第6話 魔法
今日も氷水で朝の洗顔をしているとミラさんが訪ねてきました。
昨日の話の確認です。
灰原さんは早くも今日から世界ツアーに出るそうです。
それは良い、早く行ってくれたまえ、しっし!
私はもう一度、自分には行く意思がないことを伝えました。
それは『使命を全うするためだ』と自分の想いを説明すると、了承してくれました。
灰原さん出発のための準備が忙しいようで、早々にミラさんは去って行きましたが、朝から素敵なプロポーションを見ることが出来て大変眼福でした。
ありがとうございました!
「さて、私も頑張らなきゃね」
今日もダブル鬼軍曹にこってり絞って貰います。
リコちゃんが用意してくれた、朝食の何か臭い汁を心を無にして胃に流し込みました。
部屋を出るとお城の中はバタバタと騒々しく、落ち着かない様子でした。
灰原さんの出発が影響しているようです。
私には関係ありません。
お城の人も誰一人私達を気に掛けません。
「私は私の出来ることを頑張る!」
気合いを入れるとジョギングに出掛けました。
ジョギングです。
リンちゃんは確かに『ジョギング』だと言いました。
でも、辿り着いたのは昨日と同じ練習場で……。
「おらー! さっきより遅くなってるぞ! 死ぬ気で走れ!」
「必死の全力疾走はジョギングとは言わないんだからああああ!」
「朝の覚醒ドリンクをお持ちしました。早くゴールしてくださいね」
「!? ゴールしたくない!」
走るのが辛い、でも止まるのも怖い。
進むのも地獄、戻るのも地獄、そんな感じです!
誰か助けて!
「おい。取りあえずそれくらいにしておけ。これから、昨日出来なかった話をするから、頭を使える状態に留めておいてくれ」
走っていたところにオリオンが現れました。
生暖かい視線を私に向けていますが、助け舟を出してくれたようです。
「ちっ。仕方がないな」
でも、出来ればもう少し早くそのお船を出して欲しかったです……。
「オリオン」
オリオンを呼ぶ声、後方から現れたのはアークでした。
日の光を浴びて颯爽と歩く姿は凛々しく、相変わらず麗しい騎士様です。
見た目だけは素晴らしいです、見た目だけは!
アークの姿が視界に入った瞬間、私の表情は旅立ちました。『無』です。
能面のような顔になっているはずです。
食べ物も人も好き嫌いは良くないけれど、駄目なものは駄目です。
やっぱり毛嫌いしてしまいます。
向こうも私のことを毛嫌いしているのでしょう。
澄ました視線をちらりと寄越すと、オリオンの元へと行きました。
「我々はこれから、ルナ姫を各所にお連れする旅に出るが……お前は本当にいいのか」
「ああ。こいつだって女神の使者だ。誰かはついてやらないとな」
オリオンは一緒に旅立たなくて良いのかと確認に来たようです。
私の目の前で引き抜きですか!
鬼ですね!
オリオンの言葉を聞くと、アークは顔を顰めて再びこちらに視線を寄越しました。
「使命を放棄し、メイドと遊んでいるような奴がか?」
「遊んでる!?」
私は耳を疑いました。
「私は命を削って生きようとしているのよ!」
今の私は瀕死です。
ブートキャンプが始まってからは常に死の瀬戸際です!
終わることの無い、エンドレス・デッドオアアライブなのです!
「いいんだな?」
「しつこいぞ」
「無視しないで!」
私の魂の叫びをスルーするなんて許せません。
オリオンもひどいです!
私のことなど眼中に無いようで、二人は顔を顰めて見つめ合っています。
少しすると、アークが根負けしたのか視線を逸らして去って行きました。
塩を撒きたいです。
「さっすが騎士の筆頭様、キラキラ度が違うねえ」
アークの姿が消えると、リンちゃんが呟きました。
そういえば、値踏みするような視線をアークに向けていましたが……。
「リンちゃんはああいうのがタイプなの?」
「はあ!?」
「……くっ」
リンちゃんは目を見開いて驚きの声を上げました。
そしてオリオンは何故かこっそりと笑っています。
隠せていないけど。
肩も震えています。
「? そんなにウケること? はっ、まさか元彼とか!」
意味の分からない笑いには何か理由があるはずです!
オリオンはリンちゃんのことを知っていたようだし、昔のいざこざを知っているのかもしれません。
キラキラ白騎士にツンデレ美少女メイド、素敵な組み合わせです。
「お前……死にたいのか?」
「なんで!?」
「ははっ!」
オリオンは隠すのを止めたのか声を出して笑っているし、リンちゃんは私の胸ぐらを掴んで凄んできます。
なんなのでしょう、この反応。
何があったのか気になります!
「遊んでないで行くか」
笑いの虫が治まったのか、涼しい顔に戻ったオリオンが呟きました。
命の危機を感じているこの状況が遊んでいるですって!?
「遊んでないもん!」
やっぱり、私の環境は過酷です。
今日も生き残らなければ!
エンドレス・デッドオアアライブ!
※※※
私室に戻るための渡り廊下を歩いていると、外の通路沿いに人の塊が見えました。
一部通行を塞ぎ、皆何かの登場を待っているようです。
テーマパークでイベントが始まる前に似てるなあ。
……嫌な予感がします。
「お姫様のご出発~ってか?」
リンちゃんがからかうような視線を私に向けながら言いました。
私もそう思いますが、私に言われても知りません。
「先に行くぞ」
「あ、うん。私も行く!」
全く気にする様子の無いオリオンは、足を止めることなく進んで行きました。
急いで追いかけようとしていると『わーっ』という大きな歓声が聞こえました。
その音につい反応してしまいそちらを見ると、想像していた人物達が姿を現しました。
見なければ良かった、そう思いました。
栗毛の馬に乗ったセイロンと黒馬に乗った例の逞しい保護者が先頭を行き、その後ろを白馬に乗ったアークがいるのですが……その腕の中には、白のベースに蒼の装飾が施されたドレスを着た灰原さんがいました。
シンプルですが上品で優雅なドレスです。
髪も綺麗に結い上げられ、金の髪飾りがついていてまるで『聖女様』。
勇者と聖女の旅立ちパレードと言ったところでしょうか。
見送る人達は興奮していて、皆嬉しそうに声援を送っています。
その中で私はあえて冷静にツッコミたいです。
『何故馬に乗る、歩けよ』と。
普段は馬は通らない人が歩くだけの通路を、わざわざ馬に乗る必要があるのでしょうか。
赤絨毯まで敷いて!
格好をつけたいだけじゃないですか!
灰原さんなんてあんな綺麗な服を着せて貰って……羨ましくなんかないです!
絶対羨ましく何てないんですからあぁうわあぁあぁん!
「ドレス……キレイ……ワタシ……ツライ……」
これ以上見ていても、気分が悪くなるだけです。
立ち去ろうとしていると灰原さんと目が合いました。
距離があるので顔がなんとか分かるくらいですが、目が合っていることは分かりました。
あの嫌らしい笑みを浮かべるかと思いましたが、人の目があるからか表情は変わりませんでした。
その代わりに少し振り返ってアークに何か呟くと、彼がこちらを見て顔を顰めていました。
……なんですか、戦争でもしますか?
嘘ですけどね、私は平和主義者です。
争いは好みません。
灰原さんと不愉快な仲間達なんて眼中にないのです、しっし!
「オリオン、リンちゃんリコちゃん、待って~」
私には助けてくれる人がいるのです。
一人ではありません。
だから大丈夫です。
頑張れます。
※※※
私室に戻ってきました。
『何か喉を潤すものを、出来れば珈琲か紅茶など……』とリクエストしたのですが、水と何か臭い汁が出てきたので透明な方を取りました。
味が無いって素晴らしくて涙が出ちゃう。
「じゃあ、戦闘について……まずは『魔法』だな」
「はい! その前に私のお名前発表タイムにします!」
名前がないとやはり不便です。
早く決めないと、リンちゃんには胸を抉る二文字で呼ばれることが固定してしまいそうですし。
『ドロロロ……』とドラムロールを自分の口で言って演出したのですが、『さっさと言え』とリンちゃんに怒られてしまったので少し凹みながらの発表です。
「『ステラ』ですっ!」
「似合わない」
「似合わねえ」
オリオンとリンちゃんの声が重なりました。
二人でハモらないでよ!
「ぶう!」
「ブヒブヒ鳴くんじゃねえよ」
「鳴いてない!」
拗ねただけなのに、酷いです!
それに即否定なんてあんまりです。
「ステラでいくの!」
「はいはい」
リンちゃんが興味なさげに返事をしました。
オリオンに至っては、この話に興味が無くなったのか余所を見ています。
のしかかっていいですか?
「素敵ですよ。ステラ様」
「リコちゃん!」
可愛らしい顔で、にっこりと微笑んでくれたリコちゃんが天使に見えました。
やっぱり一番の理解者はリコちゃんです。
鬼軍曹モードの時は別人格だと思っているので、日常モードのリコちゃんが私の救いです!
「じゃあ、ステラ」
「はい!」
オリオンに呼ばれ、嬉しくて元気いっぱい返事をしました。
呆れたように、でも優しく笑っているオリオンが話を始めると仕切り直し、私は姿勢を正しました。
「お前の世界には魔法はないんだろう?」
「ないよ。お話で……御伽噺みたいな、現実ではないものとしては、ある」
「じゃあ、まずは魔法の原理を説明しよう。魔法とは、身体に刻んだ『印』に魔力を送ることで発動する。まあ、言葉で言うより見た方が早いな。これが印だ」
そう言ってオリオンは、左手の甲を見せました。
そこには不思議な図形の入れ墨がありました。
図形というか、象形文字のようなものを組み合わせたような……?
「これが印、水系の魔法を使える『
「うん!」
ワクワクしながら待っていると、すぐに私やリンちゃん、リコちゃんの周りが仄かに青く光りました。
暖かくて優しい光でとても安心します。
でも、『轟け我が左手に宿りし力よ!』みたいなのはないのですね。
少々がっかりです。
「これは水渦の印の一番簡単な魔法だ。身近にいる者の体力が回復する」
「へえ! ……そう言えば、リンちゃんも回復してくれたよね?」
「ボクのは
そう言うと、前髪をめくっておでこを見せてくれました。
そこにはオリオンのものとは違う入れ墨がありました。
「おでこにあるんだ!」
「適正箇所がここだったからな」
「適正箇所?」
「印を刻めるのは七カ所。額、胸の左右、腕の左右、手の甲左右だ。だが人によって、印を刻める場所が違うんだ。印に適性がある箇所でないと刻めない。まあ、体質のようなものかな。中には全く無い人もいる。一般的には一人二カ所程度といったところだ」
「オリオンはいくつ?」
「俺は七カ所だ。どこでもつけることが出来る」
「フルコンプじゃないですか! 凄い!」
「そのすぐに何でも『凄い』というのをやめろ」
だって凄いと思ったんだもん。
オリオンだって少し得意げに言っていた気がしましたよ?
「二人はいくつあるの?」
「「秘密」」
流石双子、見事にハモりました。
乙女の秘密なのですね。
「お前の適正を見に『印屋』に行くか」
「『印屋?』」
「ああ。魔法屋ともいう。適正箇所を見てくれる。あと印の売買や着け外しをする所だ」
印は『印師』と呼ばれる人達が取り扱うそうです。
買うのはもちろん、着け外しにもお金がかかるとか
お金はミラさんから資金を頂いているので心配ありません。
リコちゃんにお留守番を頼み、早速印屋へと出掛けました。
※※※
城の中には商店エリアがあります。
城下町の方にもお店はありますがお城の方が質が良く、安定しているそうです。
逆に城下町には掘り出し物があるとか。
大きなホールのような場所に、武器屋や道具屋のカウンターが並んでいます。
ゲームでよくある光景です。
小豆色の下地に二重円が描かれた旗が掲げられた印屋の店主は、モノクルをつけた頑固者っぽい細身で小柄なお爺さんでした。
「何じゃ、あんたハズレ姫か!」
店に行った途端に浴びせられた言葉がこれでした。
「左様でございます」
ここまではっきり言われるとむしろ清々しいです。
少し顔を顰めていたオリオンですが、私があまり気にしていないのを横目でチラリと見ると、話を進めることにしたようです。
「適性を見てやってくれ」
「断る!」
即答でした。
早いですね、門前払いです。
それは私がハズレ姫だから見てくれないってことなのでしょうか。
私ってそんなに嫌われてるの!?
何故でしょう……何かしたのでしょうか。
「職務怠慢か? ああ!?」
「ちょっと、リンちゃん!」
味方なのですが、小柄なお爺さんにいちゃもんをつけているヤンキーメイドにしか見えません。
「そう言うんじゃったら、こいつだって職務怠慢じゃろうが! ルナ姫様は世界を巡られているというのに、こんなところで油を売りよって!」
油なんて売っていません。
脂肪ならたくさんあるので売りたいですが。
私が嫌われている理由は灰原さんの信者が増えているから、ということでしょうか。
そうだとしたらやっていられません!
このお爺さんだけでなく、他のお店でも同じ目にあうことが出てくるのでしょうか……。
「こいつにはこいつの理由がある。そう頭ごなしに否定しないでやってくれ。他の世界で普通に暮らしていたのに、こっちの理由で引っ張ってきて協力してくれてるんだ。もう少し敬意を持ったらどうだ」
負のオーラを放ち始めた私を気にかけてくれたのか、オリオンが店主を諌めてくれています。
……オリオンってあまり気にしない素振りをしていますが、いつもさり気なくフォローしてくれている気がします。
私の方についてきてくれたのも、放っておけなかったのかもしれません。
優しいですね、年の功でしょうか。
「そんなことを言われてもわしゃ知らん!」
「いい歳をして……『話に耳を貸さないが、言いたいことは言う』というのはどうかと思うぞ」
「ふんっ」
そういえばこのモノクルお爺さんとオリオン、どちらが年上なのでしょう。
ハズレ姫だからと断られていることよりも、こっちの方が気になってきました。
「まあいい。だが、仕事はちゃんとしてくれ。真っ当な理由なく断るというのなら、こちらも其れ相応の対応をしなければならなくなるが……お互い、時間の無駄じゃないか?」
「……やむを得まい。騎士殿には逆らえん」
話はついたようです。
半ば脅迫のようでしたが、間違ったことはしていないので何も問題ありません。
モノクルお爺さんが店主兼印師だったようでモノクルを手に取り、ジーッと私を見ました。
あのレンズが特殊なのでしょうか。
「うん?」
私を見てすぐに、モノクルお爺さんが首を傾げました。
「なんじゃ。お前さん、印屋は初めてじゃなかったのかい?」
「え? 初めてですけど……」
頭を傾げた私達でしたが、『初めて』と答えた私の言葉を聞いて、再びモノクルお爺さんが首を傾げました。
「そうは言っても、印を既に一つ持っておるぞ?」
「え?」
「……天性のものではないな」
「ええ?」
印には普通に売り買いしている印とは別に生まれ持った天性のもの、『固有の印』もあるそうです。
でも、そういうものじゃない印が私についているそうです。
……ということは、私が自分から『印をつけた』ということになるのですが……。
「知らない知らない!」
私の方を訝しんでいるオリオンとリンちゃんに向け、頭をブンブンふりました。
全く身に覚えはありません。
「額に既に着いてある。だが……印自体は見えないのに確かに『有る』。これは……」
「それって……」
「え? 何!? 何!?」
朝、鏡を見ましたが、何も無いもちっとしたおでこでした。
印なんてありませんでした。
でも『額にある』と言っています。
額といえば……幽霊美人が触れて暖かくなったところです。
もしかして、あの時つけられたのでしょうか。
なんだか嫌な予感がしてきました。
私以外の三人が、顔を顰めて私を見ています。
「何なの!?」
「お前、呪われすぎだろ……」
リンちゃんが呟きました。
「呪い!? 嘘!」
白い美人幽霊に呪われてしまった!?
まさかそんな……悪い幽霊には見えませんでした。
きっと何かの間違いです。
「あ、もしかして……『話せない』のはこれのせい!?」
「いや、違う。別だ」
昨日の美人幽霊の印象が強くて先にそっちを思い出しましたが、私は元々呪われていました。
それのことかと思ったのですが、違ったようです。
『話せない』呪いと別に、呪いがあるそうです。
なんなのでしょう……この世界では、呪いってそんなに流行っているんですか?
「印には能力を下げたり特定の行動を縛るものがある。印を使える数が減ったり、走れなくなったりと様々だ。そういうものを『呪印』という。呪印は、印として浮かび上がらないものもあるが……」
説明をしているオリオンの目が私のおでこに釘付けです。
『それのこと』って言いたいんですね……泣いていいですか?
「このおでこのやつはどういう呪印なの?」
もう『呪印』だと認めて、恐る恐るどういう影響があるか聞きました。
オリオンに向けて聞いたのですが、答えてくれたのはモノクルお爺さんでした。
「どういうものかは分からん。お前さん、自覚はないのかい?」
身体がまるごと違うので、自覚が有るのか無いのかも分かりません。
でも、特に体調が悪いということはありません。
「もしかして、走るのが遅いのは……!」
「それはお前が単純にデブだからだろ」
「バフウッ」
リンちゃんのツッコミはいつも容赦ないです。
単純にデブってなんですか、複雑なデブはあるのでしょうか……。
この呪いについては今は考えても無駄なようで、オリオンが話を進めるようにモノクルお爺さんを促しました。
再びモノクルチェックが始まりました。
「!! わしの目も耄碌したのかの。まさかそんな……」
「?」
モノクルお爺さんがボソボソと何か呟いています。
私達は頭の上にハテナを浮かべながら、黙ってお爺さんの言葉を待ちます。
話すことを躊躇っているような離したくなさそうな様子のお爺さんでしたが、三人の視線に射抜かれて渋々口を開きました。
「お前さん、そこの騎士殿と同じじゃ。全ての箇所に適正があるようじゃ」
「え……オリオンと一緒!?」
なんと、私もフルコンプです!
オリオンとお揃いだなんて嬉しいです!
『やったね!と』に目を向けると、そこには目を見開いて固まる姿が……。
「ど、どうしたの?」
「全て適正有りとはな」
「お前はハズレ、だよなあ? 腐っても使者様ってことか……」
二人はフルコンプに驚いていたようです。
そういえば普通は二、三箇所と言っていたような。
もしかして私って凄い?
ねえ、凄い!?
「ルナ様でも三つだったというのに、どうしてハズレが……」
「!」
なんですって……灰原さんに勝った!?
それは良いことを聞きました。
思わず頬を緩みます、にんまり。
「まあ、全箇所って言っても一つ呪われているけどな」
「水差し禁止!」
すぐにリンちゃんは水を差してきます、そして心を刺します。
喜んでいるのだから素直に喜ばせて欲しいものです。
騒いでいる私達の横で、オリオンは何か考え込んでいます。
視線はカウンターに並んだ木の札に釘付けです。
木の札には印の種類が書かれてあります。
字は日本語ではありません。
見た目の印象でいうと英語に似ています。
でも、違います。
この世界の言葉のようですが何故か私にも読めます。
木の札は印のメニュー表のようです。
「いくつかつけて試すか」
オリオンは私にどの印をつけるか悩んでいたようです。
「ボクから希望がある」
悩んでいるオリオンにリンちゃんが口を出し、二人でなにやら相談が始まりました。
私は蚊帳の外です。
一応、私のことなんですよね?
ちょっとは私にも話を振って欲しいです、寂しい!
私には選択権は無いようです。
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