危険性もある。



更にアダマンマンティスと呼ばれるものもいた。甲殻はアダマンタイトで出来ておりミスリルの武器でも切り裂くことが出来ないカマキリでその鋭利な鎌によって丈夫な鎧ごと斬られてしまう。






そんな面倒な魔物がいるところを超えていかないといけない…だが経験やレベル的にもリン達はこれから下は進むことが出来なくなるだろう。


ましてや装備もハードコートぐらいでは布切れ1枚と変わりない。一体一体蹴散らしていくのもありなんだが三人を守る事が可能かどうか分からない以上ちょっとチートを使うしかないもしれない。



使っちゃいけないとか誰も言ってないし俺的には好きなスキルだからバンバン使っていきたいんだけど効果が広かったり強すぎたりするから一応最低限のところでしか使わなかったんだが、アースガルドという別世界なんだから自重しなくてもいいかな。




「…勅令[圧殺]」



俺のスキルによってダンジョン全体が揺れるような違和感がリンたちを襲う。まるで地震のような揺れが一瞬だけ起こるがその時には俺達以外の魔物は綺麗に潰され、メダルになっていた。



指揮系統外スキル。勅令


司令官や軍隊長などが会得していると言われる指揮系統スキルはその軍の規模によって様々な恩恵を与えるというものでレベルが高いものはそれほど高い指揮を使い自軍を強化させることが出来る。



そしてリックが持つ指揮系統外スキルというのはみんなに恩恵を与えるものではなく、恐怖や畏怖といった恐れを使ったスキルでこれにより絶対的な決定権を持つスキルである。そしてその最上位に位置するのが勅令。


人の意思や意見を全て破棄し自身の意見を通すゴリ押しの命令。これによりリックは圧殺という名でこの三階層の存在に強制的な命令を下した。



ただしこれには条件があり相手が恐怖や格下でないとその命令が発動できないということだ。そして敵味方関係なくその勅令による命令は実行されてしまうため味方にも被害がある。




「何!?リック…?」



「ふぅ久々に勅令を使ったけどやっぱりチートだよな」


ヒルダは俺のところを見ながらポカンと口を開けていた。そして徐々に赤面していく…リンとアルシェも同じような感じで目を合わせようとしない。



「どうした?」



「あの…リック様。カッコよすぎるというのもまた…困るのでその服は脱いでもらえないでしょうか」



「…素敵…ぽっ」



「何でそんなに似合う服をもってるのよ!!てかいつの間に着替えたの!」



勅令が久しぶりだから忘れていた…この勅令を使うと自動的にある軍服に着替えてしまうのである。そしてその服がドイツの黒い軍服で片方の肩にマントがついているいかにもカッコいい服である。



「リン達がそこまで喜んでいるようならこの服で過ごそうかな」



ドイツ軍服は正直俺も好きである。カッコイイししかも一応防御力や動きを阻害することがないため基本的な性能では市販のものの3倍くらいは性能が高い。



「リック…それはやめて欲しいわ。あんたただでさえいい顔をしてるんだから普通にしててもモテるのよ。強過ぎるってのが逆に近寄りにくい事になってるけどそれでも女子の間では人気者なのよ。まるで白馬に乗った貴公子みたいだとか物語に登場するイケメン騎士であったりね?」




そしてヒルダは女子達に人気の逆の意味もあることを知っていた。そう、それはリック程のイケメンが男盗賊の辱めを受け屈辱に歪んだその表情がたまらない…そうこちらの世界でもやっぱり存在するのである。



腐女子というものが。





「おい…凄い寒気がしたんだが」


「風邪ですか?」


「…気をつける」




「だからリックは普段着で生活してね。まあこのダンジョンが攻略し終わったらその服を着ることになるでしょうけど…」




ヒルダが最後に呟いた言葉を理解するのはダンジョンを攻略し終わってからであった。




それからリックのもはや蹂躙とすらいえないような一方的な破壊の一撃によって魔物は粉砕されていく。









現在12階層に到達し幸いここの階層で最後のようで11階層を降り扉を開けたら一本道に扉があるだけとなっており恐らくダンジョンのボスが待ち構えているということだろう。


10階層をおよそ1時間で駆け抜けたのは紛れもないリックのお陰であるがもちろん既に諦めの境地に達しているヒルダは何も言わないし、リンとアルシェはリックの事を褒めているためさらに暴走し始めている気がしてヒルダは頭痛がしてきた。




それでも彼のおかげで普通ならば全滅するような危険な状態であっても助かっていたし、これほどまでに安心出来るダンジョン攻略でヒルダはリックに対する好感度をさらに上げていたのだが自身は気が付いていない。



ましてめっちゃ料理が上手いリックなしではもはやダンジョン攻略など出来るはずがない。



安心、安全、料理がうまい…ダンジョンにおいて絶対に欠如することになる三つをリックがいるだけでこなせているのだからヒルダがこの生活から抜け出すことが出来なくなるのはわかるだろう。



戦争地帯で飯を食えっていわれても正直食べられないのではないだろうか?しかも見通しの悪くどこから敵が狙っているのかわからない中で何日も生活を余儀なくされる。そして飯も美味しくない。ストレスとなる原因というか人間の三大欲求の睡眠と食事がまともに出来ない中、美味しい料理の出てくる部屋があるとする。どんな攻撃でも防ぐことが出来て侵入者もこれないような空間があったらもうそこに入ったら最後外に出たくなくなるだろう。




つまりヒルダは完全にこのパーティーから抜けたいというような意思はない。いやここのパーティー以外の所に入るくらいなら死んだ方がマシという可能性も出てくる。






「美味しぃ〜」



十二階層のボス部屋手前で現在お肉を焼きながらご飯を食べている最中である。魔法によって生み出された火によって中までしっかり焼かれた美味しい肉は口の中でとろけるようにしてその味を楽しませてくれる。



リンとアルシェ、ヒルダとドリアードも肉を食べながら至福の時を楽しんでいた。クーネについては問題ないらしく俺の魔力を食べているから食事は必要ないらしい。そして俺の魔力はとても美味しいらしくいくら食べても減らなくて食い放題で最高ということだ。




そして扉を挟んだボスの部屋ではリック達が焼いているジューシーな肉の香りが漂ってくるのだが、扉が一向に開くことなくその匂いを堪能するしかないという拷問を受けているオーガは悲痛な叫び声を上げていた。



いくら扉を叩いてもそこが開くことが無いし、この匂いが腹の虫を鳴らせ今にもその肉にかぶりつきたいのだが目の前は無情にも何の反応も示すことのない無機質な扉である。










「さて、デザートはティラミスな。ちょっと苦いかもしれないけど美味しいぞ」




まあ本物の職人が作るようなティラミスではなく俺の知っている店の人に教えてもらった作り方をこちら側で可能な限り再現してみただけだが思った以上に困難した。まず苦味を出すのが大変だった。ティラミスのほろ苦いという感じを出すまでに結構食材を探した。




「うわぁ…美味しいですー」



「…さすが」



リンとアルシェにも食べさせてみたけどお口にあって何よりだな。味覚が敏感なリンにとっては苦いものは厳しいかもしれなかったけど問題は無いみたいだ。



「す、凄いわ!リック!!このレシピを私に教えてくれないかしら!」



ヒルダは俺の目の前まで顔を寄せて興奮していた。それほどまでに美味しかったのだろうか?…いや、そもそもこちらの世界でこういったデザートとの類を見ていなかったな。もしかしたら存在していてもそういったレシピを持っている職人が公開していないのか。自身だけが作れるからこそ多額のお金が手に入るし…まあそうすれば独占し放題だもんな。



ヒルダが興奮するのもわかる。普通王様の関係者しか食べられないような美味しいそれこそこんな贅沢なものを食べてしまえばどうやってもそのレシピを知りたくなるものだ。



「また後でな。今は味わって食っておけ」




正直料理についてはこちらの世界の方が楽っちゃ楽だ。まず熱の管理などがほとんど必要ないし、凍らせたり温度を冷やしたりするのも自由自在でパパッとできる。


しかも俺のアイテムボックスに入れておけば賞味期限とかないから好きな時にその食材を使うことが出来る。









「美味かったな。さてと…そろそろ最後の敵を潰しますか」




調理器具や机や椅子などを片付けてポキッポキッと指を鳴らし軽く体を動かしていく。体の底から体が温まっていくのがわかり次第に動きも良くなっていった。



「何だか可哀想だな。こうも簡単にクリアされて」



「宝箱も残らずかっさらっていくしな」



ヒルダの皮肉を俺は笑って返した。









重々しい扉が開くと目の前には4mの大きな赤いオーガが涎を垂れ流しながら俺らを睨みつけていた。



何故か悲しくなるような悲痛な叫びであったがそれがリックに届くこともなくリックの斧の一撃によって屠られた。




実はオーガの中でもさらに凶悪なブラストオーガキングと呼ばれる超危険魔物であり、その叫びを聞くと恐怖にショック死する可能性もありえるという。


俺と同じ大斧を使う敵であるため楽しめると思ったリックだが残念なことに斧の振るスピードにおいてもその人間ならざる人の動きに追いつかなかったブラストオーガキングは斧を振るうこともなく倒されることになった。



「宝箱開けて帰りますか」



最終のボスだから宝箱も二つ用意されていた。一方はブラストオーガキングのものでありもう一方はダンジョンクリア報酬である。一番最初のクリアのパーティーのみがこれを開くことが出来てボスの宝箱よりもかなり高価なものが入っている。




まず、ボスの方から開くと中身は面白い特性のついた武器と10,000リルとメダルである。ハズレだな。



普通ならもっといいものが出るはずなんだが…ちょっと微妙すぎる。



特性のついた武器とはブロードソードであり、その特性が破損することが無いというものと、手加減というスキルがついたブロードソードである。



練習用の武器であると同時に俺でもしっかりと使えるようないいスキルを付与されていてオレのものにすると決めた。






さて、お次はダンジョン報酬だ。




ボスの宝箱と違って白銀の宝箱になっておりゆっくりと開くとプシューという機械音と共にその重い蓋が開かれる。




「コイツは…」


「まさか…こんな所でお目にかかるなんて」



「綺麗です」


「…」



まずその目線を釘付けにした代物は虹魔石である。その名の通り虹色の光を放つ魔石であり宝箱で入っている確率はごく僅かであり国宝級の超レア物であり商人に売りつけることが出来ずこれを持っていれば王宮に招待されそこで王様直々に買取を申し出るほどの1品。


虹魔石はその他の魔石と大きく違うのはその色とその効果を爆発的に増加させるというものであり、主に飛空艇の動力に使われるものである。


値段にしてみると数百万を軽く超え必要な場合にとっては一億とかの値段になる。


そう、ダンジョンの宝箱の中でこれをみつけてしまえばもう一生いや数世代にわたって自由に暮らせるレベルである。




続いて大鎌である。その青く透き通るような鋭利な刃に銀色の装飾が施され、威圧感よりも神々しさを感じさせる物だ。つまりヒルダのための武器だな。そしてよくよく見てみるとその銀の部分は普通の銀で作られたものではなく神銀とよばれる銀の中でもさらに純度の高くドラゴンの炎をもってしても決して溶けることのない銀で作られていた。


神銀についてはどういったもので加工されたのか分からずこれが市場に出回ることはなく大抵貴族やそういった者達のコレクションの一部となるが武器として作られている以上飾られるより振るってらった方が武器としてもありがたいだろう。




後は20万リルと様々なメダルであった。




大収穫となり、ダンジョンクリアされて開かれた転移門を潜り地上に帰還した。久しぶりとなる新鮮な空気に思わず深呼吸をする。



ナターシャ先生の弟子である人も俺らが帰ってきたということが分かると野営のものを片付けし始めていた。どうやらもう少しかかると思っていた矢先に帰ってきたものだから支度をしていなかったのだろう。




さてと全12層のダンジョンをクリアした報酬はこうだ。



(自分たちが貰った分を除く)

武器

特性付きの剣×3

装飾付きの小剣×2

特性付きの槍×2

破損した大斧×1

ミスリルの剣×1

ミスリルの杖×2

ハズレ武器×12


防具

ミスリル防具×1

特性付きの篭手×2

特性付きの胸当て×4

銀で作られた胸当て×1

特性付きの盾×5

特性付きタワーシールド×1

ハズレ防具×10



道具

ポーション類×43

食材関係×30

テント×1

調理器具×3



鉱石


鉄鉱×103

銀鉱×10

金鉱×15

ミスリル鉱×5

アダマンタイト鉱石×1



お金

15万リル(ボス宝箱を除いた額)









それから馬車に揺られ、学院に帰還するとナターシャに呼ばれた。報酬の件とダンジョンクリアの賞賛でもくれるのであろう。



「まずはダンジョンクリアおめでとう…かなり早かったみたいだけど見込み通りいい動きをしてくれてありがとうね。さて、さっさと報酬の事を済ませちゃいましょ?これからもう1件行くところがあるんでしょ?」



「ん?もう1件?」




「あら、ヒルダ話してなかったの?」



「はい。リックにはこの後話そうと思っていたので」



ナターシャに約束の報酬を渡しながらヒルダの話を聞く。







「えっと…リック、リンちゃん、アルシェちゃん。黙っててごめんなさい。私の正式名はヒルダ・オルネシアン・リーリル・オルタこの王都オルタの国王オーガスト・オルネシアン・リーリル・オルタの一人娘。王族なの…それで、父上がリックの噂を嗅ぎつけてね。私に直々に手紙を送ってきて招待しろって…しかもわざわざ自分の血を使ったものを…王様が自らの血を使って渡した手紙はすなわち王令であり拒否権というものを存在しない。絶対なものなの。だからリック…来てもらえる?本当に行きたくないなら私がなんとかするから……」




ヒルダは泣きそうな顔をしながら打ち明けるがリンとアルシェは驚いていたが俺は別に動じることなくただ話を聞いていた。いや、ヒルダが王族であることは確かに驚いたけどいずれこうなる事は予想できていたから問題は無いわけだし、ヒルダとキャッキャウフフした時に見えたあの刻印が何よりの証拠である。まさかこの国の国王の娘だとは思わなかったけどね。



町の鍛冶屋というのは嘘であり、そして何より異界の技術を開発できる資金力やオートマタなどにおける技術の数々を生み出すにはそれ相応のもの技術者を抱え込むことが必要だろう。


俺が侵入した時に話したことはまだしっかりと信用されていないしなおかつ自分の存在が知られてはならない為であったのだろうな。




隠し事があった方が女性は美しいという




だから怒らないししっかりと話してくれただけでも嬉しかった。




「別にいいよヒルダ、いずれにせよヒルダのお父上には御挨拶に行かないと思っていたし…」


俺の言葉の意味が分かったのかヒルダの泣き顔はみるみる恥じらう乙女の顔に変わっていく。まあ、そりゃそうだヒルダからしてみれば恋する男があいさつに出向くということはつまり婚約について話すとかそういったことになる。


ヒルダは既に結婚できるような年齢であり婚約については年齢が定められておらずそれこそ幼児と約束し将来が縛られてしまう者もいる。その中でヒルダの父上はその全てを拒否して娘の自由な恋を応援するという心優しき父上であったが、それ以上に娘を誰かに渡したくないという気持ちがあったのではないだろうか?





「ナターシャ先生に聞きたいんだが俺は礼儀作法とか詳しくないんだが無礼に値して処罰とかって大丈夫なのかな?」




「問題ないわよ?あなたができる限りの礼儀作法を尽くしてくれれば向こうはそれを見てくれるし、それ以上にヒルダという大切な娘が連れてきた男だからどんな無礼を働いたとしても文句は言われないでしょうね」




「なるほどねぇ…なら問題ないかな」




一番気になったことが解決したので俺はリンとアルシェに着せる服について考え始めた。リンについては獣人という面を表に出すから尻尾や耳を隠すことなく、それでいて可愛らしさを引き出せるようなドレスがいいな…コルセットについてはリンとアルシェ共に腰が細いからそのままでも問題ないだろ。



アルシェはその無表情のクールさがいいから黒いゴシックで行きたい。いやもうゴスロリ服でいいだろう。お人形さんみたいでめっちゃ可愛いと思う。うん決定




「ヒルダ、時間的には余裕があるのか?」


「え、えっとそうね…あと2時間くらいは問題ないわよ?」



「ちょっと手伝ってくれ。リンとアルシェをおめかししてやる」


リンは驚いたように目を見開いて尻尾をピン!と立たせた後ふるふると震える。


「えぇー私は大丈夫ですよ…奴隷という身分なんですし王宮に入ることを許されていません。ですのでお2人で」



「ヒルダ、呼ばれているのは俺とリン、アルシェだよな?」


「もちろんよ?リックの大切な人達ですもの招待しないといけないわ」




ヒルダもどうやら乗ってきたようでアルシェの元に近付きながら手をわきわきとさせながらゆっくりとアルシェの退路を塞いでいく。



「…たす…けて」



「アルシェちゃん!」





ヒルダに捕まったアルシェと俺が既に衣装やおめかしの道具を揃えているうちに2人は動かなくなってしまった。リンの顔はやっぱりモチモチしているし通常の状態でも可愛いのでお化粧といってもほとんど必要ない。ちょっとのせてあげるだけでさらに可愛らしさに磨きがかかる。



「アルシェちゃんかわいい」



ヒルダも自前のお化粧道具を使ってアルシェのお化粧をしているのだがヒルダは腕がいい。アルシェのクールさを分かっていてそれを引き出してくれるがその中にも人間らしい表情を見せるアルシェの可愛らしさを表現していた。


リンのサラサラした髪の毛を優しく梳かしつつ微量の魔力を込めながら髪の毛の一本一本の艶を出していくそしてその猫耳の辺りにリンに似合うヘアピンを付けてあげてあとはドレスのみだ。




2人のメイクに翻弄されるアルシェとリンだがその表情はどことなく楽しそうであった。女の子だからお化粧は大事である。確かにお化粧をしない方がいいという人もいるかもしれないがそれは間違いである。女の子に生まれたい以上は彼に気に入ってもらえるようにおめかしするのは当然のことであり綺麗に見せたいというのは女性の本能といえる。



厚すぎる化粧は逆効果なのだ。なので薄くそれこそよく顔を近づけて見ないとわからないような薄化粧で女性は大きく変わる。




そして俺がなぜ化粧道具を持っていたりメイクを出来たりするのかというと恥ずかしい話だが俺の昔の彼女に化粧をして上げたところめちゃくちゃ気に入ってもらってしまいそれから数年間彼女の化粧をして上げたのだ。そのため腕が上がったし化粧道具も取り揃えるようになりエルダーワールドにおいてもそういったものを集めていた。





25分くらいで、完成したが女でも惚れるような可愛らしい2人の妖精がその場に現れた時は思わずふたりを抱きしめてしまう。それほどまでに可愛く愛らしい。




「リック様痛いです」


「…うざ」




「すまんすまん。さてと、俺も準備を済ませるか」



ダンジョンで出したあのドイツ軍服に軍刀をつけた完全装備だがそれ以上に威圧感を与えながらも人々の視線を寄せ付けるようなそんなリックの早着替えによってうまれた。




流石にナターシャにもこれは効いたみたいで短時間ではあるがその動きを止めていた。それほどまでにリックの軍服姿は様になっていたのだ。もはやどっかの国の王子とも名乗ってもおかしくないくらいに気品溢れる姿でもしかしたら王様よりも上の立場の人間ではないかと見間違う。




「さてと…御挨拶しますかね」



「ねぇリックちょっと緊張してる?」



「うるせぇ…」




ほんと地味にドキドキしてるよ…。うんだって一応本物の王様の前で娘さんをくださいと言わないといけないから…















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「こんにちは、リンです!」


「ふふこんにちはヒルダです」


「アルシェ…です」



「えー今回は3人で司会をしていきたいと思います。まず今回のタイトルでもあるリック様の特殊スキルである勅令!目の前で見た時には驚きでしたがあの原理について解説をお願いします」



「えーとリックによるとあの勅令は様々な命令を下すことが出来て、今回使った[圧殺]という重力に命令を下し全てを押しつぶすものから知性なき魔物などすら自分の配下にすることが出来る[絶対奴隷]、同士討ちを誘発させる[洗脳]、死ぬことを命令する[自害]といった強力かつ絶対的な力が勅令には含まれていて、リックの勅令においてはほぼノータイムノーリスクで発動可能らしいですね。

リックが今回行った重力命令である[圧殺]は空間すべてに作用させることがなかったです。この事については事前にダンジョンの内部すべてにアクティブソナーというものを打ち込み魔物の位置を特定したうえでその魔物の場所に対して重力を重くし圧殺したということです。

アクティブソナーって何なのかしら?」




「…アクティブソナー…超音波を使う…その音波が跳ね返ったらそこに敵いる…やまびこと同じ原理」



「アルシェちゃん凄いですね」



「…お兄ちゃん…これ読めって」




「リック…わざわざ私の台本には何も書いてないくせにアルシェには説明してあると…なんだか全てを操られてる気がしてならないわね」




「お兄ちゃん…ヒルダ単純チョロインだから問題ない…って」



「ひどいわね!誰が単純よ!!これでも王族なのよ」



「ヒルダ…王族驚いた」


「私も驚きました!お姫様だったなんて私達失礼なことしちゃって…大丈夫なんでしょうか…処罰とかされるのかな」




「ああ、二人とも大丈夫よ!私が黙ってたんだしそんなに畏まらなくなって…リックを見習って。王族って話をしても何も感じてないみたいでさらにその……プロポーズみたいな事…言い出すし…なんなのよもう…」



「ヒルダさん!ずるいです!わたし負けませんよ」


「お兄ちゃんは渡さない…」




「「ぐぬぬぬ…」」

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