第12話: 7-3: タイラ教授3

 バルを出て、聞いていたホテルの横にまた来た。人はいないようだ。ハンチング帽をかぶり、リンカを起動した。

「位置特定 起点-私 パイプ ティー 別名 私 パイプ 探査 -方法=電波 -起点=私 -範囲=半径5km パイプ 表示 -視点=地下 -視点範囲=-10m -対象種別=空間 -表示方法=視覚 パイプ ティー 別名 地下道 パイプ 合成 -対象=マップ,地下道 実行」

 そう、小さな声でささやいた。

「ピン、ピ、ピ」

 頭の中で音が鳴った。

「探査可能位置まで5分」

 頭の中にその声が聞こえた。少し衛星の位置に問題があるようだ。

 目の前の壁に這うツタを眺めていた。昼に見た時には、本物のツタや葉のように見えた。だが、今は葉が閉じている。つい、一枚の葉を掴み、広げてみようとした。

 パキと音がし、葉の葉脈のように見えるところから片側が取れた。その断面を見ようとしたが、暗いためによく見えない。

「ピン」

 また頭の中で音がした。それと同時に、地下の空間と思えるものが地上の地図に重なって赤く視覚に割り込んできた。

「保存 -対象=視覚 パイプ 合成 -指定方法=ジェスチャ パイプ 命名 地下道 実行」

 そう言って、割り込んでいる視覚情報上で、出入口と思える箇所を、折れた葉を右手の小指で掌に押し付けながら、人差し指でいくつか指でつついた。ハンチング帽を取り、ジャケットのポケットに葉の断面を入れる。近くに一つ入口の可能性のある箇所がある。橋のある場所の近くだ。


  ****


 一旦学院に戻り、ランプを持ってその場所へと行ってみた。

 あたりを見て周ると、最近いじったらしい箇所が見付かった。穴が開いているが、これは立っては入れない。なるほど、土で汚れるわけだ。他に方法があるわけでもなく、仕方なく腹這いで頭から穴に入っていく。


  ****


 誰かがいる。音がした。誰だ? ベッドに入ってさして時間も経っておらず、まだ寝入っていなくて助かった。

 そう思った時、突然私の上に何かが飛び乗って来た。

 何だ、これは…… 猿?


  ****


 穴はそれほど長くなかった。すぐに地下道に出た。頭から入ったが、地下道の床近くに穴が開いていた。

 地下道で立ち上がると、ジャケットのポケットからリピータを一枚取り出し、穴の中に向けて軽く放り出した。帽子をかぶり、リピータを起動する。まだ穴の近くだかなのか、それともリピータが機能しているのかはわからないが、リンカも機能しているようだ。

「表示 -対象=地下道 実行」

 視覚に先程保存したマップが表示される。それを辿りながら、何枚かのリピータを置き、ホテルの方へと地下道を進んだ。


 確かに棺と言えそうな箱があった。そこに緑と茶色が混ざったツタのようなものが繋がっている。蓋は簡単に開いたが、中には何も入っていない。おそらく数十cmから、大きくても1m程度の何かが入っていたようだ。だとしたら、中身はどこにある?

「タイラを代表者にさせることはできない」

 バルで聞いた声を思いだした。

「ピン 対象-タイラ パイプ 表示 方法-マップ 実行」

 タイラ教授の家の場所に、赤い点が光る。

「やられた」

 そう思ったが、遅かった。赤いということはその場所で対象をロストしている。タイラがおかしな地下室でも作っていない限り、タイラの自宅でロストということはないだろう。そしてタイラ教授から地下室の話などは聞いたことがない。


  ****


 翌朝早く、騒音で目が覚めた。

 学院に行き、しばらく経つと、警察がやってきた。タイラ教授が自宅で死んでいた。ヒューバートと同じ状態だったようだ。

 スミス教授が行方不明となり、クロダ教授が亡くなり、そしてタイラ教授も亡くなった。スミス教授とクロダ教授は事故だ。フィールドワーク中の。まぁ、表向きは。だがタイラ教授はそういうわけではない。

「タイラを代表者にさせることはできない」

 バルで聞いたその声をまた思い出した。なぜ? そこまでして、なぜ?


  ****


 昼になり、あのホテルの横に行ってみた。ツタのように見えたものは、枯れているように見える。思い出し、ジャケットのポケットに手を入れると、折れた葉であったものが指に触れる。だが、少し触れただけでバラバラと砕けた。

「タイラを代表者にさせることはできない」

 これを誰がどこで手に入れたのか? そしてなぜ? 棺の中に何があったにせよ、そう簡単に手に入るものではなかろう。それを使い捨てのように使うほどのことなのか?

 ジャケットを脱ぎ、慎重にポケットから葉の残骸を、テーブルの上に用意した紙の上に取り出す。顕微鏡を棚から取り出し、残骸を覗き込んでみる。昼に見たときには気付かなかったが、金属に似た光沢があるように思える。緑色だったときにはさして気にならなかった。だが、茶色になった今は、枯れた植物の色とは異なる金属に似た光沢がある。

 これは、光を電気に変換するというものだろうか。だとしたら、棺に入っていた物がそれを使ったのかもしれない。


  ****


 夜になり、また橋のところへと行ってみた。地下道に入ってみたが、棺はなくなっていた。

「タイラを代表者にさせることはできない」

 誰が? なぜ? タイラ教授は何に関わっていたのだろう?


 家に帰り、事の顛末のログをアップロードしておいた。タックマンにも共有許可を出しておく。

 マックスに状況を話すと、ツタはおそらく生物模倣をした太陽電池だろうという。そして棺には、攻撃用のロボットだろうとも。

 ますますどういうことなのかわからない。

「ところで、そこのキャンパスにはユーザは君しかいなくなったな」

 確かにそうだ。指摘されるまでそこまで気が回らなかった。この場合どうなるのだろう? 他のキャンパスから教授が来るのか? 若僧が代表を任せられるとも思わないが。


  ****


 学院のこのキャンパスでは、関連する教授が全員いなくなってしまったため、私がクロダ教授の講座を引き継ぐ形になった。そのために、少し早めかもしれないが私は准教授になった。学院のユーザ内では教授扱いとなった。キャンパスの代表者としての承認も、学院と教会の両方から得た。あれよあれよと私が戸惑っている間に、そういうことになってしまった。

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