第四章: ハセガワ

第13話: 8-1: ハセガワ1

 「勝ち逃げか? ジェフリー」

 バルで飲んでいるついでに、何回かカードに付き合った。まぐれだが、少しばかり勝っていた。もう少し遊ぼうかと思っていたところに、後からハルダーソンにつつかれた。

 「なんでここに来ているのか忘れるなよ、ジェフリー」

 そう、軽い探索のためにデュカスとタックマンから少し遺物を借りに来ていた。

 「わるいな。用事があるんだ」

 カードで遊んでいた連中にそう言い、席を立った。

 「勝ち逃げか? ジェフリー」

 その言葉に軽く手を振り、ハルダーソンとバルを出る。

 多少飲んでいたこともあり、軽く勝っていたこともあり、まぁ気分は悪くない。鼻歌が出る程度には。


 2、3ブロック歩いたところで、後ろからいくつかの足音が聞こえた。走っているようだ。なぜ夜中に走っているのかは知らないが、面倒にまきこまれないよう、いくらか横に寄って道を空けた。ハルダーソンに軽くぶつかったが、ハルダーソンも横にずれる。

 一人、脇を走り抜けて行った。

「何だありゃ?」

 ハルダーソンを見るが、奴も首を振っていた。

 と、突然突き飛ばされた。

 足で踏ん張って体を立て直し、今度は二人が走って行った方向を睨む。

「何だありゃ?」

「さてな」

 ハルダーソンはやはり首を振っていた。

 それなりに良かった気分が、何となく台無しだ。ぶつぶつ言いながらしばらく歩いた。

 銃声が何回か響いた。

 ハルダーソンと顔を見合せ、銃声の方に急いで足を進める。

 ここだろうという路地を曲ると、一人の男が倒れていた。服装から、最初に俺の横を走っていった奴だろうと思う。辺りを見回すが、他に人影はない。俺を突き飛ばして行った連中がやったのだろうか。

 ハルダーソンは既に膝を立てて、倒れている男を見ている。

「こりゃぁ、駄目か……」

 ハルダーソンがそう言った時だった。倒れていた男は急に何回か咳をし、口から血を吐き出した。ヒューと、息を吸う音がした。男は腕を地面につき、体を起こそうとしていた。

 男は四つん這いになり、辺りに目をやった。

「俺なら大丈夫だ」

 上体を起こし、あぐらをかき、呼吸を整えていた。

「この街の学院に行きたいんだが。どこかな?」

 その様子を見ながら、私はハルダーソンと顔を見合せていた。何かヤバそうな雰囲気だ。連中とつるむようになってから、どういうわけかヤバそうなことに巻き込まれることが多くなったような気がする。ただの偶然か。ヤバそうなことだとわかるようになったからか。それとも、少しばかり世界のことを知った人間には優先してヤバそうなことが降り掛かるように、世界のルールができているのかもしれない。

「んー。俺たちも学院に行く途中なんだ。一緒に来ればいい」

 男はやっと立ち上がっていた。

「その格好は何とかした方がいいな。穴はともかく、血がずいぶんついてるぞ」

 その男は、奇妙なものを見る目でこちらを見ていた。こういう格好の男を、それだけでなくこういう格好にもかかわらず立っている男を目の前にして取り乱してもいないというのは、普通じゃないかもしれない。

「そういうの、慣れてるんでね」

 男はまだ自力で歩くのは大変そうなので、私とハルダーソンが肩を貸して足を進めることにした。デュカスの所に行くのがいいだろう。どうせもともとそこが目的地だったし。

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