第二話
家へ帰ると、俺は白鬼会のことを報告しようと考えた。
危険が伴うことがわかっていたから、反対されるかもしれないと思っていた。だから俺は、家を出る段階では黙っていたのだ。
けれど、そのうちどうしてもバレてしまう時が来るだろうし、危険が伴うとわかっているのなら、むしろ報告しておくべきだとも考えた。
出来るだけ、急な心配はかけたくない。
しかし、どのタイミングで言いだせばいいのか迷った。
俺はいつもこうだ。レイラの時だってそうだった。
結局、夕飯を食べている時に言いだすことにした。結果、俺の両親は驚いていた。
しかし、反対はされなかった。レイラのことを知っているから、ということもあっただろう。だけど何より、俺がやりたいのなら、と俺の気持ちを尊重してくれたのが嬉しかった。
頑張ろうという気持ちが増してくるようだった。
寝る前にはレイラにも今日のことを報告した。
もちろん、本物のレイラじゃない。
俺がレイラにあげたものと同じ、玩具のペンダントだ。これそのものはレイラにあげたものではないが、同じものということで形見にしている。
……いや、形見にしているつもりだが、本当のところはそんなつもりじゃない。
俺はまだ、レイラがどこかにいる気がして仕方がないんだ。
亡骸をこの目で見るまでは、死んだなんて絶対に信じられない。もしかすると、カルロスさんもそんな想いだったからこそ、レイラの話をしなかったのかも知れない。思い出のように語ると、まるで故人を偲んでいるようで、それが死んだと認めているようで嫌だから。
俺自身も、今は姿を見ることすらできなくても、同じ物を持っていることで繋がっている気がしていた。
気休めなのかもしれない。
それでも、レイラを忘れてしまうよりはよっぽどいいと思っていた。
俺が白鬼会の一員となってから数日後、とうとうその日はやって来た。
そう、奴が、霊羅が街に襲来したのだ。
街中にはあの時と同じサイレンが鳴りだし、避難警報が発令された。あの時やそれ以前では、敵国が襲撃してきた時の警報だったらしいが、そのために使用されたのは俺が今まで生きてきてあの日の一度だけだ。今では完全に霊羅襲来の合図となっている。
高校から自転車での帰宅途中だった俺は、そのまま街中へと向かってペダルをこぎ始めた。
俺が白鬼会の事務所へ向かっていく中、街は騒然としていた。
俺と同じように下校中の学生、仕事中だったサラリーマン、買い物途中だったのだろう主婦。様々な人たちが、それぞれの避難場所に逃げているようだった。
だが避難場所といっても、みながそこへ逃げるわけじゃない。
敵の性質として、ある程度の周期で現れるのは分かっているのだが、細かい時間まで判明しているわけではない。そもそも決まっているのかも怪しい。早朝に現れることもあれば、夜中に襲ってくることもある。当然、避難所に逃げている時間が無い場合もあるため、基本的に皆は近場で身を隠せる場所に避難するか、家に籠るしかないのだ。
しかし霊羅が現れる時には、必ず黄昏時のような鮮やかな橙色の空になる。どの時間帯であっても必ずだ。それを合図として理解しているから、逃げ遅れるような人はそうそういない。
とはいえ、隠れようとも敵は襲ってくる。見つかればお終いだ。
だから俺たちのような、白鬼会の力が必要というわけだ。
事務所までようやくたどり着くと、自転車を投げ捨てるようにして、階段を駆け上がった。
「駒川先輩!」
扉を開けると、ちょうどそこに先輩がいた。が、やはり緊急時だからだろうか、何やら急いでいる。
「道人か。待ってたぞ!」
「俺は何をすればいいんですか!」
「いや、今日はお前も隠れていろ。今回は霊羅の出現位置が近すぎた」
「先輩も戦うってことですか!?」
「そういうことになるな。だから道人を連れていくわけにはいかない。今日は大人しくしているんだ。な?」
俺の肩をぽんと叩くと、駒川先輩は出ていってしまった。
すでに白鬼会の皆は行ってしまったのか、事務所に残されたのは俺だけになった。
どうやら、俺に避難していろと伝えるため、駒川先輩だけは残っていたようだ。
「くそっ……」
大人しくなんてしていられるか。
駒川先輩にはああ言われたが、敵を前にして隠れているなんて嫌だ。中学の三年間、俺がどんな気持ちで過ごしてきたことか。
ブラインドの隙間から外の様子を見てみる。
ちょうどここから霊羅の姿が確認できた。
街のどのビルよりも高い巨大な体が、街の上を我が物顔で歩いている。足音も揺れもない。静かに存在しているあれが、不気味で堪らなかった。
霊羅のすぐ傍にはあの山が見える。レイラがいなくなってからというもの、俺はあの山に近付きすらしていない。
思い出してしまうのが怖いから、とかそういうことでもなかった。単に、今まで一緒に行っていたレイラがいなくなってしまったから行かなくなった。それだけだ。
その思い出の山の近くにあいつがいるとなると、当然許せなかった。
どこまで俺たちの生活をめちゃくちゃにすれば気が済むんだ……!
恐らく、今回は橋の向こうに敵が現れたのだろう。
先輩は霊羅の出現位置が近すぎたと言っていた。もしかすると、逃げ遅れてまだ避難できていない人たちがいるかもしれない。俺はそうした人たちを助けよう。
自分に出来ることからやってみるんだ。
そう決めると、俺も山の方へ向けて急いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます