第11話 富士樹海4(装備更新)

 ヒミコの誘導で連れられて来たのは、巨大な実験室のような場所だった。

 ヒミコに言われるままに物をかき集めてテーブルに載せていく。


「……以上ですね。ではまずは服から着替えましょうか」

 持ってきた黒のジャケットとパンツを着る。少しゴワゴワしてて、今までより固い。あまり着心地がいいとは言えない。

「今タケルが着ている服は、超高分子量ポリエチレンと、カーボンナノチューブ、糸状化リチウムイオン、アクリル、ナイロン等を編んだ服です。着心地はイマイチかも知れませんが、耐衝撃性、耐摩耗性に優れ、蓄電と発電機能を有しています。動くことで静電気を発生させ、それを蓄電していきます。服の各部位の表面にはアタッチメントがありますが、これは後で説明します」

 嫌な静電気だったが、そういう利用ができるようになったのか。少なくともこの服を着てる間は静電気を吸い取ってくれるなら、着心地くらい犠牲にしてもいいだろう。


「次にヘルメットを説明します。これは今までより少し窮屈かも知れませんが」

 確かに、かぶってみると頭部全体をピッタリと覆われて少し窮屈だった。今までのはオープンフェイスだったのに、このヘルメットはフルフェイスで被ると自動でバイザーが下りてくる。見た目は黒のバイクのヘルメットのようだった。

「最新式のヘルメットです。バイザーは防弾仕様で小銃弾までなら止められます。バイザーにはディスプレイ機能もあり、情報表示が可能です。また、自動で光量調整を行うので閃光弾にも対処出来るほか、ナイトビジョンモードにもなります。イヤークッションの部分はスピーカーになっており、バイザーと同じく音量を自動調整します。アイトラッキングセンサーがありますので、集音モードでは見たところの音を自動で増幅します。当然ですがヘルメット強度は小規模の爆発までならば耐えられるようになっています。あと、着用者が意識を無くした際には自動的に内蔵された純アンモニアを分泌するようになっています」

「その機能って誤作動しないだろうな。できればそれは外しておいて欲しい機能だが」

 気絶する自由すらないのはぞっとする話だ。


「次はタクティカルベストですね。これは、今着ている防弾ベストの上下に重ねて下さい」

 一旦防弾ベストを脱いで、ベルトでサイズを調整しつつ、タクティカルベストと防弾ベストを重ねて着直す。防弾ベストが真ん中で、タクティカルベストにサンドイッチにされた状態だ。

「その状態でヘルメットとタクティカルベストをチューブで繋ぎます。防弾ベストの下に入れたタクティカルベストは空気を保持していますので、物理的な圧力に対してクッションとなる他、水没時には浮き具に、またガス状況下ではヘルメットに吸入され30分程度の活動を可能とします。

 上に掛けたタクティカルベストには通常のタクティカルベストと同様に用途別のポケットやマウントのアタッチメントが着いていますが、全体に軽量化したバッテリーが仕込まれていますので、電力が必要な装備の予備バッテリーとして機能します。勿論、このバッテリープレートは防弾性能の向上にも寄与します」

 なんだか、上半身だけマッチョなシルエットになっていくな。


「次にいきます。アームガードを腕につけてください。右と左で違いますから気をつけて。装着したら、コードをそれぞれベストの肩の部分にはつないでください。左右それぞれには腕の下と外側の二カ所にマウントレールがありますが、今は何もつけていません。これは今後状況によって装備を装着してください。その場合は重量が増していきますので注意が必要です」

 つまり鍛えろって事だな。確かに運動不足だからな。今まで超インドア生活だったし。

「右腕の基本装備から説明します。右にはカメラ、スタンガン、レーザーポインタ、射出型ワイヤーフック、ウインチが装備されています。

 レーザーポインタはモードを変える事で有効射程50mの対人用レーザーにもなります。

 フックは射出後最初に命中したものに自動でツメを食い込ませホールドします。対象はコンクリートや岩までの固さならばくいこませられます。ホールドしたフックは本体側からの操作で開放できます。何にも命中しなかった場合、ツメはそのままの状態で固定され、逆向きのフックとして機能します。ワイヤーフックとウインチはそれぞれ200kgまでの荷重に耐えられます。ワイヤーは単分子構造の極細糸ですので視認困難で、ワイヤーカッターとして使うこともできますし、内蔵のスタンガンから通電させる事もできます」

 なんかいまサラっとえげつない事言ってた気がするが、と、タケルが考える間を与えずに説明は進む。

「左腕は上部に活動の阻害にならない程度の楕円の膨らみがあると思いますが」

 確かに。小型の盾をつけてるようにも見える。こういう盾をバックラーって言うんだったかな。

「この部分が電磁シールドになりますので、攻撃などに対してこの部分を向けるようにしてください。自動に設定されていますので、一定以上の速度で向かってくる金属体を感知すると荷電してローレンツ力で対抗します」

 盾というイメージは間違ってなかったようだ。


「次にアーマープレートです。今は上半身は必要ないので、下半身だけ装着してください。服の表面のアタッチメントが露出してる部分に対応するパーツを貼付けるだけです」

 こんなオモチャあったな。セイントのクロスだっけ? それを思い出させるな。

 太股と脛と股間に軽いプレートを貼付けていく。

「複合素材による多層構造のプレートです。絶縁処理もしているので電撃にも耐性があります。もし防弾ベストなどを着けない時には、上半身にも一式装備することで、軽装時の防御力を上げることができます」

 結局全身真っ黒だな。


「最後に各種グレネードです。ベストと腰のベルトの好きなところに装着してください。スタングレネードは閃光と音を発生させ、視覚と聴覚を無効化します。スモークグレネードは煙幕を張ります。屋外、特に風がある場所では効果が薄くなります。チャフグレネードは電子的な探査を無効化します。ファイアグレネードは化学反応で一時的に2000度以上の高温を発します。攻撃にも使えないことはないですが、主に熱探知の誘導への対抗手段です」

 ふう、やっと終わりか。タケルは一息ついた。使い方を全部覚えられたか自信がなかった。


「武器はグレネードだけってことはやっぱり火薬系はダメだったのか?」

「いえ、ここは保管状態が良かったので、おそらく使えるものが見つかると思います。ただ、武器弾薬のチェックが終わっていないので、安全性が確認されていないので」

「なるほど、じゃあ、その辺はまた今度だな。しかし、たった十年くらいで、こんなにも進化してたんだな」

「いえ、今タケルに装備してもらっているのは、正規配備の品ではありません。ここには陸自の開発実験団隷下装備実験隊がいましたので、ここはその部署のエリアです。正規部隊に配備するには先端技術過ぎますので、特殊部隊用といったところでしょうか。多分に趣味に走っているきらいもありますが。まだまだ装備はあるんですが、今すぐに使えそうなのはこのぐらいです」

「なんか、さっき言ってた安全性っていうのが、途端に怪しくなってきたんだが……」

「タケル、ドローンの充電が終わりました。放出しますので、コントロールルームに戻りましょう」


 ヒミコに急かされて戻りながら、なんだかごまかされた気分になっていた。

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