第21話 富士地下基地2
二の矢「さっきのは嘘だったの?」
三の矢「私のこと嫌いなの?」
四の矢「私はタケルの事好きよ」
五の矢「ヒドイ! 私の心を弄んだの?」
六の矢「なんでもするから!」
七の矢「お願い! 私と結婚して!」
以下無限ループ。
アルラハーシアは次々とタケルの急所に矢を放ち、全てが致命傷を与えていた。
タケルにとって、こんなエルフ美女の完璧超人から求婚されるなんて、もうない機会だろう。一も二もなく、後先考えずにOKしておかしくなかった。思わず首を縦に振ってしまいそうだ。理性が、何かおかしい罠だ、と叫ぶが、連射される彼女の言葉の矢に簡単に打ち砕かれていった。
そして、アルラハーシアにとって残念だったのは、彼女自身も色恋沙汰に関しては興味がなかったせいで、本の知識しかなかった事だった。彼女は狩人であり、
もし本気なら、強引に既成事実を作って泣けば、童貞のタケルはイチコロだったろう。
なにせ、半裸の美女が二人きりで誘っているのに逃げたぐらい、筋金入りのチキン童貞だ。
女性から押し倒していかなければ恐らく無理だろうが、押し倒されてから逃げる勇気もないだろう。幸い彼女も処女はじめてなのだから、既成事実さえ作ってしまえばタケルの拒否権はないも同然だろう。
バターン! と大きな音を立てて、食堂の扉が開かれる。
タケルにとって心強い助っ人ヒミコの登場だ。
もはや、揺さぶられてタケルの頭は物理的には縦に振られている。
後はタケルが「わかった」と言うだけなのだが、タケルの頭はショート寸前で言葉を発する事すらできない。
タケルはその頭をガシッっと掴まれる。頭というより顔面だ。
「もうやめて、とっくにタケルのライフはゼロよ」
そう言って、タケルをアルラハーシアから引きはがす。
腕一本でタケルを自分の胸に掻き抱く。タケルの後頭部がヒミコの胸に押し付けられて、下着を付けていない形のよい胸が変形する。
なんでノーブラなんだよ! とか思う余裕もなく、タケルはヒミコの腕をパンパンと二度叩く行為を繰り返す。心強い助っ人ヒミコはタケルの顔面にアイアンクローをガッチリとキメ続けている。タップしても相手にもしてくれない。痛くて声も出せない。お前がライフを削り取ってる! 物理的に!
「タケル、私と結婚して! さっき私と結婚する人が羨ましいって言ったじゃない! だったら結婚して!」
目にうっすらと涙すら浮かべている。なんでこんなに必死なんだろう? 婚活してるアラフォー女性だってここまで必死じゃないぞ。……多分。
そして、アルラが何か言う度に、アイアンクローが強まってる。無理無理、中身出ちゃう。
アイアンクローは頭蓋骨にかける関節技だって、どっかの王女様が言ってた気がする。
今それを実感している。口が勝手に開く。でも呻きしかでない。これやばい。
「流石に私も昨日の今日でこれはタケルを弁護できないかなぁ。怒るでしょコレは」
えっ? 何言ってるの? お前は心強い助っ人じゃなかったのか?
「なんで、この中を案内してただけなのに、結婚を申し込まれてるの? 一体何をしたの?」
「あが、が、が、」
ダメだ、タップしても気付かないぞコイツ。フリッツフォンエリックだってもっと優しいぞ。
「ずっと監視はしてたけど、女子トイレに一緒に入って、長い時間何をしてたの?」
してない、なにもしてない。そうかあの中には流石に監視カメラないよな。
アルラハーシアはその時のことを思い出したのか、また、耳まで羞恥で赤くなる。
アイアンクローの力が増して、タケルの顔は青くなる。
アルラハーシアは自分が聞かれたと思い、答えはじめる。
「あそこは、私、アレ初めてだったから上手くできなくて、タケルに教えて貰って、それで、最後まで一緒に……、アレ教えて貰ってしてたから時間かかっちゃって」
顔を赤らめたまま答えるアルラの発言でアイアンクローは、ターミネーターですら押し潰すプレス機になったようだった。頭の形変わりそうだ。もはや、痛みがどこから来てるかすら分からないくらい、脳の中が痛みの情報一色だった。
アルラ、初めてで覚えにくいとは思うけど、ウォシュレットって言おうな、マジで。
ヒミコも考えりゃ分かるだろうよ、考えろよ!
「やはりタケルは特殊な趣味を……ああいう場所でなければ……」
おい、この駄目ロボット! 無駄にスパコン3台も使ってんじゃねーよ。なんでそっちの結論にいくんだよ!
ダメだ、もう痛みで意識が朦朧としてきた。
今の時点で司法権と執行権を握っている火付盗賊改方ならぬヒミコは次のアルラハーシアの証言を聞き裁定を下す。
「アレって、初めてだったけど……とても気持ちが良いですね」
グシャッ
目が覚めた。
よかった、死ぬのが怖くないとかツッパッてきたが、あんな死に方は頂けない。
どうやら場所は変わってないようだ。食堂の椅子に寝かされてた。
そして離れたテーブルで女子トークで盛り上がってる金髪と黒髪の女子二人。
その横に、無惨にも背もたれを握り潰された椅子がある。
気絶前に聞いた音はあれか。
空恐ろしくなるのと、自分の代わりになってくれたようでもあり、つい手を合わせてしまう。
アルラハーシアが気付いて、手を振る。
「タケルー! 見て見て! 似合ってるでしょ!」
ヒミコを指差す。
ヒミコは立ち上がり振り向いた。
驚いた。どこから持ってきたのか、ヒミコは黒のゴスロリ服に身を包み、レースのヘッドドレスまで付けている。オーバーニーストッキングとミニのフリルスカートで絶対領域も作ってある。しかし、足長いな。
タケルが絶句していると、ヒミコは近付いてきた。
なぜか胸がはち切れんばかりにサイズがあってない。胸元だけ緩めてるせいでエロい。
というか、コイツまだノーブラのまんまじゃねぇか。
「どう? 似合ってるかしら?」
似合ってる。コクコクと頷く。頷く度に頭蓋骨に痛みが走るが無視した。
ヒミコが緩んだ顔で嬉しそうに笑うと元の椅子に戻ってお礼を言っている。
「ありがとう、アルラ。本当に貰っていいのかしら」
「ええ、私には似合わないもの。ハイエルフの服ってヒラヒラがいっぱいで趣味じゃないのよ。でもこの黒いのとかはヒミコに似合うと思ってたの。綺麗な黒髪だものね。胸の寸法がキツイけどそれは緩めたらいけそうね。あと白いのも似合いそうだから、また持って来るわね」
「嬉しいわ。是非お願いね。明後日が楽しみだわ」
「ええ、楽しみにしてて。私の晴れの舞台ですもの」
何だか女子力の高そうな会話がされている。
男が入ることのできない空間だ。
見るとさっきまでヒミコが着てたツナギが脱ぎ捨ててある。
と言うことは、ヒミコここで着替えたのか。
しかし、見事な仲良しっぷりである。
気絶前の状況からすれば、恐ろしい修羅場が起こっていてもおかしくないのだが、なにをどうすれば、ここまで和気藹々とした空気になれるのか? コミュ障としては後学のために見学したいところだったが、自分がいれば見学どころじゃなかったんだろうな。
あの二人が和んでいると言うことは、さっきの問題は解決したんだろう。
テーブルの上には紙が何枚か置かれており、それと、封筒のようなものが置いてある。
二人で手紙でも書いていたのだろうか?
そんなに時間が経っているのか?
時計を見たタケルは驚いた。もう夕方だ! 三時間くらいは気絶してるぞ。
「じゃあ、私は帰るわ。またね」
アルラハーシアは鎧を付けると上機嫌で挨拶して帰っていった。
外まで見送ったタケルとヒミコに投げキッスまでするサービスっぷりだ。
結局、後半は気絶してただけだったのだが、何だかどっと疲れた。
食堂に戻ってヒミコに聞く。
「あれからどんな話ししてたんだ?」
「タケルが起きて来ないから、結局ワタシがこの周辺の事聞いちゃったわ。まとめてデータアップしておくから、読んでおいてね」
なんで起きて来ない方が悪いみたいになってんの? どう見ても冤罪被害者だよね。
無能裁判官はゴスロリ服でクルッと回ってみたりしている、ミニスカートがフワッとなって独楽みたいだ。
「その服どうしたんだ?」
「アルラが持ってきたの。似合うから着てみてって。ちょっとサイズ直さないと胸がね」
そう言って、指で胸元を広げる。
「なんでノーブラなんだよ!」
「タケルにサービスよ。というのは冗談で、ここで着替えたからよ。タケルは寝てたし、アルラは女性だから問題ないでしょ」
全く理由になってない。
「そもそもノーブラの訳が分からないんだが」
「ツナギは生地も厚いし、汚れるためのものでしょ。下着なんか着ける必要ないじゃないの。ナース服の時はスカートだし、生地が薄いから下着つけてるけど」
タケルは脱ぎ捨てられたツナギを見る。そしてヒミコを見る。えっ?
「じゃあ、もしかして今は、履いてない……」
「パンツがないから恥ずかしくないもん」
「うっさい露出狂! アルラの半分くらいは羞恥心を持て!」
じゃあコイツ、女性とはいえ初めての客の前で全裸着替えしたのか。
驚いたろうなあ。いきなり裸の付き合いだもんな。
ヒミコから目をそらすと、机の上の紙が目に留まった。
「そういえば、アルラと何を書いてたんだ?」
「ラブレターよ、ワタシが手伝ってたの」
「へぇ、流石ヒミコ、女子力高いな」
何気なく手紙を一枚読んでみて、タケルは顔を曇らせる。
多分書き損じか、選考漏れした没案かだろうと思われるが、甘ったるい内容が連なっている。だが、問題はそこじゃない。
「ヒミコ」
「なに?」
「このラブレター、全部アルラ宛てじゃないのか?」
「そうよ」
「自分宛てのラブレターを書いてたのか?」
「違うわ、それだと字でばれるからワタシが書いたのよ」
「誰からのラブレターを?」
「タケル」
偽造されてた。
「タケルが寝てるから代筆してあげたのよ。セラエノから人気少女マンガのラブレターをちょっとダウンロードして改変して、見事な仕上がりよ」
だからあんなに甘ったるかったのか。少女が自分にきたらいいなと思う願望を満載した自分宛てラブレターか。そりゃ満足するだろ。でも断言しよう。アルラ、数年後多分それは封印したい黒歴史になってるぞ。お前が作り出したのは、恐るべき時限発火式の取扱い危険物だ。
「なんでラブレター出したことになってんの? 昨日会ったばっかりなんだけど?」
「それはタケルがアルラに一目惚れして、アルラもタケルにゾッコンで相思相愛だから、彼女に結婚を申し込むラブレターを送ったのよ」
酷い事実改竄を見た。その話、終わってなかったんだ。
「人種間を越える愛! 数々の障害を乗り越え、打ち破り、彼女を連れて愛の逃避行! そして田舎の誰もいない教会で、二人は永遠の愛を誓うのよ! 理解してくれない世間から逃れて、二人のユートピアを探して旅を続けるの、ボニーとクライドのように!」
「いや、それ最後二人とも蜂の巣じゃん。完膚無きまでに死んでんじゃねえか。どんな作品をベースにしたんだよポンコツ!」
つい、ツッコミを入れてしまう。
「てか、なんで結婚する流れになってんだよ!」
「あら? 嫌なの? エルフ美女よ?」
「アルラは確かにいい娘だけど、いきなり結婚って、おかしいだろ。何か理由があるんだろ? 教えてくれよ」
「お、意外と冷静ね。何だかガッカリ」
「ヒミコの事も分かってるからな。理由なく事を進めたりしないだろ。ヒミコはいつも僕のことを考えてくれてるから信用はしてるよ」
ヒミコは嬉しそうにニマァと笑う。えっ? 何かミスった?
「タケル、今自分のことを『私』じゃなくて『僕』って言った。やったぁ!」
なんか飛び上がって喜んでる。何が何やら。誰かと賭けでもしてたのだろうか? ペアハワイ旅行でも貰えるならペアに選んで貰いたいものだ。ところで、飛び上がるとスカートがめくれそうで、目のやり場に困るからやめてほしい。特にノーパンの時は。
「タケルのデータ閲覧したら、タケルは親しい人には一人称『僕』で、距離のある人には『私』で、話してるじゃないの。いやー長かったわぁ。一週間くらいで行けると思ったのに、結構かかっちゃったわ。看護ロボットとして自信喪失しそうだったわよ」
そうか、そんなところまで気にしてくれていたのか。多分そこまで気にして接してくれていたのは、仲良くなろうとしてくれていたのは、この850年の中でヒミコだけだったろう。
結局、人生を実験動物として過ごし、畏れ蔑まれながら、こっちが勝手に、近しい人を選別して呼んでいたにすぎない。それを欲してくれていたなんてもっと早く使ってあげればよかった。すっかり忘れてて、素で出てしまった。
しかし、指摘されると恥ずかしいな。
タケルは顔をちょっと赤らめて、そっぽを向きながら言う。
「別にそんなのどうでもいいだろ。まあ、でも、遅くなってゴメン。それと、ありがと」
突然静かになった。ヒミコがはしゃぐのをやめて、口を開けてこっちをじっと見ている。
「ヤバイ、これが萌えと言うヤツの本質なの。すごい破壊力だわ。新しい原則が構築されてしまいそうだわ」
なんかフリーズしてる。カルチャーショックを受けてるみたいだ。ゼントラーディ人かお前は。
「今すぐタケルを押し倒したいけど、トリニティで可決が成されないわ。何とか合法的にタケルを押し倒す方法はないものかしら。折角下着も付けてないチャンスなのに」
スパコン頑張れ! お前らを応援しているぞ! まさか女の子のパンツが男の貞操を守るために使われるものだったとは、思いもしなかった。いまや、ヒミコは見えない鎖に縛られた猛獣のようだった。
「そうよ! アルラと子作りするための練習をしないといけないという理由はどうかしら? くっ、一票だけか。あと何かいい理由は……」
その一票入れた衛星の名前を教えろ。宇宙の彼方に放り出してやる。
「そろそろ戻ってこい。そうだよ、思い出したアルラだよ。アルラの話が途中だろ」
ヒミコは悔しそうに会話を戻す。なんか肉食獣と一緒にいる気分だ。肉食系女子って、そんなリアルな話じゃなかったと思うんだが。
「ねぇタケル、寒くなってきたから今晩は一緒に寝ない?」
「まだ夏だろ。それにヒミコは温度関係ないだろ」
「…………な、何もしないから」
世界一信用できない言葉だな。だが、ヒミコが嘘を付けない事を考えれば信用できるのか?
その後、条件面の交渉を続けて、なんとか話を元に戻した。
「……仕方ないか。それで妥協ね」
「それでアルラとの結婚を僕抜きで進めてる理由って何だよ。あと、僕って聞く度に嬉しそうな顔するの止めろ。慣れろ」
「えーっ、もうちょっとくらい堪能させてよ。ま、いっか今晩は堪能するからね。そうそう、彼女から色々と聞いたんだけど、彼女と結婚の計画を進めてる一番の理由はね、彼女の家がお金持ちの名家で、お父さんが最高評議会議長っていうのが理由なのよ」
ヒミコはニヤニヤしながら理由を告げた。
思ったより下衆な理由だった。
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