第6話: 5-1: 第三世代より

 私たちは第三世代だ。第一世代、第二世代、そして私たち第三世代の犯した過ちについて補足しておこう。


 知性革命が大きな運動となったことは、全くの予想外だった。科学技術、いや知識を否定する運動があれほど大きなものとなるなど誰が予想できたものか。ダーク・キューブにも予測できなかった。

 思想。そう、思想だけは否定されなかった。ただし、その思想は「知性を否定する」というものだったが。いや、彼らに言わせれば、それこそが知性の証ということだった。まぁ、無闇な変化――進歩とは言わないでおこう――を求めないというのは、思想としては否定されるものではないだろう。変化を追い求めた結果が審判の日であったと言うなら、その思想を一顧だにせずに否定することも出来ないだろう。

 だが、第一世代の予想を超えていたのはその後だ。何もかも否定し、何もかも壊し、何もかも燃やす。知性革命がそんな行動に出るとは誰も予想できなかった。燃やすことだけについて言えば、確かにそれは必要でもあった。寒い季節がずいぶん続いたのだから。第一世代が認めたユーザの数はあまりにも少なかった。いや、それも確かなのだが、生き残った人類のほとんどが知性革命に参加するなどと誰が予想できただろう。第一世代のユーザが知識と技術をかき集めようとしても、とうてい間に合わなかった。ただ、個人所有の本だけでも多少なりとも保存しようとした人々がいたのは幸いだ。

 学院は、まさに知識の砦として、真っ先に襲われた。図書館も。だが、教会は比較的ではあるものの破壊を免れた。

 第一世代は、結果として知性革命に敗れた。

 放射能の汚染地域が広かったのは、皮肉にも幸いだったのかもしれない。


 続く第二世代。彼らは焦っていた。第一世代の失敗を見ており、知識の保全と回復を焦ってしまった。

 知性革命がまだまだ続く中、知識と技術の復元を急いでしまった。

 知性革命に参加している者に、スレートで大記録システムを用いての通信でも見せることを想像してみればいい。その場でスレートは叩き壊され、それを試した者は殴り殺される。まさにそういうことが起こった。

 擬似人格もダーク・キューブも、知識と技術を見せることで、人々の興味が沸くはずと予測していた。だが、知性化運動の前に、そのような行為は無意味だった。

 ここで、教会はうまいやり方を考えだした。秘蔵されていた本などを教会に提供させようとしたのだ。それらを隠している――あるいは隠していた――ことは罪である。教会において処分することにより――もちろん実際には処分などせず、保存するのだ――、その罪は赦される。これは成果を挙げた。


 そして私たち第三世代だ。

 学院に所属するユーザは、第二世代において激減した。なぜだかはわかるだろう。学院には教会が持っていた経験はない。弾圧の経験も私たちにはなく、知識と知性を悪しきものと考えた経験もなく、それがどういうものであったとしても知識を守り続けるという経験もない。そして、スレートを見せればと考えたのは、学院のユーザであった。その結果がどうであっても、それでもわかるはずだと繰り返したのも学院のユーザだった。結果として、学院そのものの存続も危うくなり、学院に所属するユーザも途絶えかけた。

 そこに教会と教会に所属するユーザからの申し出があった。

 「いろいろな違いはともかく、知識と技術を保存し、いずれは復元したいという考えは同じはずだ。ならば教会が君たちに居場所を提供する用意がある」

 断る理由もなく、断ったとしても学院を維持できる希望もなかった。私たちは申し出を受け入れた。大戦争以前にも、いやそれよりはるか昔には、教会こそが知識と知性の砦だったこともあるのだ。ならば、そのようなあり方を否定する理由もないだろう。

 これは、私たちの過ちではない。少なくとも、過ちではないと考えている。


 私たちの過ちを話そう。それは第二世代の過ちに近いものだ。教会のユーザも、元学院のユーザも同じ過ちを犯した。

 教会の内部においてとは言え、私たちは大記録に基づく知識、そしてそれらから復元した知識と技術を、自分の名前で発表した。それは、大戦争以前の人の名誉を奪う行為だ。私たちがそれを発見・発明したと宣言することが許されるのだろうか?

 そこで私たち第三世代は願いを追加する。


 罪の名において願う。過去の人々の名誉を奪うな。

 罪の名において願う。ささやかな――それとはわからぬほどの――助言にとどめよ。

 罪の名において願う。ダーク・キューブを封印した。汝、用いようとするなかれ。

 罪の名において願う。擬似人格を封印した。汝、用いようとするなかれ。


 君たちの未来が、君たちの助力によって拓かれんことを祈る。君たちの未来に幸多からんことを祈る。

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