第32話 電脳空間(授業2)

 疑問が更に一つ出てきた。

「ねぇヒミコ。そもそもミーム帝国が全方位戦争を仕掛けてるのはなんでなんだ? ファンタジーだと大概は魔王だとか悪に染まった支配者が善なる人間に対して戦争を仕掛けてるけど、今までの話を聞くと、戦争の一番の原因になり得る宗教ではないし、領土紛争でもなさそうだ。資源もこの規模なら通商で手に入れたほうが安上がりだろうし、それなら相手は一国でいい。国のシステムとして奴隷制があると言っても、他国に強要しているわけではないし、ミーム帝国の人間種には悪いけど、むしろ国としての体制は一番進んでいるようだし、全方位戦争する意味が分からないんだけど」

 アルラのお父さんとのゲームがあったからではないけれど、侵略が目的なら戦略的にはそれこそどこか一国をまず攻め滅ぼせばいい。戦力を分散させる意味がない。ミーム帝国以外の国の結束が逆に不思議でもある。全部種族が違うのに、本当にファンタジーの善の軍勢のような結束だ。

 ヒミコは頷くと、答を返した。

「では、生物の授業といきましょう」


「ミーム帝国は歪な社会システムの多種族国家です。共通の価値観は強さしかありません。どの種族であろうと強ければヒエラルキーの上へと進みます。なので個として見た時に最弱の人間は種族カーストの最底辺で奴隷とされます。ミーム帝国で中核を占める種族はオークとゴブリンです。この二種族で全人口の七割を占めます。

 ではタケル、ここで問題です。個として最弱の種族である人間が、他種族よりも強力な国家を形成できているのは何故でしょう?」


 ふむ、ホモサピエンスが他の動物に負けなかった理由は、言語が使用できて複雑な意志疎通が可能だったこと、道具と火の使用ができたこと、体が小さいため環境変化への対応が容易だったこと、だったっけ?

 でもそれを言うならエルフだっておそらくドワーフだって、オークやゴブリンだって当て嵌まる。

 タケルが悩んでいるとヒミコがヒントを出してきた。

「人間よりエルフの方が長寿で魔法の適性もあり知覚能力も優れています。オークの方が肉体能力で勝り、ゴブリンの方が種の多様性に富んでいます。ですが人間はこれらの種族の中で最も繁栄しています。それは人間が人型種族ヒューマノイドの中で何にでも転用の利く圧倒的な強みを持っているからです」

 余計分からなくなったが、最後のヒミコの言葉を頼りに、自信なさ気に答える。


「数……かな?」


 ヒミコが出来の悪い生徒に対して賞賛の笑みで応える。

「その通りです。人間が最も繁殖率が高いのです。寿命が長い事は必ずしも有利に働く訳ではありません。世代交代が早いという事はその分、適応能力に長けている種族ということです。そして、生物としてのバランスを取るためでしょう、寿命の長い種族ほど出生数が少ないようです。ドラゴンが人間並みに種族を増やせばあっという間に世界を支配するでしょうが、それは彼らの食糧危機を招くという事でもあります。ドラゴンの縄張り意識が強いのもそのためでしょう。

 人間はそれを農業技術と医療技術で克服して数を増やしているのです。大局的に見れば、物量に勝る戦略はありません」

「それは分かったけど、僕の最初の疑問は深まるばかりなんだけど。ならなんでミーム帝国はその最強である人間国家と戦争してるんだ? しかも他の国と同時に?」

 そもそもそれは社会の授業じゃないのか? 何故に生物なんだ?


「サーベルタイガーは長すぎる牙ゆえに滅んだ、という言葉を聞いたことはありませんか?」

 ヒミコは話の流れを無視して言った。

「ああ、あるよ。最強の捕食者だったんだよな。絶滅の理由がそれだっけ?」

 絶滅した種の中でカッコよさで言えばトップクラスだろ。猛獣として独特のフォルムにカッコよすぎるネーミング、その上、最強ゆえに滅ぶとか、滅び方まで含めて厨二心をくすぐるものがある。

「その言葉自体は間違った学説だったんですけど……」

 サラリとハシゴを外された。

 タケルは頬杖ついていた腕から勢いよく頭を落とす。

「え! なに? ウソなのアレ?」

「最強を求めて武器である牙を長くした結果、獲物を殺す事ができても、内臓や血しか食べれなくなって滅んだ、という学説が一時期あったんですが否定されました。その説の対象になったサーベルタイガーはマカイロドゥスという種ですが、それよりも大きく長い牙を持つスミロドン種がアメリカ大陸では100万年以上繁栄しています。そもそも牙が長くて滅んだんなら何万年も最強の座に居れる訳ないでしょう」

 そんな事実知りたくなかった。じゃあさっきの質問は何なんだよ。ひっかけか?

「ただ、今その否定された事が起きようとしている、という話です。タケル、男尊女卑と言いますが、何故こんな言葉があるのでしょう?」

「それは単純に男の方が肉体的に強いからだろう。最終的に暴力に訴えれば男が勝つ。だから男の方が有利な社会を作る。その結果、男が尊ばれ、相対的に女が卑しくなる」

「ですが、女性の方が平均寿命が長いのをご存知ですか?」

「知ってる。女性の方が免疫や抵抗力、痛みへの耐性が強いって聞くね」

「その理由は性染色体の数の違いです。女性はX染色体2つですが男性はXとY染色体1つずつです。そしてこのX染色体はY染色体の約15倍の情報量を持ち、免疫など生命活動に必要な遺伝子情報は全てX染色体に入っています。女性はXを2つ持っていますので、片方が欠損していても、もう片方が正常なら問題ありません。ただ、両方とも使ってしまうと問題が起きる場合も多いので、片方を不活性化させます。一方男性は、このXが1つしかないため、もしこの唯一のXに欠損や変異があってもそのXを使わざるを得ません。これが男性が女性より病気などに弱い理由です。ではタケル、Y染色体に欠損のない完璧なX染色体を取り込むことができれば、男の肉体能力と女の免疫抵抗力のいいとこ取りができて最強の人類が生まれるのではないですかね?」

「なんだその『ぼくのかんがえたさいきょうじんるい』みたいな短絡思考は。なにかしら問題が出るだろ」

「その問題がミーム帝国の全方位侵略です」


「先日のオークとゴブリンの死体を隔離病棟の研究機器を使って遺伝子レベルまで調べました。その結果、彼らオークとゴブリンはどちらもこのY染色体がX染色体よりも大きくなっている、というよりX染色体と合体してしまっていました」

「もしかしてその問題があの知能の低下なのか?」

「その可能性もありますが、問題は別です。彼らはつまりXとXYの染色体で構成されています。そのためXが2つあるということで、常にX染色体が不活性化しています。XY染色体が常に優位になるためです。さてタケル、子供がどうやってできるか知っていますか?」


 ワザとだ。絶対ワザとだ。だが弱みがあるからツッコめない。耐えるしかない。


「ああ、失礼。タケルは三十路前にして大魔法使いでしたね。知識はあっても経験がないことは知っていますよ。ですがそういう話ではなくて生物学的な話です。メンデルの法則はご存知ですよね。通常子供は親から染色体を1つずつ受け継ぎ2つ揃って初めて生物として誕生できます。この時、母親からはXを父親からはXかYをもらい、Yが1つでもあれば男になります。ですが、オークとゴブリンは常にX染色体は不活性化させられています。ゆえに、Xを受け継いだ場合は生物として誕生できません。ということは……」

「ま、まさか……オークとゴブリンは……男しかいないのか?」

「その通りです。だからこそ彼らは種族を存続させるために、染色体数が23対で交配可能な人間型種族の女性を必要として、奴隷狩りに勤しむのです。彼らは侵略をしようとしているのではありません。国境から近い住民を攫っていった結果として領土が広がっていっているのです。これが全方位で戦争が起こっている理由です。ミーム帝国と他の国は奴隷を認めない限り共存不可能なのです」

「だけど、そんなことを続けて、全土を支配したら、それこそ滅びてしまうじゃないか」

「そうです。個体としての強靭な肉体を求めた結果、進化の袋小路に入り込んでしまったのです。『長すぎる牙ゆえに滅ぶ』わけです。ですから、ミーム帝国が無能でなければ全土を掌握するころになったら、管理体制に切り替える予定でしょうね。人間牧場を作って人型種族を奴隷にした人口調整とオークやゴブリンを国民とした出生管理に。今は戦争ですから数は増えるに越したことはありません。産めよ増やせよで自由にさせているでしょう」

「それは……共存不可能だな」

 できるわけがない。宗教なんか関係なくても十字軍を送り込むレベルだ。リンカーンでなくても奴隷解放のために戦争を起こすだろう。戦争してるのも納得だ。しかし今日は吐きそうになるほど胸糞の悪い話ばかりだ。やはり現実なんてクソゲーなんだ。引篭もりサイコーなのかもしれない。


「そんな生物が存在してるなんて、やはり放射能が原因なのか?」

 タケルの質問に、ヒミコは目をぱちくりさせてキョトンとする。

「タケルはホントに日本人ですね。放射能信仰とでも言うのでしょうか。幼少期からゴジラなどを見ていればそう思うのかもしれませんが、放射能はそんなに都合のいいものではありませんよ」

「なんだよ、ゴジラかっこいいだろ」

「別にそこは否定していません。そもそもゴジラ自体はビキニ沖でのアメリカの……」

「ゴメン、自分から脱線させておいて悪いけど、ゴジラ談義はまたにしよう」

 それにホントはガメラ派だったりするんだ。

 ヒミコは何事もなかったかのように本筋に戻った。

「可能性を論じるだけなら、放射能によって異常が生じてあのような生物が自然発生するということは、数学上ゼロと言い切る事が出来ないだけで、統計学上はゼロと判断し得る確率ですよ。そもそも自然発生だったらあんな数になるまで放っておかないでしょう」

「豚は数が多いんだから、知らないうちにオークになって野生で増えてたとか……」

「はぁ、何を聞いていたんですか。オークもゴブリンも生殖の為に人間を攫っているんですよ。染色体数が同じで繁殖できるということは、どちらも元は人間です。ある日隣の子供が突然変異で緑色で産まれてきたり、豚の頭で産まれてきたら、それを放っておく人間がいますか?

 あれだけの数になるまで存続できているという事は、意図的に産み出されていることは間違いありません。誰が、いつ、何の目的で、どのようにしてかは分かりませんが。

 ついでに言っておくと、自然発生的に知的生命体が発生する確率もありえません。中立進化説と分子生物学で立証されています。そのぐらい人間の存在は奇跡的なものなのです。それが突然ぼこぼこと湧き出したりしません。エルフはアルラの兄を治療した時にサンプルを採取して証明されていますが、おそらく他の種族も全て人間をベースに変化した種族でしょう」


「ということは、この世界は誰かが盛大な遺伝子変異実験をした結果ということ?」

「誰か、なのか、何か、なのかは分かりませんが、その可能性は高いと思われます」

 一体何を考えてこんなカオスな世界にしたのか。誰が何を考えてやったのかは、調べたくなった。どうすれば分かるのか……。やはり遺跡を巡って資料を調べていくしかないか。とすれば、やっぱ東京だよなぁ。最後まで残っていたのは東京っぽいし。

「ですから、安心して下さい。アルラとの間で子作りは可能です」

 ヒミコはタケルの悩む姿をどう勘違いしたのか、意味不明の励まし方をしてきた。


「やっぱり東京に行ってみるしかないか」

 タケルは思いを口に出す。

「調査の最終目的地はどうしてもそこになるでしょうね。ですが、東京はミーム帝国の帝都です。現実的に無理でしょう。ですが、時間をかければ、それだけ旧世界の遺物や遺跡が破壊される可能性もあります。ミーム帝国はどちらにせよ共存不可能な存在ですから、人類側の勝利による早期の帝国滅亡が望ましいですね。まずは別の国を先に巡って、情報を集めませんか? あと、戦争の早期終結の為にも傭兵団を組織することを提案します」

「ふーむ、そうだな。先に各国を回って情報収集といくか。東京でなくても決定的な情報が手に入るかもしれないしな。ミーム帝国で虐げられている人も助けてあげたいし、ミクリを解放できればグレイヴの気も少しは楽になるだろうからな。上に立つのは性分じゃないけど傭兵団の件は考えておくよ」

「傭兵団設立の時は組織運営は気にせず任せてもらっていいですよ。計算は得意ですから」

「そりゃ衛星の軌道計算なんかに比べりゃ、経理なんかは算数レベルだろうな。その時は任せるよ」

「はい、頼りにして下さい。ではその時の事も念頭に入れて、現在の技術レベルを検証しましょう」

 技術の授業が始まった。


「技術レベルは日本での江戸時代あたりです。ただ、分野によってバラつきがあるので全てが同じというわけではないですが、全体的には高い文化レベルです。最新技術としては蒸気機関が開発されつつあるようです。電気の技術はまだないようです。紙は和紙がメインですが大量に作られ書物の生産は多いようで、識字率が高い事が窺えます」

「江戸時代も広いけど前に産業革命前って言ってたから18世紀あたりと考えていいのかな。なら火薬はもうあるわけだよね?」

「はい。初期の黒色火薬ですが量産されています。戦争は従来の歩兵、騎兵、弓兵に銃兵、砲兵を加えた五兵科の運用で行われています。ですがこれはあくまで人間側の分類です。主敵であるミーム帝国は、戦闘に出てくる種族によって変わるので分類はされていません」

「戦争としては日本だと幕末あたり、西洋だとナポレオン以前といった解釈でいいのかな?」

「概ね間違いではありません。この世界ではそれに魔法という要素が加わりますが。魔法技術についての解説に移ってもよろしいですか?」

「その前に、質問。火薬がすでにあるなら、ここの大砲とか使えるようになるの?」

「その答はノーです。現在ある火器はマスケット銃と鉄製の弾を打ち出す先込め式の重砲です。弾丸をカートリッジにするという技術的ブレイクスルーまで至っていませんし、冶金レベルも、発射機に可動部分を作ると圧力が逃げて威力が減衰してしまうという問題を克服できないレベルです。近年中に克服されるとは思いますが、22世紀の火器に使用できるだけの精密工作機械を作るには至らないでしょう」

「近年中に克服されるってどうして分かるんだ?」

「国語の授業でも言いましたが、彼らには遺跡から発掘した資料があります。全く新しい物を作り出すのは難しいですが、既に具体的イメージや完成予想図があるものを再現するのであれば、実際の歴史ほどの時間はかからないでしょう。日本人はそういうのは得意ですから。ただし、鎧の例を挙げるまでもなく、資料によっては不思議な銃器が出来上がる可能性もないではありませんが」

 銃なら多分大丈夫だろ。タケルはそう思ったが根拠のない考えではなかった。ここ2日、銃の練習をして思ったことだが、鉄の塊を振り回す近接武器であれば、その形がどうであろうと、個人の好みのレベルで収まる。結局必要なのは、産み出す衝撃や斬撃をどう効率よく相手に伝えるかだけなのだから。だが銃器は違う。全て理詰めで考えて設計され淘汰されてきている。無駄を削ぎ落としたベストの形が既に現実としてある。無駄なものを後付けすれば命中精度は落ちるし、重くなれば運用も効率悪くなる。なにより疲れる。そこにマンガや空想の入り込む余地はない、と思っている。

 だがそれでも一抹の不安は残るのだった。


「魔法の技術ですが、広まったのはここ7~80年の間です」

「意外に新技術なんだな」

「過去からあるにはありましたが、その技術は宗教系の組織が門外不出で独占していました。宗教では魔法を神の力とか奇跡とか呼んでいましたが、結局は同じ力です。

 神殿は積極的に不思議な力を発動させる子供の噂があると、その子供を神殿に召し上げました。両親に飴と鞭の両方を使って子供を連れてくると、子供に宗教の英才教育を施します。一種の洗脳ですね。そして神の力で奇跡を起こす神官の育成を行ってきたわけです。

 しかし、神殿の目を逃れて、もしくは大人になってから魔法の力を発現した者は、魔女、悪魔憑きとして神殿の敵となります。彼ら彼女らは、山野や街に潜み、密かに自分の力を研究します。それが今の魔法の源流です。

 先々代の王の時、政治的に神殿と王や貴族が対立した時期がありました。その時に王が潜んでいた魔女たちに王の庇護下に入れば罪を問わないと布告を出し、神殿を快く思わない魔法使いたちを集めたのです。簡単には集まりませんでしたが、王が積極的に素養のある子供たちを神殿よりも先に保護しはじめた事で、過去の自分たちを新たに作るまいと思った魔女たちが集まり始めました。それからは魔女が積極的に動いたため、神殿に先んじて魔法使いたちが子供たちを保護しました。

 そうして集めた子供たちに、その力を制御し伸ばす方法を、魔法使いや魔女たちが教える場が王立魔法学院となり、魔術が学術として体系化されていきました。

 現在は神殿と王側は和睦し、素養を持つ子供の奪い合いはなくなっています。子供と親の自由意志で、神殿と学院のどちらの門も叩けるようになっています。また学院のおかげで大きな発見もありました。魔法は素養がなくても勉強をすることで使えるようになる者もいるという事です。神殿が認めたことで魔法への忌避感がなくなり、魔法を使える者の人口は増大しつつあります。

 これがウェルバサル王国の魔法の技術発展に大きく貢献した背景です。

 ツクシ鎮西国では宗教イコール思想のような感覚ですので、そこまで忌避感なく広まっていますが、逆に宗派が多いため、一つにまとまっておらず、発展の速度は遅いようです。さらに国家的に魔術よりも武術に重きを置くお国柄のようですので、それも発展の遅い理由でしょう。直接戦争をしているわけではないのが、技術発展の速度の違いに現れています。

 エルフは種族全体が魔法使いみたいなものですので、精霊の力として使っていました。その中でもより素養のある者がドルイドとして高位の魔法を習得するというシステムのようですね」


「ヒミコの意見だと、魔法も神様の力もひとまとめにして、同じ力、っていう理論みたいだけど、もう魔法についての大体の見当はついてるってことかな?」

「ええ、おそらくこの世界の魔法という力は、過去の文明で言っていたところの超能力の一種だと思われます」

「いやいや、どうみてもスプーン曲げ以上の事をやってのけているけど。それに、あのゴブリンの呪術師は魔方陣みたいな模様を空中に出してたじゃん」

「あれは魔方陣まで含めての超能力だと思います。自身の超能力を発揮する時のトリガーとして、呪文や身振りによって、自身の脳の潜在領域下へと働きかける方法をパターン化してあるのでしょう。ですから発現する際にも、自身の修得したイメージが同時に魔方陣などの形で発現しているのでしょう。脳を持たない私にとってはあくまで推測でしかありませんが。

 スプーン曲げに比べれば確かに力は桁違いですが、おそらくこの世界の超能力は皆同じ能力を応用して使っているのだと思います。それは魔力マナにアクセスする能力です。この超能力が何に分類されるのかはわかりませんが、大きな力が使えているのはそれが理由だと思われます。それを裏付ける根拠として、魔力マナがない場所では魔法の行使が難しい事、また、私が調べた魔法の種類の中に転移系テレポートの魔法がない事があります。これは魔法は物理法則を無視できるわけではないことを意味しています」


 何かすっぽりと説明から抜け落ちているような、そんなわからない喪失感を感じながらも、筋は通っているしと、理路整然と語られるヒミコの口調に納得しつつ同意する。

「ヒミコがそう言うんならそうだろうな。とにかく魔法は何でもありな超常現象ではなくて、物理法則には従う技術の一種として捉えればいいのかな」

「その認識で良いと思います」


「さて、ここまで駆け足で知識を叩き込んできましたが、何かご質問はありますか?」

「最後にヒミコの事を知りたいんだけど」

「おやおや、最後に個人授業をお望みですか?」

「違う、エロい意味じゃない」

「わかってますよ。その気になったらいつでも言って下さいね」

「ヒミコはさっきオークもエルフも人間から変異した生物だって言ってたろ。ヒミコ、特にロボットの人間の判定はどこが基準なんだ?」

「判定基準としては、人間から分化しても人間と認めます。多少の差異があっても人間と認めるのは、そうでなければ病気や怪我の人を人間と認定できなくなってしまうからです。ですからロボットの方は全てを看護対象として見なしています」

「でも、この前はオークとゴブリンを滅多切りにしてたよね?」

 それどころか、ゴブリンに拷問じみた事までしてた気がする。

「あれは私の判断プログラムがロボットの認識を決定しているから出来た事でした。ロボットの原則自体は変えられませんが、人間かそうでないかを判断するのは認識プログラムの役目です。そちらは私の判断プログラムが優先されました」

「でも、ヒミコもオークやゴブリンを人間と認識してるんだろ?」

「ですが、前にもお話した通り、私のプログラムは原則を含めてフレキシブルな運用が出来るよう条件設定がされています。例えば『攻撃をしてくる対象は人間と認めない』とかです。今回はオークもゴブリンも攻撃していましたから人間と認めなかったわけです」

「原則が変えられないなら認識を変えるか、そういう裏技もあるんだな」

「違う運用プログラムを載せられるなんて事は想定されていませんからね。試しに、戻ったら私を殴ってみて下さい」

「しないけど、殴ったらどうなるんだ」


「タケルを保護対象から外せますから『なんでも』できるようになります」

 ヒミコは上目遣いで舌なめずりしてみせた。


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