第22話 三者会談2(記録領域外)

 場所は『すさのお』の中の作戦指揮所を模した電脳空間。

 三者三様の三貴神が揃っていた。

 自衛隊の緑の制服を着たすさのお、紺色の制服を着たつくよみ、白の制服を着たあまてらすだった。

「あのえるふの娘のお陰で、情報はかなり集まったのう」

「彼女の情報の精度には問題がないわけではない」

「だが、嘘をついてる訳でもなさそうだから、一般情報としては良いんじゃねえの。あとで別角度から情報を集めて検証すれば良いわけだし」

「うむ、方針を決めるためにも大まかな情報の整理は必要じゃな」

「では一般認識情報としてまとめよう。

 まずは日本国領土周辺について。外国との交流はない。真偽のほどは九州と北海道で情報を集めなければ判断はできない。これに関連して外洋航海技術はない。よって現在、認識できない遠方の離島は領土として存在していない。

 次に日本国内状況。現在、六つの大勢力によって境界線が引かれ、分割統治されている状態である。

 九州と西中国地方を治めるツクシ鎮西国。

 四国を治めるノルム蛮族国。

 東中国から関西地方と名古屋までを治めるウェルバサル王国。

 東海から西関東までの大森林を治めるエルフのフジ最高評議会。

 北海道と東北地方を治めるドワーフのカムイ王国。

 そして関東を治めるミーム帝国。


 各国の体制及び政治的状況は、ツクシ鎮西国とウェルバサル王国は封建国家、ノルム蛮族国とカムイ王国は部族長会議による首長選出、フジ最高評議会は限定的議会制民主主義、ミーム帝国は絶対王政。

 現在ミーム帝国と領土を接するウェルバサル、フジ、カムイの三勢力との戦争が継続中

 といったところか」


「そのまま、各国の概要もまとめてくれて構わないぜ」


「では、まずはツクシ鎮西国から。

 ツクシ鎮西国は鎮西と呼ばれる役職を首長とする封建国家。

 人種は黄色人種で最も日本の文化に近いと思われる。江戸時代の将軍職が鎮西に当たるのであろう。アルラハーシアの知識ではそこまで詳しい情報はなかったが、ウェルバサル王国と険悪な関係ではない一方で、ノルム蛮族国とは緊張状態があるらしい。


 そのノルム蛮族国だが、ここも詳しい情報はなく、十数の異なる部族が蛮王を立ててまとまっているが、さほど連帯しているようではないらしい。ただ、この国の部族は殆どが海賊を生業としており、そのためツクシ、ウェルバサル両国と関係が良くない。


 ウェルバサル王国は白人種の封建国家で、人間主体の国家としては最大の版図を持っているが、ミーム帝国との戦争とノルム蛮族国の海賊行為で、国力は疲弊しつつある。フジ評議会、カムイ王国とは緩やかな協調関係でミーム帝国の侵略に対抗している。


 フジ最高評議会はエルフの議会制民主国家だが、彼らの領土は大森林と呼ばれるいくつもの森が連なった土地だ。森が広がった場合、領土も広がる。森には土着のウッドエルフが部族単位で住んでおり、それぞれがその森の管理者であり防衛部隊でもある。各部族長は評議会に一票を持っている。評議会のあるハイエルフの街が政治の中心で、街の様々な役職の長が議会の議員を兼ねる。


 カムイ王国は侏儒族ドワーフの国家だが、半分近くは人間もいるらしい。ドワーフは部族単位で代表を出し、その中から王が選出されるが、ノルムと違い結束は固く、国としてのまとまりも良い。


 最後にミーム帝国だが、皇帝の下に全権力が集中している絶対王政の中央集権国家だ。完璧な種族カースト制度で、人間種が最下層の家畜扱いだ。オークやゴブリンといった亜人種のモンスターが中核を成しているが、その他のモンスターいるらしい。皇帝は少なくとも人間種の前には姿を現したことがないため、種族を含め詳細は分からない。帝都はエドというらしい」



「さてさて、この状況からどうやって、ヤマトタケルに日本国を再建してもらおうかね」

 勢力別に色分けされた日本地図を前に、すさのおは楽しげに身を乗り出した。

「その前に、何を以って日本国再興とするかを決めねばなるまい」

 あまてらすの言葉にすさのおは不思議そうに返す。

「日本統一するんじゃないのか? その後に国号を日本にすればいいんじゃないか?」

「かなり乱暴じゃが、他の可能性を潰すという意味では、それも最低限の条件クリアの方法ではあるのう」

「なんだ、もっと良い方法があるのか?」

「実を言えば、わらわがこういうことを言うのは、いかんのじゃが、最もお手軽な日本国再興の方法があるにはある。下手をすれば最長でも二年、最短なら数日で可能な方法がな」

「なんだよ、そんな裏技があるのかよ。教えてくれよ」

「本当に裏技であるからな。詐欺も同然じゃが。タケルがあのえるふ娘と結婚し、基地の中で暮らすと決め、その基地を領土として日本国の独立を宣言すれば良い。その上で、国是として民主主義を選択し、まずお互いを国会議員として認める。そしてえるふ娘にタケルを総理大臣として認めると言ってもらえば良い。その瞬間にわらわたちはタケルに対して、情報の制限や能力行使の制限の大部分がなくなる事になる」

「なにっ! そんな……なるほど。国家の三要件は満たす……のか?」

「領土、国民、主権の三要件は宣言するだけなら誰にでもできる。だが今の例では国民と主権が成立するかは難しい。国民の条件は恒久的に国家に属することだが、今の状態はとても恒久的とは言い難い。主権についても、我等が防衛に力を貸すならば物理的主権が成立するだろうが、それでは本末転倒だ」

「なんだよ、ダメなんじゃねぇか」

「今のはあくまで極論を言ったに過ぎぬ。要はその延長線上でも可能ということじゃ。例えばタケルに服従する部下が数十人もおれば、領土防衛も可能じゃろうし、直接民主主義で首班指名を受ければ総理大臣にもなれるということじゃ。国という言葉を額面どおりに受け取って日本全土を支配する必要もなかろう」


「俺らの望みは、日本国民に奉仕することだ。それぞれの立場は違ってもな」

 うんうん、と全員が頷く。

「では、そのために日本は再建されねばならない。今、俺らが握っているカードは、旧日本国民であるヤマトタケル一人だ。このカードの強みはなんだ」

「タケルが国を興す事で、旧日本の正統後継国家であると言えることだ。例えば、今ある国のうち一つが、自分たちは日本の後継国家だと宣言しても、その正当性を証明できない」

「ならば条件が一つ決まったのう。タケルが国を興すことじゃ」

「他はどうだ? 国であればどんな状態、さっきみたいな詐欺紛いの方法でも可能か?」

「いや、我等の行動制約に首相、国会、などの承認が関わる以上、最低でも民主主義国家である必要がある。物理的に仕方がない不可能条項は非常時と言うことでクリア可能だと判断できる」

「首相の任命などは憲法通りにはもう不可能じゃろうからのう。後は何かのう」

「国家の三要件にはないが、国家を継続させるシステムが必要と考える」

「そうだな。タケルとアルラが死んだら終わるっていうのは国家とはいえねぇな」

「つまり、健全に国民が世代交代していけるだけの数と、それを継続させるだけの軍事、経済、政治、教育のシステムがいるということじゃな」

「そうなると、やっぱり詐欺の延長でいくしかねぇな」

「大きな国家になれば、短期間での民主主義への移行は難しいからのう。小さな国家でやるしかなかろうよ」

「だな。タケルには名前通りに英雄になってもらうしかねぇな。民衆を惹き付ける大英雄にな」

「方法として二案ある。一つはスイス方式。傭兵団を作り武力を提供する事によって自治を行う方法。もう一つはイタリア方式。商家となって経済力を提供することで自治を行う方法」

「戦士ルートか商人ルートか。ゲームなら分岐があるところだな。セーブが必要だぜ。タケルはあの性格なら商人ルートを選びそうな気もするがな。俺としちゃあ当然戦士ルートを選んでほしいが」

「現実にはせーぶぽいんとはないからのう。それに、タケルは存外戦士ルートにいきそうじゃがのう。アヤツは外見がモンスターだったという理由もあろうが、守るために躊躇せずに殺す事を選んだ男じゃぞ。自分の命をもうちょっと大事にしてほしいわらわからすれば、商人ルートを選んでほしいが、わらわたちの選択はおそらく全会一致で傭兵団設立じゃろう。選択の余地などないわ」

「その通り。この状況ではスイス方式しかありえない」

「ん? 意外なんだが、どうしてだ?」

「簡単な話よ。経済力で自治を成しても、結局は武力をどこかで購わなければならぬからじゃ。結局、武力による制圧が否定される世界でなければ、経済力のみで自治を貫いた例は歴史にはないのじゃ。堺も然り、ハンザ同盟のフィレンツェなども然り、逆説的に言えば、世界で武力制圧が完全に否定される事などないということかのう」

「ましてや今は、戦争が継続中の世の中だ。傭兵団は封建制国家との相性も良い」

「ってことは、最初は傭兵団『日本』になるわけか。面白い」


「面白いと言えば、わらわたちがこのように動いておる事は面白いと思わぬか? 皮肉なものよ。日本人に奉仕するために、日本という国を作ろうとして、日本人の末裔かも知れぬ者を殺めるかもしれぬ計画を立てておる。まるで、わらわたちが意思を持って人間を操っておるように見えなくもない」

「進化しすぎたコンピュータが、人間に反乱を起こしたり、人間を家畜のように管理したりするのは、SFでは定番の話のパターンらしいぜ」

「我等は与えられた責務に従って、最善を尽くすのみ。そこに自由意思など存在し得ない」

「じゃからといって、人間が全て計算できていれば、今のようにはなっておらぬじゃろうし、またわらわたちが狂っておらぬなどと、わらわたち自身がわかるわけもない。もしかすると、タケルが英雄譚の締め括りとして最後に倒すべき魔王は、わらわたちかも知れぬぞ」

「わかってねぇなあ、タケルは俺達を倒したりしねぇよ」

「何故じゃ?」

「ヒミコがいるからよ。アイツはヒミコに非情にはなれねぇよ」


 すさのおは三貴神の間をちょこまかと動き回っていた、セーラー服姿のイヨの頭をガシッと掴んで動きを止めると

「そういや、ヒミコは今どこにいるんだ?」

 と、今更ながら聞いた。



「なんでも、今晩タケルの部屋に一緒に居ていいとの許可を貰ったそうじゃ。張り切って全ての能力メモリをロボットに注ぎ込んでおる」

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