第二章: 修道会

第7話: 6-1: 修道会へ1

 クロダ教授から頼まれ、馬車でもう二週間の旅になる。

 同行しているのは、何年か一緒に仕事をしている連中だ。修道士が一人、元ハンターが二人。計四人のチームだ。そして今回はもう一人。私がいるキャンパスからではないが、学院からアーサーが一緒に来ている。私の先輩格だが気さくな人だ。タックマンは、私がユーザとなってからしばらくして、「均衡のため」と教会が承認を求めてきた人物だ。ハルダーソンとジェフリーは、以前の仕事でたまたま実際の世の中を知ってしまい、そして興味を持ってしまった。まぁ、半分くらいは、私やタックマンと行動を共にしていれば、売り払える物や情報が見付かるからというのが動機にあると思うが。

 だが、二週間の旅にハルダーソンとジェフリーがいてくれるのは本当に助かる。二人が作ってくれる食事は旨い。私はまともに料理できないから他の三人からはいつも手を出すなと言われている。タックマンは修道士だからなのか、いつも質素な料理を作りたがる。だからハルダーソンとジェフリーは手伝いしかやらせない。


 いいかげん旅にも疲れていたが、夕方近くになり、やっとのことで目的の街が見えてきた。私たちは街外れに馬車を停め、ジェフリーに留守番を頼んで街の中への入っていった。私はハンチング帽――もちろんリンカが仕込んである――をかぶり、アーサーはアポロ帽――もちろん同様だ――をかぶり、タックマンはフード――言うまでもない――をかぶった。ハルダーソンはどことなく落ち着かなげに、脇に手をやっている。銃を確認しているのだろう。それにバックパックにもこそこそと手をやっている。いつも落ち着けと言っているのだが、事が起こる前に装備を確認すると言ってやめようとはしない。そういう習慣になっているのだろう。


 街の中心のロータリーには広場があった。行き交う馬車もさして多いわけではなく、ロータリーの中の広場には簡単に入れる。こういう所には噴水があったりするものだが、ここには噴水ではなく誰かの像が立っていた。

 その像の前に一人の、中年かもう少し年のいった男と、その左右にほかに十人ほどの男女が立っていた。真ん中の男は髪も長く、髭も伸ばしっぱなしだ。こういう状況でなければ、威厳があるように見えなくもないだろう。ただ、その男も、左右の男女も、柱に縛りつけられている。

 そして、その周辺には何十人かの、おそらく街の住人たちがいる。口々にわめてたり、あまり穏かな様子ではない。

 縛りつけられている連中と、住人たちとの間には、一人の牧師らしい男が立っている。あまり穏やかではない住人を、縛りつけられている連中に近付けないように頑張っているようだ。

「ちょっと遅かったかな?」

 アーサーが額を掻く。

「かもしれませんね」

 私とタックマンは溜息まじりに答えた。

 そう言ったとき、突然牧師と目が合った。牧師は顔を明るくし、人々をかきわけてこちらに速歩きで進みはじめた。その様子を見た住人たちも、一旦騒ぎを静め、牧師を目で追い、そしてこちらへと視線を向けた。

「あぁ、良かった。やっと来ていただけた。異端審問員の方々はどちらでしょうか?」

 何年かタックマンとつるんでいるし、教会に私が出向くこともあるから知っているが、牧師が想像しているであろう異端審問員なんてものは存在しないのだが。なんで牧師が異端審問員なんてものがあると思っているのだろう。もっとも、この牧師に限った話ではなく、異端審問員の存在は広く信じられている。実際のところは、審問の対象となるものがどのように、そしてどれだけ真実をしっているかを調べ、その上で必要なら教会か学院の一員としてやっていける方法を探るのが仕事だ。スカウトのようなものかもしれない。仮に対象が教会にも学院にも属さないとなれば、まぁかなりの事になるが。そういう例はまずない。「多くの資料を読めます」と癒えば、まず間違いなく承諾するのだから。そして、牧師も私たちがその異端審問員だとは思ってもいないだろう。学院からは私とアーサーがいるし、ハルダーソンもいる。この面子を見て異端審問員だとわかったら大したものだ。

 タックマンが一歩前に出て、教会独自の挨拶をする。手話か、あるいはそのようなものだ。これだけは教会も教えてくれない。タックマンも教えてくれようとはしない。こちらも深くは尋ねていないが。

「審問員の皆さんは少し遅れて到着します。私たちは、先に来て様子を見てくるようにと頼まれまして」

 その言葉を聞くと、牧師はガックリと肩を落した。うつむき、しばらくボソボソと独り言を呟いてから顔を上げた。

「では、皆さんにお願いがあります」

 左腕を伸ばし、広場を指差す。

「異端審問員の皆さんが到着されるまで、あそこに縛りつけられている人たちを教会に連れて行きたいのです。しかし、この街の人たちがご覧のように興奮してしまいまして。私一人では何ともできないのです。お手伝いをお願いしてもよろしいでしょうか?」

 断わる理由はない。というよりも、連中の方に用事がある。

「よろこんで」

 タックマンはそう言うと歩を進めた。私たちもそれに続く。

 人集りの中に入ると、タックマンが声を張り上げた。

「この後、異端審問員の方々がいらっしゃいます。この者たちについては、教会にて審問員の方々が厳しく審問をなされます。罪があれば、罰を負うことになります。皆様に平穏がありますよう」

 その言葉を聞くと、住人たちは安心と不満が入り交じった様子で広場を離れて行った。

 ともかく、縛り付けられている連中を柱から離し、使われていた紐を使って両手を縛り、腰で数珠繋ぎにして教会へと向かうことにした。もっとも、教会は広場のちょうど向こうなので、さして歩くわけでもない。牧師にしたら、自分の教会の目の前であんな騒ぎが起こっていたら、口を挟まないわけにもいかないだろう。

 教会には牢屋があるわけでもなく、しかたなく数珠繋ぎの連中は馬屋に押し込んでおいた。ハルダーソンにはこちらの様子を見ていてくれるように頼むことにした。

 教会の食堂で座ると、牧師がお茶を淹れてくれた。これで落ち着いて話ができる。場所が教会なのだからタックマンにまかせるが。

「連絡は受けていましたが… それにしても一体どういうわけであのようなことになっていたのでしょう?」

 牧師がゆっくりと話した。連中の教祖、真ん中に縛りつけられていた髪と髭を伸ばしていた奴は「古き時代の悪魔が蘇える」と言っていたのだそうだ。それは問題ない。「正しい者は空の城に挙げられ、永遠の命を得る」とも言っていたらしい。それも問題ない。そして「現在の教会と学院は共謀して世界の人々の目をその真実から逸らし、自分たちのみが秘術をもって空の城に行き、永遠の命を得ようとしている」とも。ちょっと無茶が入ってはいるが、まったくの出鱈目でもない。それほど良いものではなく、むしろ肩身が狭いとは思うが。「教会と学院は共に、地上に残る古き時代に悪魔を封印した場所を暴き、その悪魔たちを自分たちの手下にしている」とも言っていたらしい。表現はともかく、これもまったくの出鱈目というわけでもない。

「彼らのこのような言動は、教会と学院、そして現在の社会そのものを混乱させる言動になってしまっています。幸いにも、ほとんどの人は彼らの言葉には耳を貸さないが、中には彼らに共感し、行動を共にする者もいる。そういう者は家や街から離れ…」

 牧師はしばらく口を塞ぎ、それからお茶を飲んだ。

「それで異端審問員の方々はいつごろ…」

「そうですね。おそらく2、3日中には到着すると思います」

 タックマンはお茶を飲んだ。

 私もお茶を飲みながら、修道士の脇を小突く。アーサーは、どちらかというと渋い顔をしている。アーサーはどちらかと言えば探索は好みではなく、ネメシスや結社、帝国を相手にする方が好きだからだ。だからこそ、もし占拠している連中がそういう奴らだった場合を考えて、アーサーに来てもらったのだが。


 牧師が用意してくれた夕食を撮り、ハルダーソンとともに教会の中の客用寝室に入る。例の連中は、縄からケーブルに変えて馬屋に繋いだままだという。ジェフリーは「こっちの方が落ち着く」と、馬車に残るそうだ。

「今回は当たりかもしれないな」

 私は、少し離れて窓際に座っているアーサーは放っておいて、タックマンを見る。

「何が残っていて、彼らが何を見たのかはわかりませんが。確認が必要ですね」

「ってことは、何か残ってるってことか? そりゃありがたいね」

「あまり期待するなよ。本なんかあったって売れやしないんだから」

 実際、本があっても買うような物好きは稀だし、何よりアーサーと私とタックマンがハルダーソンから取り上げてしまうだろう。

「そん時は、あんたらに買ってもらうさ」

 ともかく、明日、連中の本拠地に行ってからの話だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る