第2面

朝日が昇り始めるころに、少し遠い隣町へ向かう物売りのおじさんに声をかける。

一日分のパンとバターを買い、井戸まで行って水を汲み家に溜める。

森を一時間ほど歩いた先にある畑に川の水をまき、収穫する。

家に戻り、少量の野菜を置いてから残ったものを持って2時間ほど歩く。

小さな学校と教会にいるカシイさんとマリネア先生に野菜を渡し、肉や魚と交換してもらう。

その後、学校と教会を掃除して少しばかりのお駄賃をもらい、そこからさらに一時間ほど歩く。

海が見え、運よく貿易商の船に会えたら本や新聞、服、マッチ、ロウソクなどを買う。

川に沿って歩き、肉や魚を冷やしながら家に帰るとすでに暗くなっている。

火をおこし、ご飯を作り、温めたお風呂に浸かって、ご飯を食べ、本を読む、そして眠る。




それが僕の変わらない日常だ。




でも、一週間ほど前に井戸から水を汲んで家に運んでいると郵便鳥が家に来て一枚の封筒を落としていった。


それは、五年会っていない双子の兄ファントからのものだった。


内容はシンプルなもので

《10日後に王立情報図書館で会おう ファント》だけ。


その日は、呆然とそれが夢ではないのか本当にファントからのものなのかを考えていた。



でも、こんな辺境に生きている自分が存在を認識されているかもわからない状況で偽のものだという可能性のほうが低いし、素直に受け入れてみるのが幸せな選択のように思えて行くことに決めた。



翌日、貿易商の船で王立情報図書館のパンフレットを買って場所を知り、次の日に飛行船の日程をカシイさんに教えてもらった。


つまらない生活に変化が訪れたことは喜ぶべきことなのかもしれない。

でも、長年顔を背けてきた【家族】という問題を直視しなければならない状況を楽しむことはできなかった。

だから、カウティアンへ向かうこの飛行船に乗るべきであったか、いまだに不安や葛藤はある。



いつの間にか、飛行船は出発し窓から見える景色は変わっていた。


5年前、ファントも同じ景色を見たのかな。


苦しいのか、切ないのか、鬱々とした感情はいつから僕の胸にたまっていったのだろうか。

問うても仕方がないのに、問わずにはいられない。

考えてみれば、そんなどうしようもないことを無意識に封じ込めて毎日を過ごしていたのかもしれない。



眠ってしまったようでけたたましい鐘の音で目覚める。



《カンカンカンカンッ!!終点のカウティアンでございます》




ぼやけた頭でその言葉を理解すると、立ち上がる。


よくよく耳を澄ましてみると、にぎやかな声が聞こえてきた。


慣れないことに戸惑いつつも出口へと歩みを進める。


乗務員の男に切符を渡す。


「気を付けてくださいね。この都市はいろいろな問題を抱えていますから」

警告なのか、そうぽつりと言葉を投げかけられ気持ちが引き締まる。


「ありがとうございます」


そう返すと乗務員はにっこりと微笑み、

「この度はご乗船、誠にありがとうございました。またのご利用を心からお待ちしております。よい旅を」

そう言った後扉はしまった。


降り立った場所は大都市カウティアン南部、カムジェッカ街。


飛行船に背を向けて歩く。


行き交う大量の人間、所狭しと並ぶ建物、騒音と化す人の声。


平穏と静けさの中で生きてきた人間にとっては窮屈と言える場所であり、同時に全てが新鮮で憧れる場所であった。


この街は疲れる、でも毎日変化が絶えないのだろう。


どうしても自分の過ごしてきた場所と比較してしまう。


そんな悠長なことを考えている暇はない、早く宿を探さないと。


すでに、日は沈み始めていた。






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